ドクロの変貌
葵はこの事を粉砕男に知らせていた。
パニックになる事を防ぐ為に住民たちには伝えていない。
リューガの事、ラオン変貌の事。
…そして、これから何が起きようとしてるのかも何となく予想がついていた。
「あのリューガとかいう男…詳しい目的は分からないけど、最終的に私たちを殺す気だと思うわ」
「とんでもないやつが出たな…だが、ラオンはグリーン星人のせいだとして、ドクロちゃんはなぜ?」
あっ、と黙りこんで考える葵。
彼らはまだドクロがなぜ暴れてるのかは分かっていなかった。
その頃、ドクロは…。
「お兄ちゃん、私はどうすれば良いの…」
ラオンに刺された傷を押さえながら、彼女は友人に兄を殺され、恋をしていた相手に兄を殺されたと思い込み…全てを失ったような状態になっていた。
森の近くにある崖に座りこみ、夜空を見上げる。
白い星が輝き、ドクロを見下ろしていた。
もういない兄の事を考える。
今すぐ横に彼がいたら、こんな気持ちにはならないのに。
(お兄ちゃんは私を本当に大事にしてくれてたんだな…)
ドクロは、今気づいたのだ。
彼がどれだけ自分を愛していたのか、どれだけ大事にしてくれていたのか。
今となっては、何もかもが遅いのだ。
「…!」
ドクロは背後からオーラを感じとる。
声をかけられる前に振り返り、赤い目でそいつを見た。
またもやリューガだった。
「元気ないな…粉砕男が憎いか?」
彼の偽善に、ドクロはまだ気づいていなかった。
リューガはドクロに近づき、両肩を掴んで彼女を慰めるように語る。
「好きになる人を選ぶべきだったな」
ドクロの目に涙が溜まり、ゆっくり頷く。
れなも粉砕男も信じられないドクロにとって、リューガのこの台詞は大きな助けになった。
「…そこでだ。ドクロ。お前にこれをやる」
リューガはポケットから何かを取り出した。
黒い結晶だ。
ドクロは、これは何かと問う前に、この結晶から放たれるただならぬ力を感じとる。
邪悪だ…。
何だか分からないが、見ているだけでも吐き気を催す程に不快になってくる。
これが何かと知ったところで何もならないだろう…というか、知りたくもない。
ドクロは、何となく遠慮しようとした。
だがリューガはこの結晶をドクロに向けて近づいてくる。
後ずさるドクロ。
「こいつを使えば、心置きなく粉砕男やれなを殺せるぞ」
首を振るドクロ。
ここではじめて、ドクロはリューガの真の顔を見た。
両目を赤くし、口元に浮かべたその笑みは邪悪そのもの。
「分かってるさ。彼らに復讐したいが、お前はまだ躊躇いを持っている。だが、兄の仇討ちはしたいだろ?」
首を振らなくなるドクロ。
「よし…」
リューガは、黒い結晶を振り上げてドクロに叩きつける!!
同時に、結晶から黒い稲妻が放たれ、周囲の空間を振動して歪ませた。
ドクロは、声もでないような苦痛に襲われ、意識がボンヤリと遠くなっていく。
「…れ、れな…」
リューガが結晶を離すと、ドクロは両手をぶら下げたように脱力させ、目は虚ろになっていた。
リューガは、もう遠慮なく邪悪な笑みをドクロに見せつけていた。
「ドクロ、皆を殺せ」
ドクロは、無機質な表情のまま頷き、そのまま夜空を見上げる。
「お兄ちゃん…」
ドクロは地を蹴り、そのまま夜空へ飛び出した。
「頑張るんだみんな!」
粉砕男が先導し、生き残った住民たちを隣町へと誘導していく。夜中に起こされた住民たちはまだ寝起きで今一危機感がないようだった。
あのリューガ…何をするか分からない。
とりあえずここにいては危険だと判断した二人は住民を移動させることに決めたのだ。
森を進んで少しずつ出口に近づき、生えている木々の数が減っていく。
同時に木々の隙間から月明かりがより鮮明に差し込むようになり、遠くにある隣町と、そこへ続く長い道が見えてきた。
「皆!いくぞ!!」
粉砕男が右手の拳を振り上げ、力強い声で渇を入れようとした!
「ぎゃああ!!」
短いが、壮絶な悲鳴が響き渡る。
何事かと住民たちは一気に目が覚め、軽いパニックに。
「皆落ち着け!!」
粉砕男の声と同時に黙る住民たち。
「…!」
列の最後尾にいた葵が、息を呑む。
列の丁度真ん中あたりの一人の住民が、血まみれになっていたのだ。
「だ、大丈…」
葵が駆け寄ろうとしたその時、更なる光景が。
血まみれになった住民の首が、人形のようにもぎ取れた。
膝をついて倒れた彼の頭上には…。
「…ドクロちゃん!!」
機械のような無機質な目をしたドクロが飛んでいた。
手の平を構え、倒れた男に向け続けている。
周囲の住民たちは震え上がり、なかには腰を抜かして動けない者もいた。
葵は散弾銃を向け、ドクロに向かって叫ぶ。
「何でこんな事を…!やめなさい!!」
しかしドクロは無言で葵に向かってくる!
その静かな気迫には、僅かに元のドクロの魔力も感じられた。
(ドクロちゃん…何かに操られてるの?)
葵は急降下してきたドクロを側転で回避し、散弾銃を使ってカウンター攻撃を仕掛ける!
ドクロは無数の弾丸に直撃し、歯を食い縛って地を勢いよく踏み込んだ。
やはり無言だ。
「おらあーー!!!」
粉砕男が、両腕を構えて勢いよく走り抜け、ドクロ目掛けて強烈な体当たりをお見舞いした!
突き飛ばされるドクロ。
「ドクロ!目を覚ませ!!」
粉砕男は震える拳でドクロを殴り付けた。
ドクロは苦悩の表情を浮かべるも、その生気を失いきった目は戻らない。
次に粉砕男は蹴りをお見舞いしてドクロを吹き飛ばすが、これも無意味だ。
何度打撃を食らっても向かってくるドクロは、まるでゾンビだ。
息を切らす粉砕男とドクロ。
葵は住民の避難誘導で戦闘に参戦できないものの、その戦いはしっかり目に入っていた。
ドクロが好意を寄せていた粉砕男に攻撃している…。
その粉砕男もドクロの顔を殴り付けている…。
こんな光景を見る事になるとは…。
住民たちは走り抜けて隣町へと向かっていき、それを見届けた葵は散弾銃を振り回してドクロに向ける。
「ドクロちゃん、私も本気で行かせてもらう…」
自身も参戦しようとしたまさにその時…。
「…っ!何この殺気は…」
全身を叩きつけるような殺気が、葵の機械の心を激しく揺さぶった。
同時に、新たな敵がやって来た事を察知する。
「…ラオン!あんたね!」
遥か上空に、ラオンが飛んでいた。




