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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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魔王軍最強の戦士

「魔王様、勇者エメラルドの石を埋め込んだモンスターを送り込むのはもうやめた方が良いかと」

これはリューガの提案だった。いつもふざけてばかりに見える彼だが、この時は珍しく膝をついて帽子をとり、頭を下げていた。

まあ、黒髪はボサボサで手入れはしていなさそうな髪なのだが。

名無しの魔王は、紫色の巨大な手で、胸からぶら下げた目玉型の宝石を持ち、掲げる。

目玉宝石の黒目の部分がエメラルド色に発光し、部屋全体を照らし出した。

「分からぬのかリューガよ。私はエメラルドを復活させても構わぬのだ」

「何故です?」

名無しの魔王は一瞬俯き、何かを考えたような素振りを見せる。

リューガはその「答え」を既に知っていた。しかし、あえて当てなかった。


「伝説の勇者エメラルドといえ、所詮はただのナイト。名前すら捨て、神をも越えた私に勝てるはずはない」


魔王の赤い目を見るリューガの右目は、青色に輝いていた。

「…そう」



「魔王様」

感情のこもっていない、冷たい声がした。

魔王とリューガが目を向けると、そこには一人の騎士が立っていた。

黒い角のついた目玉型宝石が刻まれた兜、胸にも目玉型の宝石をつけ、体の随所に血のように赤いラインをつけた騎士だった。

「私が参ります」

「…貴様か」







その頃、れみたちは、やはり修行に暮れていた。

今日は空手胴着まで着てヤル気満々だ。

これから来るであろう魔王軍の配下に備え、いつまでもグータラしてる訳にはいかないというドクロの提案だった。

この日はドクロ、れみ、粉砕男の三人。

この間仲直りしたれみとも一緒に、岩の柱が並ぶ荒野で岩に体術をかける修行をしていた。

「はあはあ…」

動かない相手だし、というかただの岩なので何も緊張する必要はないのだが、逆に疲労を感じる修行だった。

生きている相手なら、相手の表情や動きを読んで、そこを狙って高いダメージを与える隙も見つけられる。

でも、この岩場の岩はダイナマイト30個を用意しても傷一つつかなかったという実験結果がある。

この岩を普通の打撃で破壊できた人から帰れる、という色々と酷い物だった。

提案者はドクロだが、本人も後悔しているようだった。

「全然…壊れぬ…!」

さっぱり動じず、鉄のような輝きを放つ岩に、少々苛立ちさえ感じた。


ふと視界を移すと、粉砕男はとっくに岩に大量のヒビを刻んでいた。

嵐のような速度、かつプレス機でもぶつけてるんじゃないかというほどの力の拳だ。

さすが、粉砕男と呼ばれるだけの事はある。

ドクロはそんな彼に相変わらず惚れ惚れしていた。

「くそ!負けないぞ!」

れみはより気合いをいれて岩に飛び蹴りを打ち込もうとした!



その時、全員の全身に、強い魔力の波動が走る感覚が走る。

いわば、強い悪寒だ。

魔力だけでなく、迷いなく突き刺さるような殺気も、波のように流れてくる。


直後、三人が相手していた岩石が突如紫色のオーラと共に爆発した!!

「うわっ!!!」


無数の瓦礫は紫の魔力となって地上に降り注ぎ、着弾した瞬間に爆発する小さな爆弾となった。

伏せながら、ドクロは襲撃者をチラリと睨み付ける。



荒野に佇んでいたのは…目玉宝石のついた兜を被り、口がなく、赤く爛々と光る目、やや黒みを帯びた紫の体を持つ、逞しい体の戦士だった。

戦士は、有機的な容姿でありながらまるでロボットのような無機質な声で三人に挑戦を持ちかける。


「戦え」

ドクロは強気にこう返答する。

「礼儀知らずね。名前を名乗ってよ」


騎士は右手を天に掲げる。

すると、右手を突き破るように紫色の刃をもつ巨大な剣が、彼の新たな腕となって生えてくる。

「私に名前など必要ない。我が主が名前を捨てたのだから、私も名前を捨てたのだ」

同時に剣を大地に叩きつける名無しの騎士。

叩きつけた瞬間に、地表を走るように紫色の電気が飛び散った!!

飛び上がってかわす三人だが、足に僅かに電気がかすり、足先が痺れてしまう。

空中でバランスを崩してしまう。

戦士はそのタイミングを見逃さず、剣を構え直してこちらに猛スピードで接近してきた!

剣を横に振る名無しの騎士に対して、れみは空中でバク転する事で回避する。

だがれみは足が短い。名無しの戦士に蹴りをかまそうとしたが、どうしても届かない。

隙を見せたところへ飛んでくる名無しの戦士の剣が振り下ろされる!

