安らかなる二人の最期
ドクロの怒りのままに繰り出す攻撃のほとんどは、拳による突きや蹴りくらいしかない。
力は上がってるが、頭脳明晰で観察力も高い葵は、対処できない事もなかった。
受けるのではなく、大袈裟な程に横方向に動いて攻撃を避ける。
飛びかかって殴り付けようとしてくるドクロ。葵はそれを大きく動いて回避する。
地面に手をつきつつ、葵は思った。
こんな戦いでドクロちゃんを攻略する事になるなんて、と。
ラオンが死に、れなが死に、そして次は彼女だ。
空中に飛び上がるドクロの目は赤一色、殺意を全身に満たしてエネルギーを纏う。
紫色のオーラに包まれるドクロ。
魔力が上昇している…このままではこの辺一帯が破壊されてしまう。
葵は地を蹴って飛び出し、空中飛行する。そして、空中のドクロに向かって突っ込んでいく。
「ドクロちゃん…!」
いつものドクロなら、ここで攻撃を中止して回避に専念するだろう。
だが今は違う。
もう戻れない、破壊と殺戮にしか興味のない悪の化身。
葵の拳が、僅かに光る。
かつてのドクロの顔、共に交えた拳、共に過ごしたあの日々。
葵の頭には、れなとラオンの顔も浮かんでいた。
「…ドクロちゃん、さよなら」
ドクロの顔面に叩き込まれる葵の拳。
拳からは凝縮されたエネルギーが一気に吹き出し、白い光が発生した。
ドクロは光に飲み込まれ、憎しみに染まった顔に僅かな驚きを浮かべる。
その際に生じた衝撃波で森の木々が揺れ動き、隣町にまで伝わってきた。
何も知らない隣町の人々は何事かとパニックを起こしている。
最終的に、衝撃波は風に変化して草花を虚しく揺らしていた。
死んだような目をした葵の目の前には、全身から煙を出して倒れるドクロの姿が。
「…倒した」
葵は、かつてない静かな声で、膝をついてただただ地面を見つめていた。
その時…。
「う…ぐぐぐ……」
葵は立ち上がる。
ドクロが、動いたのだ。
うなり声をあげながら顔をあげるドクロ。顔のいたる部分から血を流し、その目は理性を取り戻す事なくやはり憎しみに染まっていた。
葵の拳は、もう震えていた。
(これ以上私たちを…苦しめないで!!)
葵の頭に浮かぶ、リューガの笑顔。
ドクロは、獣のように飛びかかってきた!
目を閉じる葵…。
「…え?」
ドクロからの攻撃は、いつまでたっても飛んでこなかった。
恐る恐る目を開けると…。
「あっ…」
思わず、声が出た。
ドクロの手刀打ちに対し、両手を広げて葵を庇っていたのは…。
死んだはずの、粉砕男だった。
いや、命からがら生きていたのだ。
だがもう彼の体は瀕死。そんな状態でこんな攻撃を食らっては…。
「粉砕男!!」
葵は彼を助けようとするが、粉砕男は何も言わず右手を突き出してドクロを吹き飛ばす。
地面に叩きつけられたドクロ。土砂を巻き上げ、その勢いを物語る。
粉砕男は大きな体でドクロに飛びかかり、渾身の力を両手の拳に込めた。
黄色く輝く両手を掲げ、そして拳をあわせる。
「ドクロ…ちゃん」
粉砕男は、途絶えそうな意識のなか、ドクロに優しい声をかけた。
ドクロは一瞬、本当に一瞬だけ、目を丸くした。
ドクロの体に叩きつけられる粉砕男の拳!!
金色に輝いた拳は、ドクロの全身を衝撃で刺し貫いた!
…ここが二人の墓場だった。
仰向けに倒れ、激しく痙攣するドクロと粉砕男。
「…」
ドクロは、最後の力を振り絞って、体を動かして手を粉砕男の方へ向ける。
それに気づいた粉砕男も、遅くなっていく自分の脈拍を感じながら、左手を突きだす。
二人の手が、お互いに触れあった。
葵は、絶句した。
あれほどの闘志を持っていた二人の魂の脱け殻は、安らかに笑っていた。




