哀れなクッキー
「腹減った…」
町の偵察をしていた蝙蝠、ナスビは鼻息を荒くしながら飛んでいた。
最近おやつを食べておらず、すぐに腹が唸るようになったらしい。
何か美味しい物はないかと地上の色とりどりで絵のような家を見て回る…。
「おっ」
それが目についた時、思わず声が出た。
地上を歩いていたのは、手足が生えたクッキーだった。
クッキーは人間ほどのサイズがあり、しかも歩いている…クッキーのような生物だった。
たまらずナスビは急降下し、蝙蝠らしい鋭い牙をクッキーに突き立てた!
「いってー!!!」
クッキーは声をあげ、頭を抑えた。ナスビはそのクッキーの味にこう叫ぶ。
「まずー!!!!!」
クッキーはひょっとこのような顔でナスビに振り返った。
「不味いとは何だ勝手に噛みついといて」
「おめえが不味いからいけないんだ!!」
口論になる二人だが、この時ナスビには僅かにこいつを利用してやる事を考えていた。
「先に噛んできたのはそっちだろうが」
「黙れお前が不味いのが悪い」
「おまえだ」
「おまえだ…」
クッキーとの口論が一時沈黙する。
(今だ!)
ナスビはクッキー目掛けて紫の糸を魔力で形成し、クッキーに絡み付かせる。
対応できずにクッキーは転倒し、茶色い体からはパリッという感じの音が聞こえてきた。同時に体の一部が崩壊する。
「やば、再生せんと」
クッキーの欠けた部分がたちまち再生した。
ナスビはそれを見て物凄く悪そうな顔を見せる。
ナスビはクッキーをそのまま見かけにあわない力でどこかへ運んでしまう。
「やー今日も変な天気!」
その頃れみは日の光を浴びながらいつものように柳葉魚を求めて店へ向かっていた。
その途中、見慣れない店があるのに気づく。
黄色の看板がデカデカ飾られた一軒の店。
そこのガラスケースには沢山のクッキーが売られていた。
チョコクッキー、イチゴクッキー、バニラクッキー…どれも部屋に飾りたくなるようなきらびやかなオーラを持っていた。
勿論れみはそれに反応し、店に近寄る。
「柳葉魚クッキー売ってますかー」
ガラスケースの向こう側の店員は笑顔を見せた。
しかし妙に表情が冷たく、少し不気味に見える。それでも店員は明るい声で棚から袋詰めされたクッキーを渡す。
柳葉魚が豪快に突き刺さった柳葉魚クッキーだ。
れみは大喜び。しかも値段はたったの10円。
この怪しすぎる店でれみは少ない小遣いで柳葉魚クッキーを買い、うち震え、猛スピードで帰っていった。
店員の背後からナスビが覗いてるとも知らず…。
早速研究所に帰ったれみは柳葉魚クッキーを物凄い目で見る。
今すぐがっつきたい気持ちを抑え、研究所の白いドアを開けた。
博士がれみを出迎え、持っていた奇妙なクッキーを指差す。
「これは何だ?」
「美味しそうなクッキーですよー」
れみはその場で袋を開く。
我慢できず、玄関で食べるつもりなのだ。大きな口を開けてクッキーと柳葉魚に同時に食らいつく。
「……まずー!!!!!」
れみは口に入れてすぐにクッキーの不味さに気づく。
柳葉魚も柳葉魚の味がまるでせず、口を抑えて悶絶。牛乳を日に当てて放置した時と同じ味が。
れみは折角の期待を裏切られ、更にこんな化け物のような代物を用意した店を大いに恨みに恨む。
「こうなりゃ苦情を入れてやる!」
ドアを再び開き、コンクリートの地面から飛行してあの店を目指す。
しばらく飛んでいくと、あの店は空中からかなり分かりづらい位置にある事に気づいた。
しかし今のれみの怒りにとってそんなものはどうって事ない。
適当に低空飛行していると、その店はすぐに発見できた。相変わらずクッキーを堂々と見せている。
しかもその周囲には客の姿も。
「皆!このクッキーは毒です!食べるのをやめましょう!!」
しかし皆はクッキーを食らうのをやめない。その目は光を失い、まるで周囲の音が聞こえてないようだ。
異様な様子にれみが思わず黙りこんでると、店員が顔を出してきた。
店員のにやついた顔を見て、あの不味さは意図的なものだったのだとここで初めて気づく。
店員はしてやったりというような態度でれみに語りかけてきた。
「あのクッキーは中毒物質を仕込んであるのさ。ついでにオイラの正体は…」
店員の体が、溶けるように崩れてく。そして、背後にいたナスビが顔を出した。
れみは激怒し、周囲の客の様子がおかしい理由にようやく気づいた。
皆クッキー中毒に陥っているのだ。
「二度と許さない!」
そこは絶対に許さないじゃないんかとナスビが突っ込む前に、れみの蹴りがナスビに直撃!
