動き出す陰謀
事務所を開き、町の依頼を集めて情報集めに専念する事にしたれみ。しかし、名無しの魔王の陰謀は既に動き出していた…
白い髪に紫の服、ドクロ型のリボンと髪型、赤い帯に赤い瞳。
れみの仲間、ドクロが町を一人で歩いていた。
両手を後ろで繋ぎ、ゆっくりと歩くドクロはどこか寂しげ。れながいない事にまだ慣れないらしい。
ふと顔をあげると、桃色のワンピース、ポニーテールの少女が一人の道化師の格好をした男と何か話していた。
桃色の少女…彼女もまた仲間で、「風船ちゃん」と呼ばれている。
風船ちゃんはその道化師と握手している。
丁度二人の会話は終わったところらしく、道化師は風船ちゃんに手を振って去っていった。
風船ちゃんはようやくドクロに気づき、ご機嫌な声でこう言った。
「見た?今の人!リューガってんだ!とっても素敵なピエロなんだよ!」
風船ちゃんは風船なので、余計にピエロである彼に好意を寄せている。
だがドクロはハッキリ感じた。リューガから放たれる力を。
底知れぬ、何か凄まじく邪悪な何かを。
その頃れみは紫の髪と瞳の女性の姿をしたアンドロイド仲間…ラオンとある建物を見ていた。
「…何だよこれ」
その建物は、変な顔がどでかく書かれた小さな事務所。
「魔王がいつ来るか分からないし、この事務所で市民からの依頼を受けて情報を集めようと思うの!」
そんなれみの案で粉砕男が1時間ほどで作ったのがこの事務所。
あまりにおかしなデザインにラオンは酷い目で事務所を見つめる。
「そこで…名前を考えた結果、事務所って名前にしようと思いまーす!!」
「そのまんまじゃねえか!!」
れみの頭を軽く殴るラオン。
そこへドクロが白い髪を揺らしてやって来た。
おかしな事務所だが、部屋は平凡で普通の部屋だった。
テレビにタンスに…部屋の常識的な雰囲気が、余計に外の可笑しさを引き立てている。
部屋の中心にあるちゃぶ台にて、仕事を終えた粉砕男がお茶を片手にラオンたちを歓迎した。
「ま、中々上出来だなこの事務所」
ラオンは珍しく他人を褒める言葉を口にした。
…変なデザインには目を瞑ったのだろう。
そこへ時代遅れな黒電話が鳴り響き、れみが手に取る。
「はい!事務所です!」
つい1時間前に建てられたのにもう依頼募集が始まっている。
ラオンは机のお茶を飲み、ナイフを磨きだした。
れみは受話器から耳を離し、振り替える。
「…早速仕事だよ」
依頼人は若い男性だった。どうやら最近庭の草が生えすぎてむしれなくなってるらしい。
彼の家の前に到着すると、確かに凄まじい量の草がボーボーと生えていた。
れみは地団駄を踏む。
「こんな事で呼ぶなー!!」
だがきっちり一本一本むしり、男性はきっちり報酬金を払った。
「ただいまー」
事務所に帰ったれみだが、
ドアを開くなりいきなり鳴り響く黒電話。
れみは今度こそとばかりに笑顔を浮かべ、電話をとる。
相手はギャルのような口調で調子良く言った。
「ねえパン買ってきてくんなーい」
パシリ依頼を担当したのはラオンだった。
トホホと出かけるラオン。
その間にも電話はジャンジャン鳴り響く。
玄関に鍵かけろ、風呂掃除しろ、席替えのクジひいてこい…魔王の情報などどこからも沸いてこない。
ただの手伝いだ。
怒ったれみは突然部屋を荒し出す。
「誰か魔王の依頼よこしやがれー!!!」
葵もドクロも粉砕男も飛んでくる家具に顔を両手で覆う。
そこへかかってくる電話。
れみは電話に背を向けた。まさにプイッという効果音が似合う動きだ。
電話をとる粉砕男。
受話器から聞こえてきたのは、何やら荒い息づかい。
同時に男性の声が聞こえてきた。
「た…助けてくれ…テクニカルシティ、9番通路に…」
何があったのかと聞こうとするが、そんな状況ではなさそうだ。
「分かった。待ってろ!」
粉砕男は大急ぎで電話をきり、テクニカルシティ9番通路へと猛スピードで飛んでいく!
