ソードとナイフ
剣は実に有名な武器だ。銀色に輝く刃は長い歴史のなかで星の数ほどもある敵を斬りつけてきたに違いない。
だがそんななかで、剣を異様に愛する者も歴史のなかで現れる事がある。
「ふふふ…」
彼が手に持った剣は、日の光を反射して鈍く光っていた。
一方れみの事務所では。
「ふへー暇だぜ~」
もはや客が来ない前提なのか、れみは玄関前のテーブルの上に寝そべってゲームをしていた。
ピコピコ電子音が事務所中に響き、れみ以外に誰もいない事を沈黙が知らしめていた。
つまらなくなり、ゲームを置く。誰か客が来ないか玄関ドアをじっと見つめる。
そんな彼女の意識ごと吹っ飛ばすかのごとく、バタァンと凄い音をたてて開くドア!
まさか今客が来るとは思っていなかった。テーブルから転げ落ち、床に思い切り直撃するれみ。
額を抑えながら立ち上がると、玄関には赤い球体状の生き物…マルマンが立っていた。
右手には剣を握っており、その怪しい風貌にれみは客とは見なさず身構えた。
しかしそのマルマンはいかにも気の抜けた感じの声で安心させようとこう言った。
「おいらはただのしがない剣マニアですよ」
そいつの名は、ソードマルマンと言った。
彼は世界を回る剣士であり、剣を使って世界の強者と戦うのが生き甲斐なんだそう。
そんな彼が、ここへ何をしに来たのかと言うと…。
「れみ。君の噂は聞いてるよ。でも一つ実に嘆かわしい事があるのだ。それは、君も君の仲間も剣を全く使わないという事だ!」
んな事知るか、という話題だった。
剣を布巾で磨きながら椅子に座るソードマルマンに、れみは少しムッとした様子で言い返す。
「誰がどんな武器を使おうと人の勝手じゃん」
その言葉にソードマルマンは過敏に反応し、机に短い両手を叩きつける。
大事な剣を机から落としてもびくともせず、黒い表情で語り始める。
「良いか?良いか良いか良いか良いか…剣は長いし長持ち、しかも強い…!」
まずい、このままでは丸一日みっちり剣の話で一方的に時間を潰されてしまう。
「剣だと?笑わせるな」
部屋の奥から、勇ましい女の声が聞こえてきた。
コーヒーを右手に強気な笑顔で出てきたのは、ラオンだった。
紫の髪を撫で、香水の匂いを撒きながらラオンはポケットからナイフを取り出す。
「そんな物は時代遅れだ。今はもうナイフの時代だぜ」
「何を!?剣は刃の輝きと共にいつの時代も輝き続けるんだぞ!?」
刃物で何を争ってるのかこの人たちは。とにかくこの争いを止めなければならない。
れみはある事を提案した。
「なら、ナイフと剣どっちが優れてるか比べてみなよ」
言うまでもなく危険な対決である為、外で行われることに。
場所はいつもれみたちが喧嘩する時に使っている、テクニカルシティの隅にある荒れ地。
岩の柱が生え揃っており、この岩はれみたちの攻撃の的となっている。
まさに暴れてくださいと言っているような場所。
ここなら剣とナイフの対決くらい簡単にできる。
ラオンとソードマルマンは向かい合い、荒れ地に活気を与えるような強い風にふかれる。
「こっちからいくぞ!!」
ラオンは、いつも戦ってる時に必ずやる高速ステップで相手に急接近!
足を極力動かさず、滑走するように移動する。
その速度にソードマルマンは一瞬驚いた顔を見せたが、何とその突進を剣で受け止めたのだ!
ラオンの背後に十秒ほど舞っていた土砂が、その勢いを物語っていた。
「…ふっ、どうだ?剣は鋭いだけじゃなく、硬さも一流だ!ナイフは、すぐに壊れるだろ!」
今度は剣の番だと剣を振り下ろしてくるソードマルマン!
