96話 邪箱の不思議な冒険!②(潜入)
俺たちは街から少し離れた位置に移動して、この後をどうするか考えていた。
「もし街にいる人が全員魔物だとしたら、情報なんて集めようがないよ」
「……そうだな、アオは何か良い案はあるか?」
「うーん……何も思いつかないよ……ユカリちゃんは何かある?」
「身体全体を隠せれば、お話しできたと思いますのに……」
「俺やアオやハクが買い物に使った袋があるから顔くらいは隠せるけど、足元しか見えなくなるし、街にいる魔物たちには手とか足とかは見えているし、魔物じゃないってすぐにバレそう」
「困りましたわ……」
そうやって色々考えていたが、良い案は浮かんでこなかった。
「スラ! スラ!」
ユカリに抱かれていたスライムが何かを言っているようだ。
「スライムの言葉が分からないから、何を言いたいのかさっぱり分からない」
「ねえスライムちゃん、私たちに何を伝えたいのかしら」
「スラ! スーラ、スラ!」
スライムはユカリから離れて身体をいっぱい使って説明しているみたいだが、俺にはやっぱり分からなかった。
「もしかして、君が情報を集めに行くって言いたいの?」
「スラ!」
アオがそう聞いたときに、スライムは上下に身体を動かしている、どうやら肯定しているようだ。
「……だが、そいつらだけ行かせても、スラスラ言うだけで、俺たちに伝わらなかったら意味がないぞ」
「じゃあスライムと一緒に行動するとかどうかな? 魔物と行動している人間なんてここにいないだろうから、怪しまれてもなんとかならないかな?」
「…………不確定要素が多すぎるな、そもそも誰がその役をやるんだ? ユカリは冒険者装備じゃないから戦えない、アオはあの街に入って情報を集められるとは思わない」
「そうですわ……私は戦える格好ではないですもの、魔物と戦闘になったら逃げることしかできませんわ」
「確かに僕は怖くて街に入りたくないよ……」
ユカリもアオも街に入れるには危険だ。そうなると入れるのは俺かハクだけ、どちらが行くべきか悩む。
「……なあシン、今自分か俺かのどっちが行くか考えていただろ」
「どうしてわかったの?」
「……そうじゃなければ悩まないと思ったからだ」
「なるほど、ハクはどっちが行った方が良いと思う?」
「……俺は2人で行った方が良いと思っている。俺が行っても、シンが行っても、アオたちが魔物に見つかったら、残った方だけじゃ魔物の数に対処ができない……だったら、2人で情報集めた方が情報は集まるだろうし、アオたちも人数が少ないから隠れやすいはずだ」
俺はどちらか1人が行くものだと決めつけていたが、ハクの言う通り、この状況なら魔物に見つかった時点でお終いだ。だったら少しでも多く情報を集められる人数を増やす方が良い。
「分かった、俺とハクの2人でスライムを連れて情報を集めてくるよ、アオとユカリは見つからないように気をつけてね」
「うん」
「わかったわ」
アオとユカリが返事をすると、ハクが袋にナイフで穴を開けていく。そして俺にいきなりその袋を被せてきた。
「うわっ、なにするんだよ!」
俺は慌てて袋を外そうとするが、異変に気が付く。袋を被せられているのにハクの顔がはっきり見える。
「……どうだ? 目の位置に穴は合っているか?」
「袋に穴を開けていたのはそういうことだったんだね。ちゃんと周りは見えるよ」
ハクが穴を開けていたのは周りを見ることができるようにするためだった。そしてハクは自分が被る袋にも同じように穴を開けて被った。
「……これで足元しか見えない問題は解決したな」
「じゃあ行こうか、スライムおいで」
「スラ!」
スライムは俺の頭に乗った。
「こうすれば俺たちに注意が向きにくいよね?」
「……分からないが、やらないよりはマシだな。来てくれ」
「スラ!」
アオのスライムがハクの頭に乗った。
「それじゃあ2人とも、行ってくるね」
2人と別行動をして俺たちは街へと情報を集めに潜入するのであった。
「……シン、この街にいる間は一言も話すなよ」
「分かっているよ、ハクも喋らないように気をつけてね」
俺たちは緊張しながら街の中を歩いて行った。周りからは視線を感じる、それもそうだ、俺たちは袋を被っているだけで、それ以外はフードを付けている。明らかに浮いていて、みんなの視線が俺らに集まるのは当然だろう。
俺とハクは街をぶらぶら歩いて聞き耳を立てながら情報を集めるが、他愛のない会話ばかりで、攻略するためのヒントになるようなことは何も得られなかった。
やはり話しを聞くだけじゃなく、こちらから話しかけたり、酒場などに入って情報を集めた方が良さそうだ。
そう思っていたところでいきなり目の前にヌッと、赤っぽい色の壁が現れる。
(おっと、壁がいつの間にかこんなに近くに……ん? さっきまでこんな色の壁なかったぞ)
視線を上にあげると、壁だと思っていたのは魔物だった。俺はフードの隙間から魔物と目が合い心臓がビクンと跳ねる。声が出そうになったが、それをなんとか押し込める。
魔物は俺たちの臭いを嗅ぎ始めた。
「貴様ら人間の臭いがするな。またモンスタウンを襲いに来たのか? そうはさせないぞ人間共! 今ここで叩き潰してやる!」
魔物はフードを脱いで正体を現す。そこにはベアードという熊みたいな魔物がいた。
「「スラ! スラ!」」
「何だお前たちは!」
スライムたちが俺らの頭の上でベアードに何かを伝えている。
「スラ、スーラスラ!」「スラスラ!」
「ほうほう……『こいつらは人間だけど、僕たちが捕まえていて大人しくしているから安全』と言うのか。そんなものは信じられないが、スライムが人間の仲間になる方が信じられないな。お前たちを信じよう。では失礼する」
そう言うとベアードはフードを被りなおしてどこかへ行ってしまった。
俺とハクは一旦路地裏に行き、今までの出来事について小さい声で話しを始める。
「……シン、俺と同じくらいの声で頼む」
「街にいる間は一言も喋らないんじゃなかったの?」
「……それは忘れろ……話を戻すぞ。街にいる魔物の言葉、どう思う?」
「まさか俺らと同じ言葉を使うなんてビックリしたよ。いや、魔物でも人間みたいな暮らしをしているから、言葉を話すかもとは少しだけ考えていたけど、まさかあそこまでハッキリ喋れるとは思わなかった」
「……それは俺も同感だ。スライムたちの言葉は俺たちに伝わらないが、魔物相手には通じると分かったのは大きい。これでスライムを通して情報を聞き出せる。そして問題はベアードの言葉だ」
「『またモンスタウンを襲いに来たのか?』でしょ? またってことは俺たち以外にも人間がいるってことだよね」
「……あぁ、とりあえず一歩前進と言ったところか、次は酒場などで聞き込みをしてみよう」
「分かった」
こうして俺とハクは酒場に向かうのであった。
シンとハクが袋を被ってスライムと一緒に街で情報集めをする。
スライムの言葉は俺たちには分からないが、魔物たちには伝わるみたいだ。
そして、この街に住む魔物は俺たちと同じ言葉を使っている。
次の目的地は酒場で、情報をたくさん集めよう。
街紹介
・モンスタウン
魔物だけが住んでいる街、そこには姿が魔物なだけで人間のような暮らしをしている。




