名無しの魔王編
再び戻ってきました!ワンダーワールド!
今回の主人公はれなの妹、れみ!
新たな敵も続々登場、不思議な世界の白熱バトルを楽しんで!
「人間界に降り立つのは何年ぶりか…」
青いマントを羽織り、刺々しい顔に胸には目玉型の宝石をつけた首飾り。
それは魔王だった。
暗い夜空から巨大な岩山の上に降り立ち、地上を見下ろす。
「…いくら弱き人間とはいえ、彼らなりに進化しているようだ」
「どーしたんだい魔王様?」
冷ややかな風に煽られる魔王に声をかけた者がいた。
それはピエロだった。
だがメイクはしておらず、ピエロの格好をした謎の男だ。顔からして、二十歳くらいだろうか。
魔王の威圧を物ともせずにピエロは軽い口調で話す。
「俺はファン・マリス・リューガ。つってもあんたのファンとかじゃないよ。とりあえずリューガと呼んでくれ」
挑発のつもりだろうか。だがそんなものに動じない魔王は相変わらずじっと佇んでいる。
「あんたの敵になるつもりはない。あんたに協力してやるよ」
科学が発展した町、テクニカルシティ。
今日も科学者たちが慌ただしく動き回り、市民たちは思い思いの生活を送っている。
これはグリーン星人騒動があった数ヵ月後の物語。
「あー。お姉ちゃんさっさと戻ってこないかなー」
小学生くらいの少女が畑の土の上で桑を置き、ため息をつく。金の短めのツインテールを揺らしながら緑の目を薄める。
この町のアンドロイド、れみだ。
れみの近くでは色黒で2メートルくらいの巨漢が同じく桑を振るって畑を耕している。
その目は黒目がない。
れみの仲間の怪人、粉砕男だった。
粉砕男は汗をふき、愚痴をこぼすように、だが明るく言った。
「れみ、頑張ってくれよー」
「お姉ちゃんいないとやる気でないんだよなぁ…」
れみはただただ上を見つめていた。
れなと闇姫が異空間へと消えた事は、捕らわれたグリーン星人が吐いた情報だ。
初めは嘘かと思ったが、いつまでも帰ってこない事を考えるとどうやら本当だ。
それ以来れなとれみの開発者である博士は毎日神に祈りを捧げ、仲間のアンドロイド、葵とラオンもどこか退屈そうに暮らしていた。
「ちくしょーあの糞姉貴!!」
畑仕事に飽き飽きしていたれみは桑をへし折り、土の上に寝そべる。
澄んだ青空には雲がゆっくりと流れ、鳥たちが飛んでいく。
再び平和な世界が戻ってきた。平凡な世界が…。
と思った時だった。
空飛ぶ紫の蝙蝠が視界を通過するのを見たのだ。
普段戦っているれみには分かる。今の蝙蝠は普通ではないと。
一般人には分からない、こう、不気味な何かを感じ取ったのだ。
「待て!」
立ち上がって地を蹴り、れみの体がフワリと浮かぶ。
ジェット機くらいの速度で蝙蝠を追いかける。
一瞬で追い付き、怪しい蝙蝠を捕らえるれみ。
「げっへえ!!」
蝙蝠が叫んだ。やはり普通ではなかった。
この怪しい蝙蝠を逃がす訳にはいかないと絶対に離そうとしないれみ。
だがれみの腕は小さすぎた。蝙蝠はれみの腕の隙間をくぐって上手い事抜け出し、翼を広げて舌を出す。
「やーい!この間抜…」
そこへ追い付いてきた粉砕男が蝙蝠を背後からすっぽり捕らえた。
森のログハウス…葵の家にて。
緑のサイドテールを揺らしながら葵が蝙蝠を細かく解析する。蝙蝠は机の上で顕微鏡で体を観察され、色々酷い事になってる。
「貴方は一体何者なの?」
葵はなるべく優しく聞いたが蝙蝠は翼でアカンベーをした。
「へん、そんなの教えてやるか!」
「へー自己紹介もできないのね無能蝙蝠」