だが、ラオンはナイフでそれを見事に受け止める。
長さは剣の勝ちだが、ナイフはそんな剣の猛攻をしっかり受け止めていた。
諦めず剣を振り回すソードマルマンだが、ラオンのナイフは一発も通さない。
「ナイフも使い方次第では剣より長持ちするぜ?」
二人は同時に刃を突きだしあい、お互いに衝突!
火花が散り、同時に後ろに吹き飛ぶ。
まずい、このままじゃ終わらない。れみは両者の力が互角である事に気づいていた。
剣とナイフどちらが強いか、これではラチがあかない。
何とかやめさせないと、日が暮れてしまう。
…とここで上を見上げると、彼女にとっては救世主が現れた。
それは紫の蝙蝠、ナスビだ。偶然頭上を飛んでいたのだ。
恐らくいつもの町の偵察だろう。いつもなら嫌な予感がしていたが、この日だけはこれ幸いとれみは跳び跳ねて彼を捕らえた。
「げええ!?な、何だよ!?」
「ナスビお願い!今だけは力を貸して!」
れみはここで初めてモンスターの「レンタル」なるものを行った。
二人の争いを止めるには、何かしらのハプニングがなければいけないのだ。
始めこそ怪しんだナスビはなかなか貸そうとしてくれなかった。だが、理由を聞くなりそんな事かと若干呆れ気味に交渉成立させた。
「仕方ない…だが妙な真似だけはするなよ?」
ナスビはどこから取り出したのか、モンスターが表示されたモニターを取り出した。
こうして見るとモンスターもなかなか多い。少しモンスターの研究もしてみても楽しいかもしれない…。
適当な事を考えながら、れみはモニターのスライドされていくモンスターたちを見つめていた。
下では相変わらず刃を叩きつけあう二人の戦士。止まる気配はない。
これはやはり、モンスターでも使わなければ止まらない!
ナスビはモニターの緑のボタンを押し、あるモンスターを選択した。
「これでくるはずだぜ」
さて、ナスビはどんなモンスターを選んだのか…考えるのは意外と楽しかった。
「ナイフ…剣からして見ればとるに足らないが、思ってたよりはやるな」
「剣もな。まあ、ナイフの敵ではないがな」
二人は声を掛け合い、一瞬の休憩をとった。お互いの武器の全力を確かめあう為にお互いに渇を入れあうようなものだ。
周囲の岩石の柱は、もうかなり倒壊していた。
「いくぞ!おらああ!!」
振り出しに戻ったかのようにあの動きをするラオン。
ソードマルマンが受け止めようと剣を構える!
二人がぶつかり合うまさにその時、突如空中から何かが土砂を巻き上げて降ってきた。
あまりの不意打ちに吹き飛ばされる二人。砂が顔を打ち付けてくる。
襲撃者が現れたのだ。
ゆっくりと立ち上がりながら現れたのは…3メートルほどの身長のある巨人騎士だ。
両手に大剣を持ち、鎧の表面には無数のナイフが刃をこちらに向いている。
鉄の兜を被り、黄色い目で二人を睨む、得たいの知れぬ騎士…。勿論、ナスビ、そしてれみの差し金だ。
巨人騎士は右手の大剣を振り下ろしてきた!
まず始めに狙ったのはラオンだ。
ラオンは横に跳ねて攻撃をかわし、ナイフで足元を斬りつける。だが、鎧には全くダメージがない。
次にソードマルマンが剣を構えて走っていくが、騎士の体についたナイフが彼のもとへ一斉発射される!
ソードマルマンの目の前に突き立てられるナイフ。
れみはそれを見て、これはやりすぎだと確信。
やはりナスビなど信じるべきじゃなかった!
