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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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妹の誇り 前編

「お姉ちゃんは帰ってくる!!」

れみは仲間と喧嘩した。

こんな事はとても珍しい。いつも団結を心掛けているしっかり者のれみが、仲間たちに向かって怒鳴っているのだ。

話題はこの通り、れなが帰ってくるかどうかについてだ。

事務所でテーブルを囲みながら俯く仲間たち。

コーヒーを片手に、粉砕男が答えた。

「れみ。俺達は別にれなが帰ってこないって思ってる訳じゃない。ただ、もしれながこのまま帰ってこなかったら…」

何日たっても帰ってこないれなに、仲間たちは若干不安を感じていた。

最悪の事態に備え、れなが帰ってこなかったらどうするかの話をしていたのだ。

この話だけでも皆は拳が震えるような、決して良い気持ちはなかった。

仲間がこうなら妹のれみはどうなる。

最近れなの事を思い出し、帰りを望む事も多かったし、何より幼い彼女は冷静さを失ってこの話題に全面的に否定的な態度を示す。

勿論皆を攻めたかった訳ではなかったが…れみはこんな事を怒鳴ってしまう。

「皆お姉ちゃんが帰ってこないと思ってるんでしょ…!?じゃあ良いよ!そう思ってもらって!!」

これには仲間もカチンと来た。反論したのはドクロだった。

「れみ。だから私たちはそんな事言ってないでしょ?冷静になりなさいよ。そんな事言って、それじゃあなたが一番れなが帰ってこないと思ってるって言われるわよ?」

弱気に頷く皆。

れみもおかしいがこの意見もおかしかった。れみもれなの帰りを心から望んでるし、それゆえの発言だった。

れみは涙目になり、拳を握って、どうしようもない気持ちになる。

ドクロは自分の発言に気づき、彼女もまた黙りこむ。

部屋の空気が、一気に重くなる…。


「…じゃあ良いよ!」

れみは背を向け、事務所から出ていってしまった。

何も言えない仲間たち…。


リューガに魔王…一気に色々な事態が起きるものだから、皆精神的にも疲れていたのだ。

誰だって疲れれば冷静さを失う。皆の場合、れながいないという事が決め手となった。

沈黙が続いた。



「なんなの皆…」

テクニカルシティの歩道を、れみは一人トボトボと歩いていた。

こうしていると、回りの人々はまるで悩みひとつなく歩いてるように見える。

途方もない虚しさと行き場のない悲しみを抱え、背中が自然に曲がっていく。

元気のない彼女を見て、心配する人も通り抜けていった。

こんなに心に隙を作っていては危険だと分かってはいたが、やはりこういう気持ちはどうにもならない。




…今日のれみは運が悪い。

目の前からあの男が、一般人に紛れて歩いてきた。

リューガだ。

「まずい…」

リューガのピエロの格好は派手でよく目立っているのが幸いだ。

彼の存在に気づかず、横を通り抜けられていたら…考えただけでも恐ろしい。

れみはリューガに会わないように後ろに振り返り、来た道を戻ろうとした…。



「えっ!!?」

恐ろしい事が、一瞬で起きる。

今前にいたはずのリューガが、目の前に現れたのだ!

更に回りの人達は動きが止まり、時間が止まったかのようになってしまう。

空気は冷えていき、リューガは桃色の右目と緑の左目でれみをじっと睨んでいた。その眼光は、光の温かさを感じず、ただただ冷ややかだった。

「悩んでるな。お前の言った事は正しいよ。あいつらはれなが帰ってこないと考えているんだしな」

偽りを口にするリューガだが、れみはその言葉を聞いて何か違和感があった。

何を考えてるか分からないリューガに警戒しつつも、こう聞いた。

「…何でお姉ちゃんを知ってるの?一回も会った事がないのに」

「さあ?な…?」

わざととぼけた言い方をするリューガは、首を曲げて怪しく笑う。

「それより、仲間と喧嘩して今暇だろ?じゃあちょっと付き合ってくれや」

何のつもりだと後ずさる。勿論こいつが何か良からぬことを考えているのは分かる。

れみの顔色を少しうかがいつつ、リューガは宣言した。

「ちょっと山奥で人殺すから俺を止めてみろ」




は?という声が出そうになるれみ。

人形のように固まるれみを見て、リューガはにんまりと笑うと、その場から霧のように姿を消してしまった。

「…!」

伊達に戦ってきた訳じゃない。れみは直ぐ様飛び上がり、町の人々の視線を浴びながら飛んでいった!



