SUMMER MEMORYS 〜とある一日〜
登場人物紹介
藤村沙耶香(高校生)
藤村一馬(中学生)
8月
その日はとても暑かった
地球温暖化のせいなのか
この暑さは
クーラーや扇風機等がない家にとっては
最悪の1日だった。
「う〜暑い…この暑さで、私は溶けそうだよ…」
ソファーの上で横になりながら
紗耶香はぼーっと
天井を眺めながらボヤいた
「うるさいよ姉ちゃん。余計に暑くなる」
姉のだらしない姿を横目に、
弟の一馬は
荷物整理をしていた
「だいたい、姉ちゃんがクーラーを壊すからだろ」
部屋の温度は30℃を超え、もはやサウナ状態
額に溜まる汗が
頬を伝い、落ちてくる
「壊してない、壊れたのよ…いじったら」
一馬は昨日の事を
頭の中で回想した
昨日
何故かリモコンのスイッチを入れても
クーラーはつかなかった
リモコンの電池が切れてしまったのかと
電池を取り替え、もう一度押してみる
それでもクーラーは、起動しなかった
母さんは仕事で、家に居なかったから
姉の紗耶香に
本体の確認を頼んだ
紗耶香は
クーラーの中を確認しようと、フタを外そうとした
上手く外れず
思いっきり力を加えて、無理矢理外した
その時
ピーという音がして
その後いくら触っても
何の反応もなかった
帰宅した母親に相談すると
今日の午後に
修理の業者の人が
来てくれる事になった――
「この馬鹿力…」
溜息混じりの一言に、沙耶香は体の向きを変えてそっぽ向く。
何度目かの文句は、さすがにもう聞きたくない、ということだろう。
わざとじゃないにしても、壊れたのは自分が原因なのだということは分かっている。
それにしても、だ。
「元から壊れてたんじゃないの?」
自分がいじる事になったのは
あくまで、クーラーが動かなくなったからだ。
物理的に壊したのは自分だとしても
内面的な故障が元の原因だと思う。
だからと言って、やはりとどめは自分なのだけれど
「かもね、だから姉ちゃんに見てもらったんじゃないか」
わかりきった結論だ。
特に何をするのでなく、ただグーたれていると
お腹は元気なようで、腹の虫が鳴る。
暑い日は冷たいものが欲しい
というわけで、立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。
目的は、冷凍庫のアイスなわけだけど……
「あれ? アイス無かったっけ」
「昨日、全部姉ちゃんと俺で食ったじゃん。今日と同じで、クーラー付かなかったし」
そういえば、そうだった。
といっても、昨日二つしかなかったわけだから、食べれば一回でおしまいだったけど。
「母さんが、これで買ってこいってさ」
言いながら、一馬は千円札を片手にプラプラとこちらに見えるように手を振っていた
そして、何かゴソゴソとしている。
「んじゃ、俺はもう行くから」
鞄を片手に持ちながら立ち上がる一馬。
「ちょ、ちょっとぉっ! どこに行くつもりなのよ!」
「どこって…友達とプールに行くって、昨日言ったじゃん」
千円札をテーブルの上に置き、歩き出す一馬。
「わ、私の昼飯はどうするのよ!」
「……自分で作ったら?」
「私に死ねと!?」
今の発言で、わかるだろうけど、私は料理ができない。
したことはある。ただそれを自分で食べてみたときの衝撃的な味が、今でも記憶の中にある。
「(一応、自覚はあるんだ)」
ボソッとつぶやきながら、一馬は溜息を吐く。
「だったら、千円で昼飯買ってくれば?」
少し考えれば思いつくだろう、提案をしてみる。
「え〜…めんどくさい」
「(普段、真面目なくせに、暑さでバテルとこうなんだよなぁ)」
丁度その時、ピンポーンという呼び鈴が聞こえた。
「もう行かないと、じゃあ姉ちゃん。業者の人来るんだから、ちゃんと着替えなよ?」
言い残して立ち去る。
一人残された私は、「はあ」と溜息を吐いてテーブルの上に置かれた千円札を見る。
夏休みに入ってから、外出した記憶がほとんどない私は、だらけ切った生活に苦笑しながらも、とりあえず着替えることにした。
世間一般に、引きこもり状態になると、本当にダメな人間になったような気分になる。
もちろん、そんな自覚など、あるようでない。
いきなり、こんな炎天下の中に出て、ぶっ倒れないかという心配はあるが
「学校始まったら、毎日のように外に出るんだから、しっかりしないと…」
自分に言い聞かせて、服を脱ぎ捨てる。
外出用の服を着て、千円札をつかみ、いざ外へ――
「…………アツ!」
外は、予想をはるかに超えていた。
家の中にいた方が、まだマシだと思った。
すぐに、コンビニに行って、さっさと帰って来よう!
