ネチョネチョパニック
テクニカルシティに現れた何やらネチョネチョしたヘドロ…これが事件の始まりだ。
このヘドロは何の前触れもなく道路に出現し、自動車のスリップ事故を多発させた。当然これは大問題となり、直ぐ様清掃作業が行われたが、このヘドロ、かなりの水圧の水で洗い流そうとしても中々落ちない頑固すぎる汚れなのだ。
無数の清掃員が汗水垂らして苦しむ現場を、れみも目撃していた。
何とも言えない臭いが漂ってくる。そこまで臭くはないが、良い臭いでもない…表現しがたいすっきりしない臭いが。
「このヘドロは、自然に生まれた物ではないな」
調査隊の一人がボソリと呟く。
ここでれみは、これはモンスターの仕業だと考えた。
何でもモンスターのせいにして良い訳ではないと本人も分かってるが、やはりそれ以外にはあまり考えられない。
まだ経験が少ないれみ。そう考えるのも無理はないだろう。
「またモンスターか」
いつもの通り、モンスターは比較的見つかりにくい森に身を潜めてるに違いない。
れみは森へと足を運ぶ事にした。
ポケットから取り出したクシで髪をとかしながら進んでいくれみは、近くの高層ビルの屋上に佇む監視者に気づいていなかった。
リューガが、怪しく彼女を見つめていたのだ。
「さーて今回はどうかな」
髪をとかすれみを見て、リューガも桃色のクシで黒い髪をとかしていた。
森は緩やかな風がふいていた。
花が生え揃うこの森。花粉が散っているようだがアンドロイドの彼女には関係ない事だ。
行き慣れた森と言えどモンスターはどこから出てくるか分からない。
木の陰、茂みのなか…森には隠れられる場所がいくらでもあるのだ。まだモンスターがいると分かった訳でもないのに、れみは死地を渡るような目で森を歩む。
「わっ!?」
足に不気味な感触が走る。驚いて足をあげて見ると、そこには薄紫色の液体…テクニカルシティにあった物と全く同じ液。
やはりここに元凶がいるのだろうか。ここにヘドロがあるのなら、敵は近い。
より気を引き締めて進む…。
「ん?」
遠くの方で、何かを発見した。
ヘドロとよく似た紫色の質感の肌の、巨大な軟体生物が気持ち悪い音をたてながら草原を歩いていた。
その体は今にも溶けそうで、実際体液がドロドロと垂れている。
近寄りがたい見た目だが、やつが犯人で違いない、とれみは我慢してそいつに近づいていく。
近くで見ると、更に気持ち悪く感じられた。
どうやらその体は三重程の液体の塊でできているらしく、あの何とも言えない臭いが鼻をついてくる。
モンスターの目はやたらつぶらなのがまた、不気味さを醸し出していた。
「おい!お前が犯人か!もう液を撒くのをやめろ!」
だがモンスターは何も動じず、れみの存在を無視するかのようにまた動き出した。
無視された怒りで頭を振りながられみは跡をつけていく。
モンスターは相変わらずネチョネチョした液を分泌しながら進んでいく。
このままでは森が液まみれになり、周りの生物に危害が及ぶかもしれない。
まだモンスターは襲ってきている訳ではないが、放っといてもまずい…。
れみはとりあえず、モンスターを引っ張って動きを止めようとする。
だが…この体、この質感だ。とてもじゃないが触る気にはなれない。
両手の指を動かし、いかにも嫌そうな表情のれみ。
触るか…触るまいか…。
「…えいっ!!」
思いきって、両手を突きだすれみ!だがその決意は一瞬にして粉々に砕け散る。
突きだした両手は、なんとモンスターの体に突き刺さったのだ!
液状の体に突っ込まれた手。ゾッとして抜いてみると、両手は粘着性の強い液でベタベタに。
「うひゃああああ!!」
あまりの気持ち悪さに膝をつき、両手がもげそうな勢いで振り回す。
液は一滴も落ちず、むしろ固まってしまう。
更にモンスターは自己防衛の為か、れみに向かって突進してきたのだ。
足は動ける、と横に動いてかわすれみ。だが次々に地面に液がばらまかれていき、このままでは足場が無くなってしまうだろう。
その前に、こいつを止めなければならない。
れみは飛び上がり、モンスターに人差し指を向け、指先から白いレーザーをうちだした!