通路では、塀と塀の間に石の体に細長い体、全身の至るところに棘が並ぶ異形の怪人が、爪を赤く染めながら、目の前のターゲットを見つめる。
顔がない石の顔。
無機質な容姿で低い声を発した。
「魔王様に邪魔物がいないかのご命令を受け、偵察に来た。この町に強力な戦士はいないか」
何も知らない男性は首を振るが怪人は岩でできた爪を向けて更に脅す。
「魔王様はこの町から放たれる強い力を感じて俺を派遣した。この大地の戦士、グラントス様を前にしても吐かぬと言うのか?」
「だから知らないんですってええ!!」
グラントスは男性の言葉に構わず爪を振りかざした!
そこへグラントスの岩の頭に強烈な拳が炸裂する!
吹っ飛ばされるグラントス。
それは丁度ここへ駆けつけた粉砕男だった。
グラントスは両手でコンクリートの地面を剥がしながら立ち上がり、顔を光らせる。
「おのれ許さんぞ!」
顔から飛んできたのは強力なマグマ光線!
灼熱のマグマで周囲の気温が一気に高まるが粉砕男は素手で跳ね返し、片手からのエネルギー波で打ち消す。思った以上の実力に、グラントスはようやく深く構えた。
「中々だな。魔王様の命だ…俺の力を見せてやるか」
魔王というワードを発した。表情をより険しくする粉砕男にグラントスは唸り声で威嚇した。岩の軋む音と共に右手を掲げ、手のひらから土砂を放つグラントス。
「くらえ!俺の必殺、グラ………ぶへえ!!」
あろう事か粉砕男はグラントスの必殺技の名乗り途中で顔面をぶん殴った。
爪を振るグラントスだが、先手をとられた事で安定しない。
蹴りを受け、腹を抑える。そんな彼に、粉砕男は容赦を見せる。
「もう良いだろう。さっさとここから去れ」
だがグラントスは去ろうとしない。
それを空中から見下ろしてる者たちがいた。
一人は小さな蝙蝠、ナスビ。もう一人はあのピエロ、リューガだ。
ナスビはグラントスを見下して一方的に呟き続ける。
「全くグラントス。魔王様には邪魔な戦士を倒すように言われてんのにあんな雑魚を相手するなんてね」
粉砕男に指一本でやられるであろうナスビが彼らを見下す様はもはや滑稽であった。
リューガだけは、粉砕男の力に気づいていた。
底知れぬ熱い男気と闘志。グラントスでは勝てないと…。
だが、分かっていながらリューガは笑いながらそれを見ていた。
グラントスは去るどころか再び爪を突き出して攻撃にうつる!
しかし粉砕男はグラントスを地面に叩き伏せ、気絶させた。体力の差だ。
「やーお見事だね」
拍手しながら降りてきたのはリューガ。
新たな敵の登場に粉砕男は両手の拳をあわせて何故かポーズをとる。
「お前が黒幕か。何が目的だ?」
「魔王様の為に、強い戦士を殺す事さ」
あっさりと吐くリューガ。
粉砕男は殴りかかるがリューガは彼の拳をほとんど動かず回避した。
その時、粉砕男の体に強い違和感が走る。
強い力に共鳴し、全身が拒絶反応を起こしたのだ。
その場に手をつく粉砕男。
「はは、動けないか…」
リューガの足元から桃色の煙が出現し、全身を包む。
煙が晴れる頃には、リューガの姿はなかった。
「…一体何者なんだあいつ…」
その頃、れみはテクニカルシティ9番通路が分からずにフラフラ飛んでいた。
そこへラオンもやって来る。まだ目的地へ行ってないれみを見て呆れ顔。
「おいおい町を覚えないとこんな仕事勤まんないぜ」
「るせー!!!!!」
新たな敵の動きを知らずにれみは地理の勉強を始めたという。
グラントス 全身が岩石でできた怪人。とても頑丈な体を持ち、体内では血のかわりにマグマが流れている為、非常に体温が高い
爪が武器