空中にも紫の稲妻が走り、魔力が猛威を振るっていた。

その魔力を全ての意のままに操る名無しの戦士の実力は相当なものだ。

魔力のコントロールに長けたドクロですら、驚愕する。

それもそのはず。

この名無しの戦士は魔王軍最強の戦士なのだ。

ドクロと粉砕男がれみの援護に向かうが、剣の一振りであっさりと弾き飛ばされる。

剣だけでなく、手の平からは魔力を凝縮した紫の光弾を射出し、近づいてきた相手を撃ち落とす。

遠近両方において隙のない完璧な戦闘スタイルだった。

今までの刺客とは違う…れみは、何とかして彼の隙を見つけようとした。

名無しの戦士は三人に剣を向け、剣先に稲妻を走らせて威嚇してくる。

「何をしている?私が貴様らの首を持っていくのは一瞬だぞ」

強敵を前に、三人はより一層気を引き締める。


名無しの戦士の猛攻は凄まじく、三人の判断力を遥かに上回っていた。

前から来ると思えば後ろから、下から来ると思えば上から…三人の予想を遥かに上回る戦略と速さで攻め入ってくる。

あれだけ硬かった岩石は戦いに巻き込まれていつの間にか砕け散っており、名無しの戦士の力の爪痕が残されていた。

地面を握るように手に力を込め、立ち上がる粉砕男。

立ち上がるのに力を意識するほどに力がなくなっていた。

全身に電気が走り、粉砕男の左右にはうつ伏せに倒れたれみとドクロが唸っている。

無慈悲に近づいてくる戦士は名前だけでなく、感情をも捨てたようだった。

ただ目の前の邪魔物を始末する事だけが、彼の考える全てだ。

「どうした?そろそろとどめといこう」



粉砕男は残った力で地を蹴る。

地面に一瞬にして大量のヒビが入る。土砂を巻き上げながら戦士へ向かっていく粉砕男!


「無駄だ」

戦士は紫の稲妻を走らせる剣を振り下ろす!





「少しは、見切ったぜ…!」

粉砕男は振り下ろされる剣を両手で受け止める事に成功する。

目の前の刃にほとばしる稲妻。心臓の鼓動が速くなると同時に、まだ勝機はあると確信した。

戦士は粉砕男に足払いをかけようとするが、粉砕男は剣を持ち上げる事で同時に戦士も持ち上げ、地面に叩きつける!

久々に彼が本気に近い力を発した瞬間だった。

土砂が舞いたち、戦士の紫の体は土ぼこりで汚れてしまう。

「…やるな」

戦士は粉砕男の力を認めたらしく、そのぶん更なる反撃をお見舞いしてやろうと剣を振り回し始めた。



「これより大気に直接魔力を流す。お前たちに避ける事はできまい」

まずい攻撃が来ようとしていた。三人は後ずさり、何も反撃ができない。

近づけば振り回してる剣にぶつかってしまうし、遠距離攻撃も剣に弾かれて止める事はできないだろう。

下手に挑発して何かされたら厄介だ。

歯を食い縛りつつ、せめて両手を顔の前で組んで防御の体制をとっていると…。




「もうそのへんでOKだ、名無しさん」


恐る恐る腕を下ろし、目の前を見る三人。

そこには、敵であるはずのリューガが名無しの戦士を止めている光景があった。

名無しの戦士はそれに対して何も返事はないものの、剣を振り回すのをやめていた。

リューガの名無しの戦士を見つめる目は、何とも表現しがたい、玩具を見る目をしていた。

名無しの戦士は無機質な表情ながらも、その目には確かに何かが宿っていた。

とりあえず、戦いは中止になる事は確かだ。

何故リューガが止めたのかは分からないが…。

「四人ともよく頑張ったな?」

リューガは馬鹿にしたような拍手を聞かせてくる。

苛立ちよりも何を考えてるか分からない不気味さに、三人は表情を曇らせる。


拍手を止め、こちらに笑顔で手を振るリューガは、まさに道化師だった。

そのままリューガと名無しの戦士の姿がかすれていき、幻のように消えてしまった。



その日の修行は中止となり、三人は家に帰って休むことにした。

粉砕男は、剣を受け止めた時にかなりの力を出したらしく、腕を痛めているようだった。

あれほどの実力者が魔王軍にまだいたとは。

「…そろそろ魔王軍も本気のようだな」

三人は、太陽が照らす明るい青空を見上げた。


(…お姉ちゃん一人欠けるだけでも、こんなに違うんだな)

れみは、自分自身に危機感を感じていた。

このままで良いのかと。

このまま弱いままで良いのかと。

横には、大切な仲間たちの横顔がある。


「…」

れみは、拳を握っていた。




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