97話 邪箱の不思議な冒険!③(参加者)
俺とハクは、モンスタウンを歩き回って酒場を見つけた。その酒場の陰に隠れ、窓から中の様子を確認する。テーブル席やカウンター席などの大きさが人間サイズではないこと以外は同じだ。中にいる店員がこちらをちらりと見たような気がしたので、中を覗くことを止める。
「……ここが酒場で間違いないな」
「まだ外は明るいからか、あまり客はいないみたいだね。どうする、もう入ってみる?」
「……そうだな、魔物が少ないうちに聞きたいことだけ聞いて帰ろう」
酒場に入ると、みんなこちらを見てくるが、すぐに視線を外して飲み食いに戻り始めた。俺たちは自分が座れそうな大きさのカウンター席に座った。
「お客さん、なに頼みますか?」
フードを被った店員が俺ら2人にメニューを渡して注文を聞いているようだ。
「スラスラ」「スラ」
「おや、スライムが話すのですね。てっきり下の人間が話すのだと思っていましたよ。さっき窓から覗いていたのはあなたたち……ですよね」
「「…………」」
俺とハクは背筋が凍るように感じた。
「スーラ」
「いえいえ、スライムが話すのが悪いというつもりはございません。ただ、我々は粗相をしない限りお客として扱うだけです。例え人間であっても……」
「「…………」」
「仕方ないですね、ここでは話しにくいのでしょう、特別に個室にご案内いたします」
店員はカウンターから出ると少し離れた所にある扉を開け、俺たちが来るのを待っていた。いつでも逃げられるように注意しながら、扉の先へ移動する。
通路にはいくつも扉があり、どの部屋も中に誰かがいるような気配はないのに先へ進んで行く。
一番奥まで行き、扉を開けるとその奥にはまた別の扉があり、そこを開けるとまた通路のような所に出る。
(いったいこの店員は俺たちをどこに連れて行く気だ、逃げるにしても外まで距離が遠すぎるぞ)
そう考えている間に別の部屋に入って、店員は床を外して地下に続く階段の先に進むように言ってくる。
「俺たちを何処へ連れて行く気ですか?」
「……おいシン」
俺が喋ったことをハクは怒っているようだ。しかし、これ以上はさすがに店員を信用できない。ここから先に進むより、ここで俺らが話せることがバレる方がまだ危険は少ないと判断した。
「やっとあなたたちが話してくれましたね、何処へ連れて行くかは地下でお話しします」
そう言うと店員は階段を降りて地下へ行ってしまった。
「ごめんハク」
「……喋ったことはもういい、今は進むか無視して引き返すかだろ…………と言いたいところだったが、そうもいっていられない状況みたいだな」
ハクは被っていた袋を脱ぎ、扉に耳を当てて何かを聞こうとしていた。俺も袋を脱ぎ扉に耳を当てる。
「この酒場に人間が来ていると通報があった。隠れていないか各部屋を調べろ!」
「「「は!」」」
誰が通報したか分からないが、俺たちがここに来ているのがバレているみたいで探されているらしい。
「……このままここにいても、引き返しても魔物に見つかるのは時間の問題だ」
「じゃあ、進むしかないね」
俺たちは覚悟を決めて地下に続く階段を降りた。ある程度まで進むと、さっきまで俺たちがいた部屋の床が勝手に階段を隠すよう蓋になり、部屋に戻ることすらできなくなった。
「やっと来てくれましたか、さあこちらです」
ランタンで辺りを照らし、俺たちが来るのを待っていた店員が歩き出す。俺たちは後について行く。
店員が扉をノックして何かを呟くとガチャっと鍵の開く音が聞こえた。扉を開けると、そこには冒険者のような恰好をした人間が数人いて、武器の手入れなどをしていた。
俺とハクは予想していなかった光景で言葉が出なかった。
「おう、なんだ? 人手は欲しいと思っていたがガキはいらねーぞ」
部屋の中で1番扉に近い位置で武器の手入れをしていた人間が店員に向かって言った。
「今回はこの子たちが主役のようです」
「…………マジか?」
「マジです」
部屋の中にいた人間たちが俺らをじっと見ている。
「主役?」
「お前らのことだよ。このゲームの参加者だろ?」
「参加者と言うより、試しに魔力を込めて駒をスタート地点に置いたら、知らない場所に連れてこられた感じで……」
「参加条件満たしているじゃねーか。言い逃れはできねーな」
「……話しが見えてこないんだが」
急展開にハクは追いついていないようだ、もちろん俺も。
「その様子じゃ何も聞かされずにゲームを始めやがったな。だったら俺が説明してやる、このゲームは魔物に侵略された大地が舞台の体験型ボードゲームだ。そして俺はその侵略された大地を再び人間のものにするために結成された部隊の冒険者Aってところだ。それで、お前たちをここまで連れてきた店員は俺らの仲間だ、フード取って顔見せてやれよ」
店員がフードを取ると、人間の顔が現れた。
「しっかしお前らどうやってここまで辿り着いたんだ? まずチュートリアルの森でさまよっているお前らを、俺らの仲間が助けて、この街の酒場まで誘導するのが物語の始まりのはずだが」
「俺らはいきなり草原から始まりましたよ」
「草原ね……お前たちもか、前に参加したやつも草原からとか言っていたな……まぁそれはどうでもいいか。とりあえずお前らの目的はこの世界にいる魔王に勝つことだ。勝ちなら何でもいいぞ」
「ちょっとハクと2人で話しても良いですか?」
「おう、しっかり話し込んどけ!」
俺はハクと部屋の隅に行き話しを始める。
「目的は分かったけど、なんだか急に現実感無くなって来たよね。アオたちと合流してもよさそうじゃない?」
「……そうだな、一旦帰るとしよう」
俺たちは冒険者Aに街の外にいるアオたちのことを話すと、奥にある扉から地上に繋がる隠し通路を教えてもらうことができた。
「それじゃあまた来ますので、そのとき詳しく話しを聞かせてください」
「おう、気を付けろよ」
こうして俺たちはこのゲームの目的を知ることができた。
酒場でスライムに喋らせていたのに、俺らが喋れると店員にはバレていた。
そんな店員について行くと、地下室の部屋から人間が数人。
本来なら森でチュートリアルをやってからこの街に来るという手順らしいが、
俺らは先に街に来てしまったみたいだ。
ゲームのクリア条件は魔王に勝つこと、それを街の外で待たせているアオとユカリに知らせて、
4人揃ってから詳しく聞こうと思う。