レーザーはモンスターの体に直撃し、液が一気に飛び散る。
死なない程度に止めなければならない。
モンスターはその場で脱力し、少し怯んだようだった。れみは着陸し、モンスターにゆっくり近づいた。
話は通じないが、一応、という事もある。その気持ち悪い体に抵抗を持ちつつもれみはなるべく好意的に話しかけた。
「何故襲ってきたの?話しあいたかったのに!」
…が、そう言いつつも先に手を突っ込むという「攻撃」を仕掛けたのはよくよく考えれば自分だった。
それにこいつは怒って攻撃してきたのかもしれない。
自分も悪かった。でも、今はこのモンスターを止めるのが何よりも先だ。
まずは我慢してスキンシップでもとろうかと更に近づくと…。
「!!」
モンスターはれみを掴んできた!触手状の手がれみの首を絞め、そのまま持ち上げる。
抵抗するがかなりの力だ。モンスターの黒い目がこちらを睨み、恐怖を煽る。
このままではやられてしまう。
れみはモンスターの両手を掴み、そのまま力を込める。
柔らかい両手に窪みをつけられたモンスターはれみを手放し、震えだした。
それでもなお向かおうと大口を開いてれみを威嚇する。
やはりこいつは容赦など必要ない…!
れみは走りだし、モンスターの腹部辺りに思い切り蹴りをかました!
モンスターはヘドロが擦れあう音を鳴らしながら、ゆっくりと仰向けに倒れてしまった。
やっと気絶させた…。このままどこか遠くに運んでいき、そこで静かに暮らしてもらおう。
れみはまだ震える手で恐る恐るモンスターの体を持ち上げようとした。
「やるじゃん」
馬鹿にしたような声が聞こえる。まだ警戒を解いていなかったれみは直ぐ様後ろに振り返り、相手を見る。
そこには、木から降りてきたリューガが立っていた。
「そいつを倒すなんてな。まあ全ては俺の計画のうちだが」
「どういうこと?」
リューガは右手を見せてきた。その右手に握られたいたのは、やや固形化しかけたあの液体。
リューガは黒い顔で説明してきた。
「確かにこいつの粘液が町にあったのは本当だ。だが必ずしもこいつが撒き散らしたとは限らないんじゃないか?俺みたいなのが、こういうのを利用して悪さするんだぜ」
憎たらしく笑いながら、リューガは液体をモンスターに向かって投げつけた。
同時にモンスターは少しずつ体の粘り気が元に戻っていく。
「こいつの精神を抑える液体を奪ってやってたのさ。おかげでお前が手を突っ込んだだけで暴れる暴れる」
リューガはこのモンスターを暴れさせ、更にモンスターから摘出した液体を道路に撒く事で、罪を被せようとしていたのだった。
怒りを露にし、殴りかかるれみだが、リューガは蟻を避ける程度の動きでかわす。
「おっと怖いじゃないかお嬢ちゃん。いいや、クソガキちゃん?」
「クソヤロー!!!」
れみはもう一度飛び上がり、拳を振り下ろす!
だが、リューガは人差し指を突きだし、れみの腹部を少し突いた。
同時に衝撃波が放たれ、れみは一瞬にして目にも止まらぬ速度で飛ばされる!
遠くにあった木に叩きつけられ、木をへし折り、地面に叩き落とされ、大地が揺れるような衝撃が走る。
痛みを堪えながら必死に目を開くと…。
そこには、もうリューガはいなかった。
「…」
腹を押さえながられみは倒れたモンスターを見る。
左手でモンスターに触れ、少し呟くような声で言った。
「…ごめんね。疑って」
目が覚めたら仲直りだ。
空を見上げるれみ。
やつは、何を考えてるのか分からない。
れみはより警戒を固めて、やつとの戦いに備えるのだった。




