95話 邪箱の不思議な冒険!①(魔街)
「草原? 何でこんな所に……」
周りを見渡しても、遠くには森らしき所と、街が見えているくらいで、ここ周辺は特に変わった所は無いようだ。
何の情報も無いので、見えている街に向かおうとすると、店でぬいぐるみを買った袋がもぞもぞと動き始めた。
「うわっ! 何!?」
驚いて袋を投げ飛ばしてしまった。
袋からはぬいぐるみのスライムがゆっくりと出てきて、俺と目が合った。
「スラ」
「ぬいぐるみが動いて喋っている!?」
予想外のことに戸惑っているとスライムが俺に向かって飛んでくる。俺は襲われると思ってガードを固めていると、ぶつかって来たスライムに押し倒された。
ガードしている腕の隙間からスライムの動きを確認しているが、お腹の上で跳ねるだけで攻撃してこない。
カードを止めてスライムを見ていると、跳ねることを止めたスライムも俺のことをじっと見つめてくる。
「襲ってこないの?」
「スラ」
身体を上下に揺らして答えるスライム。これは肯定と判断してもいいかもしれない。
スライムは俺に頬擦りをしてくる。元々がぬいぐるみだからか、触った感触はぬいぐるみの時と同じで暖かかった。
そんなスライムを頭の上に乗せて立ち上がる。俺がバランスを取らなくてもスライムがしがみついてくれるので落ちることは無かった。
スライムを入れていた袋を回収すると、辺りが眩しく光った。
「うっ! 今度は何だ!」
光が収まると、アオとハクとユカリが現れた。
「うぅぅ……」
「……ここはいったい……」
「私たち、さっきまでこんな所にいませんでしたのに」
どうやら俺だけじゃなく、みんなもここに来てしまったようだ。
「大丈夫か!」
「その声はシンくん、無事だったんだね……って、頭にスライムが!」
アオが叫んだことでハクが咄嗟に弓を構えて矢を放ち、俺の頭上にいるスライムに攻撃した。俺は何とかしゃがむことでスライムに当たることもなかった。
「……シン、今助けてやるから動くな」
弓を弾き絞って俺にそう問いかけるハクに焦る。
「待って待って! このスライムは悪い奴じゃないよ!」
「スラ!」
俺はスライムを守るため、自分の身体を盾代わりに使って攻撃されないようにする。
『このスライムは店で買ったぬいぐるみが動いているだけで魔物ではない』と説明してもハクは疑っているようだが、アオの持っている袋がもぞもぞと動き出して、中からスライムが出てくると、俺の言っていることを信じてくれた。
「……ぬいぐるみが動いたり、いきなり草原にいたりと……どうなっているんだ」
「不思議ですわよね、でもゲームの中と言うなら不思議なことが起こってもおかしくないですわ」
「ゲームで思い出したけど、みんなはどうやってここに来たの?」
「僕たちもシンくんと同じように、駒に魔力を流してスタート地点に駒を置いたらいつの間にかここにいたよ」
「光ったと思ったら、シンくんがいなくなっているんですもの、ビックリしましたわ」
みんなの話しをまとめると、どうやら俺は、あの箱の中に入り込んでしまったようだ。
「……とにかくここを離れてあそこに見える街へ向かおう。ここが箱のゲームだとしたらクリアをすれば出られるはずだが、俺たちはクリア条件を知らない……情報を集めるためにも何か行動しないと」
「そうだね。ところでハクの買ったぬいぐるみたちはピクリとも動かないけど、魔法石と本のぬいぐるみだから動かないのかな?」
ハクが自分の袋を確認すると、小さくなった魔法石と本が入っていた。
「本物みたいに見えるね」
「……どうやら本物のようだぞ」
ハクが魔法石に魔力を込めると青白く輝き始めた。俺はハクからその魔法石を渡されて触ってみると、硬い感触になっている。
「スライムと違って、ぬいぐるみ感がないな。本はどうなってる?」
「……あぁ、中身は白紙になっているくらいで、本そっくりだ」
本をパラパラと最初から最後まで確認したが、どこにも文字は書いてなかった。
「せめてヒントでも書いてあればと思ったけど、そんなに甘くなかったね。やっぱり街に行くしかなさそうだ」
俺とハクが話しを進めている間に、アオとユカリはスライムたちと仲良くなっていた。
「スライムと一緒に街に入ると余計なトラブルに巻き込まれるかもしれないから、しばらくこの袋の中でおとなしくできる?」
「「スラ」」
スライムたちは袋の中に入って、おとなしくしてくれるようだ。
「シンくんのスライムは、私が持ちますわ」
「え? いやいいよ、このくらいなら邪魔にならないし」
「もっと触っていたいので私が持ちたいんですわ。ダメかしら?」
「ユカリが良いなら……」
「ありがとうシンくん!」
ユカリは俺からスライムの入った袋を受け取ると、袋越しにスライムを撫でたり話しかけたりしている。
「……行く準備はできたか」
「あぁ、大丈夫だ」
こうして俺たちは街に向かって歩き始めた。
街に近づくと賑やかな声が聞こえてくる。
「人はいるみたいだね、これで何か情報を得られるぞ」
「……待て、様子がおかしい」
街に入ろうとすると、ハクは急に足を止め、物陰に隠れるように指示を出す。俺たちはそれに従い同じ物陰に隠れた。アオは小声で何があったか聞いてみた。
「ハクくん、何か怪しいことでもあったの?」
「……全員フードを被っている」
「怪しいけど隠れるほどのことかな?」
「……フードだけならここまで警戒しないが、店の前で買い物をしている奴の手を見てみろ」
俺たちは店の前で買い物をしている人の手を確認しようと手を使うのを待った。店員と話しているようだが、遠くて何を話しているかまでは聞こえない。
店員が袋に商品を詰めて渡すとき、買った人の手が見えて驚いた。
「あれって……魔物?」
「……あぁ、他の奴も見た目は違うが人間ではないことは確かだ」
「じゃあここは魔物の街ってこと? 僕怖いよ」
「どうしましょうか、このままでは街に入れないですわ」
情報を集めに街に来たのに、街は魔物だらけだった。いったいこの後どうすればいいのか……
ぬいぐるみが動いて喋り、魔物と勘違いしたが、どうやら好意的みたいで襲ってくることは無かった。
アオ、ハク、ユカリも来て、どうやらここはあの箱のゲームの中だと分かった。
ゲームならクリアすれば出られるかもしれないということで、見えていた街に向かってみたが、
そこは魔物が住む町だった。