急いでナスビのモニターをぶん取るれみ。
「あっ!何すんだよー!」
れみとナスビは空中で争い、ラオンとソードマルマン、巨人騎士は地上で争う。
荒野からしてみれば良い迷惑だ。岩の柱が和菓子のごとく折れていく。
「やめろよはなせー!!」
れみはナスビを捕まえ、モニターに二度と触れなくしてやろうとしていた。
だが、暴れた拍子にナスビの翼の手があらぬ方向へ向いてしまう。
モニターから、ポチッ、という音が聞こえてきた。
「あ」
「ぐおおおお!!」
巨人騎士は唐突に咆哮をあげ、地上の二人に両手の大剣を同時に振り下ろすという、今までにない行動をとった!
驚いてかわす二人。
あと少しで二人はぺしゃんこに潰されていたかもしれない。大きなヒビが入った地面が、その威力を物語っていた。
無我夢中で大剣を振り回し、全身からナイフを放ちまくる巨人騎士。暴走したのだ。
慌ててれみは二人を援護する為に指からレーザーを放つが、騎士の鎧は簡単にそれを防いでしまう。
暴れまくる騎士を前に、二人の戦士は武器を持つ手に力を入れる。額から流れる汗は、刃に落ちる。
焦る気持ちの結晶は、皮肉にもより一層刃を輝かせていた。
「ソードマルマン、お前ならどうする」
「…」
目を細めて騎士を睨むソードマルマン…。
「ラオン、俺の後ろについて、やつの攻撃を防いでくれ」
「お前についていくという事か?笑わせんな」
そう言いつつも、ラオンは彼の策だという事を判断し、剣を構える彼の後ろに立つ。彼の刃を信じる事にしたのだ。
機関車のごとく咆哮をあげながら走ってくる騎士を前に、ソードマルマンは勇敢にも剣を向けながら走っていく!
騎士の大剣が振り下ろされ、ソードマルマンの頭上から落ちていくのを見たラオンは、ナイフを構えながら飛び上がった!
ナイフに直撃する大剣!
だが、ラオンお気に入りのラオン仕様ナイフは全く傷つく事なくその衝撃を全て受け流したのだ。
ソードマルマンにも大量のナイフが飛ばされていき、彼を滅多刺しにしようとしてくる!
「見切った!」
何十本ものナイフを一本一本、かつ確実に剣で叩き落とすソードマルマン!
剣は次々に襲いくる衝撃に耐え抜き、見事全てのナイフを落とす事に成功した!
一時的に剣もナイフも弾かれ、騎士が怯んだ隙を見て二人は同時に飛び上がる。
そして、刃を向ける。
狙いは、唯一何にも覆われていない顔面だ。
刃は騎士の頬に突き刺さり、ついに騎士を完璧に怯ませた。
その隙にラオンは騎士の大剣を奪い取り、自身の何倍もある剣を振り下ろす!
ソードマルマンは騎士の体に再生していたナイフを全て引き剥がすように奪い、一気に投げつけた!
全身の鎧に衝撃が走り、騎士は膝をついて気絶してしまった。
共に倒した敵を前に、二人はお互いの武器を見ていた。
静かな驚きと、悔しさ…しかし、信頼できる何かを感じているかのような視線だった。
「…ラオン、ナイフも、ま、まあ良いな。だが、一番は剣だという事を忘れるな」
「剣も意外とやるじゃないか。…まあ私のナイフに勝てるものはないがな」
荒野の乾いた風が、再び吹き荒れた。
ナスビとれみは、ポカンとそれを見下ろすばかりだった。
結局、武器なんて使いやすいか否か、個人の使い方なのだろう。
対決なんて、意味がないのだ。
「…ラオン、ちょっと、三日ほどナイフを貸してくれないか?」
「お、お前の剣も、ちょっとだけ…」
完全に乗り換えようとしている…れみはあえてそれを止めなかった。
その後、ラオンは剣を物珍しそうに見つめ、時々振っていた。
良い戦友となったのかもしれない。




