再開する日常
10メートルほどの岩が立ち並ぶ岩石地帯にて、二人の戦士が宙を舞い、ぶつかり合っていた。
紫の髪の戦士、ラオンは相手と一気に間合いを詰めては蹴りを放つ。
金髪ツインテールの戦士、れなはそれを両手で払って防戦に持ち込んでいた。
吹き飛び、吹き飛ばされる度に白い衝撃が生じ、強力な力がぶつかり合うなか遠くからは金髪で二つ編みの幼い少女、れなの妹のれみが観戦していた。
「帰って来て早々戦いたいって…全くあの馬鹿姉貴」
半ば本性を見せつつブツブツと呟くれみは姉の間抜けぶりに呆れていた。
異世界から帰るなり、いきなり戦いたいとせがんだのだ。もっと他にする事ないのかと座り込むと、れみの元に緑のサイドテールに緑のワンピースの女性が歩いてきた。
葵だ。
「暇そうねれみ」
「だってお姉ちゃんずっと戦ってるんだもん」
退屈そうなれみに小さな笑みを浮かべ、折角なので葵も観戦してみる。いつまでたっても変わらない二人に、れみとは対照的に葵は安心する方だった。
「ねえれみ。これで終わったと思う?」
葵はあの名無しの魔王との戦いを思い出していた。
ナスビに力を奪われた後、気絶していた魔王。
…勇者アメジスト。
「…れみはどう考えてる?アメジストの件」
「いや、その、馬鹿だなぁと」
れみらしい答えに葵はまた笑い、座ったまま背筋を伸ばす。
「そうね。いくら力が欲しかったとはいえ魔王の力なんて。到底正しい判断とは言えないわ。…エメラルドの事もまだよく分かってないけどね」
葵の脳裏に光るあの石。
大昔世界を幾度となく救った勇者エメラルドの魂の欠片。
「…とりあえずアメジストの事は後にして、今私が一番気になってる者…」
葵が一番気になってるのは魔王になってたアメジストでも本当の姿を隠していたナスビでもない。
「…リューガよ」
リューガ。魔王の配下にいたあの謎の男だ。
道化師の格好をして世を回り、時々魔王と共に現れた彼は一体何者だったのだろうか。そういえばリューガだけ正体を掴める物が何一つとして出ていない事にれみは気づいた。
「確かに気になるね。今どこで何してるのかも分からないし」
目の前のれなとラオンがぶつかり合い、落ち合う。
決着はついたようだ。
「…もう少しあの事務所を続けた方が良いかもね」
「あーあ…魔王も消えたし、どこで食ってこうかなー」
そう言いつつも、テクニカルシティの目立たない隅を歩くリューガは大した焦りは見せてはいなかった。とりあえず、近くに座れる場所でもないかと回りを見渡す。
ここはビルとビルの比較的大きな路地裏だ。コンクリートの壁に太陽光が遮断され、薄暗いなかにボンヤリとベンチが無造作に設置されてるのが見えた。
「よっこいせ」
リューガはベンチに腰掛け、足を休める。
しかし、その足を突然掴んできた者がいた。
「おい道化。わざわざこんな所まで来て、まさか俺達に芸でも見せてくれるのかぁ?」
強面な男が筋肉に恵まれた腕でリューガの足を掴んでいたのだ。
よく見ると沢山の巨漢たちが揃いも揃って、リューガを見世物のように見下してる。
リューガは少しも焦らず、黄色の右目に桃色の左目で男たちを見つめ返した。
「そうだな。じゃあこんな芸は見た事あるか?」
リューガは座ったまま、右手を天に掲げる。
何のつもりかと男たちは右手に意識が集中した。
リューガの指が鳴る。
「がぁっ!!!」
リューガの足を掴んできた男の腕が突然もぎ取れ、血が散布する。
ブチイっという、ロープが派手にぶち切れたような音が鳴り響いた。
「あ…兄貴!!?」
両腕を失った男は白目を向き、倒れたまま動かない。
リューガは何事もなかったかのようにベンチに座り直すが、もう一度右手を掲げてみせた。
男たちは恐れおののき、地に膝をついて土下座する。
愉快痛快とばかりにリューガは嫌な笑みを見せ、早速命令した。
「お前らのアジトはどこだ?そこを俺の拠点にしてやるから、案内しろ」
男たちは玩具のような挙動で立ち上がると、リューガを案内し始めた。
「ここです…」
そこはそう遠くない、町から見離されたようなボロボロの施設だった。
何の施設だったかは分からない。取り壊し寸前の所を彼らが発見し、アジトとして占領したようだった。
リューガは思ってた以上の古ぼけたアジトにため息をつく。
「…まあここで勘弁してやるか。礼が欲しいか」
えっ?と嫌らしい笑みを浮かべる男たち。
リューガはポケットに手を突っ込み、しばらく探った後に何かを取り出し、投げてきた。
金だ!宝だ!と判断力を失いきっていた男たちはそれが何なのか確認せずに飛びかかった。
手に取ってから、それは爆弾だという事に気がついた。
「…あっ」
叫ぶ間も与えず、小さな死神は光と熱と共に爆発を引き起こし、街中に豪音を響かせた。
「にしてもきったねえ場所だな。こんな所で暮らしてたなんて、ゴミか」
男たちの亡骸を部屋に飾り、リューガは持ってきたワインを飲み干した。
「待ってろよ。俺のサーカスはこれから始まるんだからな…」