派手に叩きつけられ、2,3回バウンドする。それでもナスビは笑みを崩さない。
「お前らー!れみを倒せばクッキーをやるぞー!」
クッキーに洗脳された人間たちがワラワラと向かってくる。
彼等を軽く殴って気絶させつつナスビに向かっていく。
「このクッキーの原料を教えろ!」
「やっと原料に意識を向けたな。原料はズバリこれだ!」
ナスビは店の奥に飛んでいく。
左右にはお洒落な棚があるがどれもクッキーの原料など入っていなそうだ。
一体どこにこれほどのクッキーを作れる原料が…?
ナスビが最終的に赤いカーテンがかけてある場所へ辿り着く。
翼を手のようにつかい、器用にカーテンを開く。
カーテンに塞がれてい部屋に、太陽光が差し込む。
カーテンの奥からは、手足が生えたクッキー型の生物が現れた。
れみは予想外の物に先程までの敵意が一気に消え失せる。ナスビはクッキーの体を掴み、一部を引っこ抜いた。
「ぎゃあああ!!」
クッキーは痛そうな声をあげる。欠けた箇所はたちまち再生し、元の綺麗な質感に戻る。
「これで分かったか」
「なるほど。そのクッキーの一部だったのか。何て酷い事を」
やはり放っておけない。得たいの知れないクッキーだが、助けなければならない。
強気に挑発を仕掛けるれみ。
「クッキーをいじめて、しかもそんな不味いクッキーをよこしやがって。許さない!」
クッキーは地味にショックを受けていた。
突進してくるれみだがナスビがそれを避けた事でれみはクッキーに突っ込んでしまう。
「あー危ない!!」
クッキーの腹の辺りに思い切り頭突きしてしまい、クッキーの破片が飛び散った。
クッキーはもがき苦しみ、それを見たれみの顔はまさに「やっちまった」という言葉が似合う。
ナスビはれみの予想外なアホな行動に大笑い。
大口を開けて上を見て爆笑する彼の姿もまた大間抜けだが。
…と更なる予想外がナスビを襲う。
砕け散ったクッキーの破片がナスビの口内に突っ込んできたのである!!
「あ…」
ナスビは翼を激しく動かし、ほんの一欠片の不味さに墜落した。
地面に凄い勢いで頭をぶつけても出てくる言葉は痛いではなく不味い。
「不味い不味い!!…だが何だかもっと食べたくなってき…た…」
苦しみながらクッキーに這い寄るナスビ。
れみはここでようやく自分が中毒にならなかった理由に気づく。れみはアンドロイドだから、中毒を免れたのだ。
これで逆転!
クッキーに夢中なナスビを、れみが勢いよく蹴飛ばした。
「うがあああ覚えてろー!!」
ナスビは蹴りの衝撃と風に煽られながら空高く飛ばされていった。
クッキーはれみに土下座し、全身で感謝の気持ちを伝えた。
「そんな土下座なんてしないでよ」
笑いながら汗をかくれみだがクッキーは感謝してもしきれない気持ちだろう。
「お礼に私の一部にこのチョコソースをかけて食べてください!」
クッキーが渡してきたのはチョコソース。
ハッ、とれみはある事に気づいた。
そうだ、不味いなら何かをかけて食べれば良いんだ!
たまらずれみはチョコソースとクッキーの一部をぶん取るように受け取り、狂ったようにソースをぶっかける。
そして、不味さを恐れず口に放り込む…。
「…ぼえっ、やっぱ不味いじゃねーかよ!!!」
クッキーのショックそうな顔で今回の戦いは幕を閉じた。




