89話 ☆2『毒草調達』②(解毒薬)
「逃げよう……」
俺はポイズンスライムから逃げる選択をした。あの魔物がどんな魔物かを知らない以上、無理に俺が戦う必要もない。そう判断してこの場から逃げ出した。
「毒霧から抜けた!」
毒霧は広い範囲にあるわけではなく、さっきまで俺がいた周りにだけあったようだ。しかし、視界が悪かったことで、進む道を間違えた。
ここの毒沼から離れるつもりで逃げたが、更に奥に進んでしまった。
「遠回りするか、ポイズンスライムの横を通るかって感じだな」
俺が毒霧からいないのを見ていたのか、毒霧は消えていく。すると毒沼には濃い紫色の球体のようなものが浮かんでいた。
その球体は俺の方に目掛けて山なりに飛んできた。
「うおっ!?」
俺はその場から離れることで避けることができた。飛んできた球体が地面に落ちると辺りは濃い紫色の毒沼ができていた。
「スラ」
「あいつの攻撃か!」
やはりこの攻撃をしてきたのは毒霧を使っていたポイズンスライムだった。
「ポイズンスライムが隠れるのに使っていた毒沼が薄くなっている。もしかしたら近くにある毒をまとめて飛ばしているんじゃないか? だとしたら、あの球を投げる攻撃はヤバい気がする。毒耐性の指輪でも防げない毒の可能性が高い」
だが、その攻撃をすることでポイズンスライムは毒沼に隠れることはできなくなっていた。
雨の影響で毒沼の毒が雨で薄くなっているのに毒を集めて別の場所に飛ばしているから、ポイズンスライムは沼の中にいても姿が見えていた。
「スラ」
「やっぱりそう来るか!」
ポイズンスライムは別の毒沼に移動して姿を隠した。そしてまた毒を集めて球にして飛ばしてくる。俺はそれを避ける。
「だいたい分かってきたぞ、あの魔物は毒霧を出すことと毒を集めて攻撃してくることができて、毒沼で姿を隠しながら戦う魔物なんだな。あの球は当たっても毒状態にされると面倒なくらいで、ダメージは少なそうだ。だったら戦っても大丈夫だな!」
俺は武器を持つ手に力を入れ、ポイズンスライムに向かって走り出し切りかかる。するとポイズンスライムは横に避ける、他の魔物に比べて背が高くないから、攻撃を当てることが難しい。
「えい! えい!」
「スラ」
俺が攻めている間は攻撃してこないようだ、何度剣を振っても避けられてしまう。
「はぁ……いい加減、当たってくれ!」
「スラ」
振り下ろした剣が地面に刺さる、やはりポイズンスライムには当たらない。すぐに次の攻撃をしようと剣を持ち上げようとするが、なかなか抜けなかった。
「雨で地面が柔らかくなったせいで、剣が深く刺さりすぎた、ふんっ!」
足腰にしっかり力を入れて勢いよく引っ張ることで剣を抜くことができた。その間にポイズンスライムはどこかの毒沼に隠れてしまったようだ。
「また探すところからか! しまった、毒霧!」
辺りは毒霧で見えなくなった。すぐに脱出して周りを見渡すと、さっきまで飛ばしてきていた毒の球が倍以上の大きさになっていた。
「スラ!」
「うわぁ!」
ポイズンスライムは毒の球を投げてくる。俺は直撃を避けることができたが、地面に落ちて広がる毒沼に流されて体勢を崩し、毒沼に倒れこんだ。
「うえっ!」
倒れた拍子に口の中に毒沼を飲み込んでしまう。強烈な苦みを感じて口の中に残った毒は吐き出したが、飲み込んだ毒は吐き出せなかった。
身体に異常が出るのかと思ったが、意外にもすぐに立ち上がり反撃することができた。
「はぁ!」
「スラ!」
俺が反撃してくると思っていなかったようで、ポイズンスライムは避けることができずに俺の剣が当たり、一部にダメージを付けることができた。
ポイズンスライムは俺がダメージを与えてきたことに驚き、逃げて行ってしまった。
「逃げられたか……うっ……」
急に眩暈がして膝をつく。どうやら飲み込んだ毒は毒耐性の指輪でも防げないほどの毒らしく、お腹が痛くなり身体が熱くなるのを感じた。
「加護ですぐに痛みは消えるけど、毒が身体の中から消えていないからすぐに痛みが始まる……」
そこで俺は解毒薬を買っていたことを思い出す。袋を調べると数個の解毒薬があり、蓋を開け飲み干した。薬のように苦い味だが、1本全て飲み終わると徐々に痛みが和らぎ、眩暈や身体の火照りは無くなっていた。