途端に蝙蝠は翼を激しく動かし、顕微鏡から離れる。
「バカにすんな!オイラは魔王様の忠実な部下、ナスビってんだ!」
ナスビと名乗った蝙蝠。
魔王、というワードに驚く一同を見て、ナスビは余計な事を話したミスに気づく。
ナスビを掴んで睨む粉砕男。
「何企んでる?魔王だと?それにお前から感じられるその邪悪な力。ただ者とは思えんが」
幼女のれみ、おしとやかな葵の中で、巨漢の粉砕男は特に迫力があった。
冷や汗まみれのナスビ。
「さ、さあね?魔王?そんなの知らないし」
震えるナスビ。これ以上は何も吐かなそうだ。
魔王というワードを聞いた一同は腕を組んで策を考える。
しかし、どこにいるかも分からない。
そこで葵は、こう聞いた。
「分かった。魔王の場所も正体も聞かせてくれなくて良い。ただ、魔王はまず何をしてくるか、それだけを教えてちょうだい」
それならとナスビは憎たらしい笑みと同時に口を尖らせる。
「この町にまず優秀な兵士を送り込むさ!お前らはそいつに殺されるのを爪先くわえて待つが良い!」
翼を広げて悪役っぽく笑うナスビ。その時、外から誰かの叫び声が響いてきた。
「お、早速来たな…?」
一同が外に出ると、森の木々を崩しながら大男が突き進んでいた。
粉砕男と同じくらいの背丈に色黒な肌だ。
目は黒いガラスマスクに覆われ、黒いズボンにベルト、上半身は裸でたくましい筋肉が。
大男はこちらに気づくなり拳を突きだしてきた!
全員は同時に避け、飛び散る土砂を手で払う。
大男は近くにある5メートルほどもある巨大な岩を片手で持ち上げ、投げ飛ばす!
「させるか!」
粉砕男が岩を受け止め、そのまま粉砕する!
砕け散る岩の破片をれみが蹴り、大男にぶつける。
怯んだところへ葵のショットガンが弾を撃ちだし、唸りをあげる!
大男は銃弾を食らいつつも数発キャッチし、逆に投げてきた!
ログハウスの開けっぱなしのドアから、ナスビの笑い声が聞こえてくる。
「ふはは!無駄だ!魔王様に改造を受けた戦士だぞ!?」
その直後、葵の蹴りが大男の銃弾を握る手に直撃した!
手を押さえて怯んだ所へ抜けて粉砕男の拳が炸裂!
「パワーなら任せろ!とどめは投げだぜ!」
そのまま大男は粉砕男に抱えられ、投げ飛ばされる。
れみが指先にエネルギーを凝縮し、白いレーザーを放った!
爆発する大男!!
黒こげになった大男がピクピクしながら落ちてきた。
これで確保できるだろう。
その時、皆を嘲笑う声が聞こえてくる。
後ろを見ると、拘束から抜け出したナスビが笑いながら飛んでいった。
「ひゃはは!中々やるようだがお前らごときが魔王様に勝てるはずがない!」
ふざけた笑い声と共にナスビの姿は紫のモヤとなって消えてしまう。
手を伸ばしつつ、俯く一同。
そして…ナスビは空間を越え、西にある山の頂上にある城へと飛んでいた。
先程まで明るかった空は城に来た途端に顔色を変え、真っ黒な雲に覆われていた。
「ひー、死ぬかと思った…」
翼で顔を煽りつつ城の前に降り立つナスビの前に、一人の若い道化師が現れる。
顔にはメイクをしておらず、ナスビを見下してニヤリと笑う。
「んだよリューガ!文句あんのかよ!?」
ナスビは叫びつつも体が動かず、地べたに落ちてしまう。
「まあまあ蝙蝠君。そう構えん事だ。それに俺たちの天下はもう決まってる。魔王様の力は、今や神を越えてるからな」
歯を食い縛りながら笑うナスビと、顔を歪ませて純粋に、狂喜的に笑うリューガ。
曇り空の下、不穏な空気が溢れだしていた。