一方山では、とある男女の探検家が草むらのなかを歩いていた。

茂みを揺らしながら、時々跳ねるバッタを笑顔で見つめ、平和な一時を過ごしていた。

「ダーリンずっと一緒よお」

「おうハニー、おうハニー…」

イチャイチャと体を寄せあって歩く二人…。

男はどこか迷惑そうだが、端から見ればこれをリア充と呼ぶのだろう。


哀れな事に、ターゲットは彼らだ。

彼らの前から、笑顔で腕を振りながら、リューガがやって来たのだ。

気持ち悪い動きで二人の前に躍り出て、紳士のようにお辞儀をした。

「お二人さん良い雰囲気だねえ。付き合ってるの?」

髭を生やした男の探検家は、直ぐ様変なやつだと分かったらしく、はあ?という声が似合う表情を見せた。だが男よりかなり若い女はそれに照れている。

片想いか…そう察したリューガは目を細めた。

いつの間にか周囲にバッタは跳ばなくなり、リューガは二人に近づいて茂みを揺らす。

「君達に用があるんだ」

「なに?」

初対面で用とは何なのか?

女は特に警戒してないが、男は女を庇おうと片手を突きだしていた。

不穏な空気に吹き出す冷たい風…。

よしよしと笑ってから、リューガはその言葉を口にした。

「お前らを殺…」





リューガは、敵に背を向けたまま口を止めた。

背後に降りてきたのはれみだ。

ギリギリ間に合ったが、ここでれみが到着していなくても、リューガは二人をすぐに殺す気はなかった。

何故なら、れみをここに呼び寄せる理由がなくなってしまうからだ。

「リューガ、来てやったよ。二人を解放しなさい」

ちょっと気取ってリューガを指差すれみ。探検家は何がなんだかさっぱり分からず、殺されそうになったとも知らずに自分達の立場をよく理解していなかった。

ゆっくりと振り替えるリューガは、今の今までとは全く違うオーラが滲み出ていた。

「一人で、か?」

頷くれみ。

嬉しそうに笑いながらリューガはゆっくり歩いて向かってきた。

…もう戦いは始まったのだ。

れみは拳を握り、リューガに向かっていく!


「おりゃああ!!」

気合いの入った声と共に拳を突きだすが、リューガは足を振り上げ、膝でそれを受け止めた!

れみは息を呑む。リューガはそのまま膝から下の足を振り上げる事で、れみの体を蹴飛ばす!

衝撃が背中まで駆け抜け、膝をつくれみ。更にリューガはれみの二つ編みの髪を掴み、引っ張る。

「髪の毛引っこ抜いてやろうか?」

「そ、それだけはやめて!」

れみは手足をばたつかせながら抵抗するが、全く容赦がない。少女の髪を抜こうとするなどこいつの非情さが身に染みる。

リューガのお楽しみはここからだ。

「こんな時、れながいたらな?お姉ちゃんがいたら、どんなに楽かな?きっとここで俺を殴って、お前を救ってくれるだろうな。今はもういないんだけどな!」

二つ編みを引っ張り、れみを持ち上げつつ腹部を連続で殴り付ける!

れみは歯を食い縛りながら答えた。

「今はいない…?お姉ちゃんは生きてる!!」

「確証もないのに、適当な事を言うな。人生経験は俺の方が豊富なんだぜ」




馬鹿にした声にれみは挑発にのってしまう。

拳を振り上げ、反撃を決めようとするがリューガはれみを更に蹴飛ばし、吹き飛ばす。

れみは木にぶちあてられ、木もろとも地面に勢いよく倒れこんだ。

痛みに耐えつつれみが顔をあげると、そこにはもうすでに探検家の姿はなかった。戦いに怯えて逃げ出したのだろう。

ヨタヨタと立ち上がり、両手を構えるれみ。ここで負ける訳にはいかない。

れなの事を…姉の事をあんな風に言われて負ける訳には。

リューガはなめてるのか、中々手を出そうとしない。

走ってまっすぐ向かっていくれみはハッキリ言って無謀だった。

リューガは呆れたように眉を八の字に寄せて笑い、足を突きだした。

無駄のないこの動きは見事に成功。れみは足元を蹴飛ばされて転んでしまう。

「ったく、やけになってんのか?情けない」

立ち上がろうとするれみの手の上に足をおき、嘲笑う。

悔しい事だが、確かにれみは冷静さを失っていた。このまま何もできずにやられてしまうのか…。

れみは言葉にならない悲鳴をあげた。





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