「ナーゲさんのアドバイスを聞いといて良かった。これが無かったら、街に帰って毒を抜くまでの間ずっとこの痛みを受け続けることになっていた」
ナーゲさんに感謝して、回復した身体を立ち上がらせる。毒沼に倒れこんだことで、レインコートは無事だったが、内側に着ていた服の袖や襟辺りは毒がしみ込んでいた。
「せっかくレインコート着ていたのに雨よりもしみ込んじゃいけないものが付いちゃった」
街に帰ってから洗うのが大変だと思いつつ、武器をしまって毒草調達を再開する。ポイズンスライムとの戦闘で、毒沼が移動していて毒草を探すのが大変だった。
雨も強くなっていく中、クエストクリアに必要な毒草を集めることができた。
「よし! もうここに用はないな。雨も酷いし早く帰ろう」
こうして俺は無事に毒沼の場所から離れ、見たことのある道まで帰ってくることができた。ここまでくればもう安心だった。
■
街に着き、ギルドへ向かった、中に入り受付にいるハンナさんにクエストクリアの報告をする。
「ハンナさん、クエスト終わりました」
「シンさんお帰りなさい、それでは確認しますね…………毒草20つ確認しました。クエストお疲れ様でした。こちらが報酬金となります。シンさんありがとうございます!」
俺は300Gと950GPを受け取って振り返るとドラコニスさんがいた。
「『毒草調達』をクリアしたみたいですね。毒耐性の指輪は役に立ちましたか?」
「そうですね、かなり役に立ったんじゃないかと思います。最後の方は指輪の効果でも防ぎきれなくて、毒状態になっちゃいましたけど……」
「途中がどうあれ、クエストクリアにしたことに変わりありません。またよろしくお願いします。あ、そうでした! シンくんに追加報酬を用意すると約束しましたよね? それの用意ができたので受け取りに来てもらえませんか?」
「もう用意できたんですね! 行きます」
「ではこちらへ」
ドラコニスさんについて行きギルド職員が使う部屋に入っていった。
部屋には箱が机の上に置いてあった。
「さぁ、座ってください。こちらがシンくんに渡すもう1つの報酬です」
「ありがとうございます。今開けても良いでしょうか?」
「どうぞ」
中を開けると黒色で長袖の服と長ズボンが出てきた。
「服ですか! ありがとうございます」
「いえいえ、この服は今シンくんが着ている服と同じくらいの防御力なのですが、雷属性のダメージを減らしてくれる効果があるのです」
「そんな効果が……ん? ということはもしかして、明日に雷が関係するクエストが出たりしませんよね?」
「おや、勘が鋭いですね。どうしてわかったのですか?」
「いや、なんとなくですけど、毒耐性の指輪を貰った後に『毒草調達』を見つけたので、もしかしたら雷に関するクエストもあるのかなぁと」
「なるほど、ちなみにもし雷のクエストが貼られていたらやりますか?」
「そうですね、難しいクエストじゃなければやると思います」
俺がそう言うとドラコニスさんは少し考えてから俺にこう告げた。
「でしたら明日ここに来てください、シンくんにやってもらいたいクエストがあります。大丈夫です、魔物と戦うようなクエストではないので」
「本当ですよね?」
「はい、詳細は明日伝えます。今日はゆっくり休んでください」
こうして俺は明日雷に関するクエストを受けると約束をして自分の部屋に戻った。汚れた服を洗濯して荒れてくる雨が窓を叩く中、明日に備えて眠りについた。
逃げるつもりだったが逃げられず、ポイズンスライムの攻撃をくらう。
回避していると行動パターンが見えてきて戦うことに切り替える。
なんとかダメージを与えポイズンスライムは逃げて行った、
しかし、毒に侵され苦しむ。そこにナーゲさんからのアドバイスで購入した解毒薬を飲んで回復した。
街に帰るとドラコニスが追加報酬をもう用意していて中身を確認すると、
雷属性のダメージを減らしてくれる服を貰った。
そしてそのまま次のクエストの約束をすることになった。
装備の紹介
・サンダーガードの服
見た目は黒色で長袖の服、
雷属性のダメージを抑えてくれる。
・サンダーガードのズボン
見た目は黒色の長ズボン、
雷属性のダメージを抑えてくれる。