覚悟を決めて、歩き出す。
なぜか、すでにフラフラ状態だった。
家に帰った時には、限界だった。
買ってきた、弁当とペットボトルの飲み物、そしてアイス。
そのすべてが入った袋を、テーブルの上に置いて、床の上に倒れる。
暑い…
なんでこんなことで、倒れるのだろう…?
こんなにやわな体だったっけ
もの凄い汗…
怠けすぎた自分が悪いんだな
仕方ない、せっかく買ってきたんだから、食べよう
服を着替えた方がいいかな。
汗でベトベトになった服をどうにかしたかった。
お風呂にも入りたいし……
「お風呂、か」
そういえば、あの手があったわね
きっとこのダルさもなくなると思う
業者の人が来る前に入るかな
温かい湯船に浸かるというのもいいかもしれない
だけど、水風呂というのは、こう暑い日にしか入る機会がない
水着に着替えるのも面倒なので、そのまま入ることにした。
それから、数十分経ったくらいに、修理の人がやってきてくれた
一応点検のためか、そのままクーラーを引き取って行った。
水風呂から出た直後って、こうも暑いものなのだな……
あからさまな温度の違い、怠けた生活による疲れ、
頭がかなりクラクラしてきた。
特にやることもないので、そのまま寝ることにした。
「――――ぇちゃん」
どのくらい時間が経ったのだろう。誰かの呼ぶ声が聞こえる
「――――ん?」
頭がぼーっとするが、目をあけると
「何をしたら、こんなに熱がでるのかねえ?」
一馬が、私の顔を覗き込んでいた。
熱……て?
「凄い汗だからさ、一応熱を計ってみれば、38度って」
「ああ――――水風呂が、原因……かも」
ぼーっとする頭で、今日を振り返る。
ダルかったってのは、最初からで、最終的には水風呂なのかもしれない
我ながら、馬鹿なことをしたのかも……?
「やっぱり、か。浴槽に水が溜まってたから、もしかして、と思ったんだ」
溜息を吐きながら一馬は、水で濡らしたタオルを私のおでこに乗せる。
看病してくれているの、かな。
「一応、お粥を作ってみたけど、食べる?」
お粥の入った器を、目の前に差し出してくる。
私が料理できない分、一馬がそれとなく料理ができるので、親が留守でも助かる。
「うん、ありがとう」
「はい、どうぞ」
「……食べさせてくれないの?」
器ごと渡してくるので、甘えたことを言ってみる。
「……じ、自分で食えるだろ? ほら」
「私、38度も熱があるんだよね?」
「なんか元気そうだから、平気かと」
「まだ、フラフラするからさ、おねがい」
ほほ笑む私に、口を尖らせながら「ぅ〜」と唸る。
照れてる姿を見るのが、私の楽しみでもある。
「……わかったよ。はい、口あけて」
「あ〜ん」
「いちいち、あ〜ん、とか言わなくても」
「んく、普通言うでしょ? 食べさせてもらうときに。……うん、美味しい」
「ただのお粥に、美味しいもないだろうに」
「こういうのは、気持ちの問題。それに、一馬の優しさがあって、本当に美味しいよ」
「……意味わかんない上に、恥ずかしいこと言わないでくれよ」
そう言いながらも、一馬は視線を逸らす。
素直になれない人のことを、なんていうんだっけ?
……まあ、今はどうでもいいか。
「もう一口、あ〜ん」
「……はい、あ〜ん」
最後の一口まで、一馬は付き合ってくれた。
「汗だくで、気持ち悪いだろうから、着替えはここにおいておくから」
「……何から何まで、ありがとう」
「どーいたしまして、さっさと元気になってくれよ?」
「一馬が看病してくれたから、すぐに元気になるよ」
「……なんか、シスコン、ブラコンみたいな感じになりそうだから、そろそろ行くよ」
器等を持って、一馬は部屋から出て行った。
「別に、そういう関係でもいいんだけどね」
誰に言うでもなく、一人つぶやく。困った時はお互い様、そういう関係は、一生大切にしていきたいと思う。
それが、姉弟の関係ならなおさら。
夏休みは、まだまだこれから。
早く熱を下げて、一馬ともっとたくさんのことをしたいと思う。
学校が始まったら、お互い忙しいだろうしね。
一馬が用意してくれた、服に着替えて、再び布団に戻る。
そのまま私は、ゆっくりと、深い眠りについていった――。
前回の投稿から、どれくらいの月日が経過したでしょうか?
今回は、短編ですので、気軽に読んでもらえればうれしいです。
面白かった、つまらなかったに限らず、最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。