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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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葵の怒り

「…」

葵は、薄汚れた体を引きずりながら、ひたすら隣町に向かって歩いていた。

背後には二つの墓石。

冷たい風が吹く荒れ果てた大地は、まるで砂漠のようだった。少なくとも葵にとっては…。

口を閉じる事もできず、細い目を見開く事もできず、一晩で仲間たちを失った苦しみをたった一人で背負い続けていた。


そんな彼女の目の前に、誰かが歩いてきた。



全ての元凶…憎むべき者だ。

「やあお見事お見事。よくぞ皆死んでくれたねぇ」


拍手しながらリューガが嬉しそうに笑っていた。


その姿は幽霊のように薄い。どうやら彼の分身のようだ。

本人は、「彼女」との戦いに望んでいるところだろう。


赤い靴を履いて葵の横を通りすぎるリューガの分身。

葵は、もはや彼を殴る気力もなかった。

ただ死んだも同然の顔で遠くを見つめる事しかできなかった。



葵の耳に、何かが砕け散る音が聞こえてくる。

葵の体が、自然に振り返った。



そこには、かかとを振り下ろしたリューガの分身、そして粉々に砕け散った墓石が、無残に転がっていた。

その時、葵の中で何かが切れた。



「…許さない…リューガァァァァァァ!!!」

これをきっかけに、溜まりに溜まった葵の中のリューガへの怒りがついに爆発した。



分身であろうと関係ない。

こいつを、この悪魔を滅茶苦茶なミンチになるまでやらなければ、怒りは収まらない。

…いや、それでももう葵の怒りは収まらないだろう。

普段の冷静な彼女とはまるで別人だった。


緑色の目を光らせながら向かっていき、リューガに猛速度で激しい拳を突きだし続ける。

分身は実体があるらしく、砂煙をたてながら後退していく。

リューガの分身は後退しつつ首を左右に動かすだけでそれをかわしていき、まるで歯がたたない。

「お前がいくら怒っても俺は反省なんかしねえぜ?」

「黙れ…糞野郎がぁ!!」

唸りながら、右足で回し蹴りを打ち込んだ!!

リューガの分身は蹴り倒され、荒野と化した地面に叩きつけられる!


そこは、もはや森と隣町を繋ぐ境界線などではない。

荒れ果てた巨大なクレーターと化していた。

そこには、ドクロやれなの意味のない憎しみが未だに込められているような気がしていた。

それを見ると、ますます葵の怒りは止まらない。

仰向けに叩きつけられたリューガの分身の胸に拳を叩きつけ、更に周囲に瓦礫を放つ。

リューガの分身は擂り潰されそうな勢いで地面に沈んでいき、服は泥で薄汚れていく。



リューガの分身を叩き込んだ巨大なクレーターを見下ろす葵…。



「…このまま死ね」

リューガの分身は地中で何かにぶつかったのか、大地から広範囲に向かって衝撃波が生じた。

相当なダメージが与えられたはずだ。

葵は、ひたすら恐ろしい目でクレーターを見つめていた。


「…甘いな?」

葵の耳に、声が響いた。

同時にクレーターがひび割れ、大地が揺れ動く。

葵は空中に飛行し、危機を悟った。



ひび割れた地面を突き破るように、オレンジ色のマグマが噴水の如く飛び出した!

周囲に飛び散るマグマは、夜の闇を明るく照らし出し、葵の心にも嫌な光が差し込んだ。

マグマと共に地中から上がってくるリューガの分身。

首を鳴らしながら余裕を表しており、その両目は穴が空いたように黒一色に染まっていた。

葵の怒りは縮こまるように恐怖に変わり、後ずさる。


一体何なのだ、何者なのだこいつは…。

葵は、得体の知れないものに戦いを挑んだ事にようやく気づいた。


今の自分では、勝率は0…そう確信したのだ。

リューガの分身はゆっくり降りると、葵にわざと逃げられる程度の速度で接近してくる。

…この時葵は、死を覚悟していたのだ。


いつも冷静で、戦士として沢山の仲間たちを率いてきた葵だが、怖いものは怖いのだ。

多くの仲間を失った挙げ句、こんな絶望の淵に立たされるとは…。








…いや。








それも悪くないと、葵の心が傾きだした。


もしも今こいつに殺されれば、自分も心置きなくあの世行きだ。

あの世に行ったら、またあの明るいれなに会える。

粉砕男に照れるドクロにも会える。

皆の世話係の粉砕男にも会える。

いつも頑固なラオンにも会える。


そうなったら…また皆で過ごせる。

それなら、仲間のいないこの世界で生きていくよりずっとマシだと。



両手を広げ、リューガの分身に近づく。

沈黙がよぎる…。葵は笑顔で、黙ってリューガの分身に死を求めた。




…リューガの分身は、葵の横を通りすぎる。

「お前は、生かしといてやるよ。仲間のいない世界で、これからも仲間を守れなかった後悔を胸に、生き地獄を味わいな」


あまりの仕打ちに、葵の目から涙が溢れる。

リューガの分身はそれをチラリと見て、今にも吹き出しそうな顔を見せると、一瞬にして消えてしまった。





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