憎悪の始まり
「お兄ちゃんめええ!」
ドクロはテーブルの上に並べたコーヒーを飲んで激怒した。
砂糖が入ってないのだ。
苦さのあまり吹き出しそうになり、目の前でニヤニヤ笑う骸骨のテリーを物凄い目で睨み付ける。
白い二つ編みの髪に赤い目、紫の私服に骸骨のリボン。いつものドクロだ。
テリーも全身の骨をカタカタ言わせて怒る妹の顔を堪能していた。
「まあ落ち着けって。クッキーを焼いてやるからよ」
「本当?」
テリーは白い骨の足を動かして歩き、レンジに向かっていく。
そして、かっこつけた感じの低い声で呟いた。
「愛しの彼にもクッキーをプレゼントしてやれよ」
「はああ!?」
ドクロが恋する男…粉砕男の事を言っているのだ。
顔を真っ赤にしながら机を壊しそうな勢いで叩くドクロ。
冷静なテリーはいじりスキルが高いのだ。
ドクロは机に顔を擦り付けながら二つ編みを狂ったように揺らしていた。
「あああ何なんこのお兄ちゃんは!!あああ!!!」
その時。
家のドアが勢いよく開かれる音がした。
「あっ、れな!」
ドクロはれなを見た。
突然の訪問だが、こんな事はよくある。
手慣れた感じの笑顔でれなに向かっていき、今日は何の用か聞こうとしたが…。
「れ、れな?」
顔が、怖いのだ。
いつもなら間抜けな笑顔をヘラヘラ浮かべてるが、この日は怒りと悲しみが入り交じったような、とにかく黒い顔をしていた。
そして、ゆっくりと呟くように発した。
「博士が死んだの。あなたが殺したって聞いた」
ドクロは、自分が殺したという事よりも、博士が死んだという事に声をあげて驚いた。
大切な友人の大切な人が死んだ事に、驚きを隠せない。
ドクロだけではない。すぐ後ろでテリーがレンジの前で硬直したように動かないのだ。
「…え、何言ってるのれな。私が殺した?私は…ずっとこの家にいたんだけど」
「…そ、そうだよね」
そうだ。
あんな得たいの知れない男の言う事より、今まで仲良くしてくれた友人の言葉の方が信用できるに決まってる。
「…どちらにせよ、博士は誰かに殺されたの…」
話を進めようとした時!
「ぐっ!!」
れなの頭に、激痛が走る。
頭を抱えて膝をつき、意識がコマのように回転し始めるような感覚だ。
目の前には慌てだすドクロとテリーがいるが、れなの頭にはある声が響いてきた。
「何を惑わされている?口では何とでも言えるんだぞ?博士を殺したのは、そいつだ」
れなの目に、うっすらと何かが浮かんでくる。
「あっ…」
ドクロの両手だ。
血にまみれ、真っ赤に染まっている…!
れなの頭に、何かが直接入り込んでくる。
真っ黒な感情が。疑心が、怒りが、憎しみが…。
そして殺意が。
「れな、大丈夫か…」
テリーが、頭をあげないれなに歩みより、手を貸す。
れなはテリーの手を掴み…。
「ぐあっ!!」
テリーの腕が、根こそぎもがれた。
関節が砕ける音が、平和な部屋の雰囲気を一気に崩した。
れなは、テリーの腕をもいだのだ。
切断された骨の腕を掲げ、地面に叩き落とす。
その目は、操られているような、虚ろな目だ。
れなは、手の平をテリーに向ける。
テリーは、左手で顔を覆って隙を見せてしまう。
「な、なんだれな!落ち着くんだ!!」
れなの手のひらから放たれる、青い破壊光線!
無防備だったテリーの体を一瞬にして飲み込み、そのまま全身の骨を白い粉に変える。
テリーは、ドクロにも…大切な妹にも光線が飛んでくるのを、削がれる意識のなかで目撃した。
「いもうどよっ…」
テリーは、残っている左手で自身の頭を取り外し、ドクロ目掛けて投げつける!
「いたっ!!」
ドクロの顔にテリーの頭蓋骨が直撃、ドクロは転び、光線が彼女の目の前を通り抜けた。
破壊される天井の瓦礫のなか、テリーの頭は、自身のある物を察知した。
死だ。
何が起きたのかも分からず、テリーは無我夢中でこう放った。
「…俺は最期までお前が好き過ぎたぜ!」
黒い節穴の目に、魔力の涙を浮かべる。
気づくと、ドクロは崩れきった瓦礫のなかで、呆然と空を見上げていた。
「…あっ…」
れなの目に、生気が戻る。
「な、なにこれ…!?」
れなの目の前には…かつて家だった瓦礫の山があった。
自身の右手を見ると、うっすらと白い煙が上がっている。
「え?…う、嘘でしょ?私がやったの…?」
その時、れなは強い殺意を感じ取った。
恐る恐る正面に目を向けると…。
「…お兄ちゃん」
白い髪をこちらに向けたドクロが、瓦礫のすぐそばで呟く。
れなはドクロに歩み寄る。
「ド、ドクロちゃん、何があっ…」
ドクロは、れなの顔を叩く。
…顔をあげたドクロの表情には、静かな怒りが浮かんでいた。
「許さない…」




