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75話 ☆2『アルンの洞窟へ運搬』⑤(拠点)

 ―10階―






 10階に着くと、6階から9階までにあった地上のような地形はなくなり、5階のモンスターハウスのように、通路はなく、1つの部屋となっていた。



「ここにボスが出てくるのか……というより本当に10階に団長さんなんているのか?」



 周りを見渡しても俺とナーゲさんしかいないように見えた。



「ボスを倒せばわかるさ……さぁ来るぞ、少年は後ろに下がって戦いに巻き込まれないようにしろよ」



 ナーゲさんが刃の付いたナイフを何本も手に装備して、ボスへの準備を整えると、10体以上の魔物が生まれそうなほどの大量の魔素が1つに集まり、ボスの魔物が形となっていく。


 熊のような見た目で赤い毛皮に青い瞳の魔物が生まれた。



「5(メートル)級のベアードがボスか、俺が初めてここに来た時と変わらねぇな」


「グルァァァ!!!」



 ベアードが叫ぶと、耳を手で塞ぐほど大きな声で、ビリビリと痺れるように空気が震えているように感じた。



「先手はもらうぜ! おらぁぁぁ!」



 ナーゲさんは空中にナイフを軽く投げ、左右の手で1本ずつ掴み魔力を込めて、ナイフをベアードに投げつける。


 投げ終わると、すぐに空中に軽く投げたナイフを左右の手で1本ずつ掴み、

 また魔力を込めてベアードに投げつけた。



「グガァァァ!」



 ナーゲさんの投げたナイフはベアードの身体に刺さり、ダメージを与えている。しかし身体が大きいからか、ナイフで刺された部分から血を流していても動きが衰えていない。


 ベアードはナーゲさんに突進して爪で攻撃をしてくる、それを飛んで空中に回避をする。ベアードの後ろを取ったところで、背中にナイフを投げダメージを与えていった。


 ベアードが暴れることで、刺さっていたナイフが抜けていく、ナーゲさんが手に魔力を込めると、ナーゲさんの手とナイフは糸のように繋がっていて、手を後ろに動かすと、落ちたナイフはナーゲさんの手に戻っていった。



「『バレッド』」


「グガァァァ!」



 ナーゲさんが魔法を唱えると、魔力の針が何十本も現れてベアードの顔に針が刺さる。ベアードは自分の顔に何度も攻撃が来て、前足で顔を守ってしまう。


 ベアードのその行為は隙でしかなく、ナーゲさんは先ほど回収したナイフに、剣と同じくらいの長さまで魔力の刃を伸ばすと、今度はナイフと同じ大きさになるまで魔力を圧縮する。



「『サンダー』」



 圧縮した魔力に雷属性の魔法を付与して、ナイフからはビリビリと電気の音が聞こえていた。



「これで倒れろぉ!」


「グギャァァ!」



 ナイフをベアードのお腹目掛けて投げつけると、お腹を突き破り、中で電気が流れて、ベアードがビリビリと痺れ痙攣を始める。それでも生きているのか、カクカクと動きながらもナーゲさんに攻撃をしようと前足を振り上げる。



「まだ倒れねぇか、だったらこいつをくらえ!」



 ナーゲさんは両手に魔力を込めると、ベアードに刺さっているナイフ全てと魔力の糸で繋がった。



「『ドン・サンダー』」


「グギガガガァァァァァ!!!」



 魔力の糸から雷属性の魔法がベアードに伝わり、内側と外側の両方に電撃を受けていた。


 電撃が収まると、赤い体毛が所々黒く焦げていて、全く動くことはなかった。ベアードは身体の先端から徐々に魔素に変わり、大量の経験値が俺たちの身体に入ってくる。魔石も大きく、俺の拳くらいの大きさがあった。



「この魔石は俺がもらうぞ」


「ナーゲさんだけが戦っていたので、全然かまいませんよ。今までもらった魔石だけでも十分です」



 ナーゲさんが魔石を袋に入れると、壁に『11』の数字と『10―2』の数字が現れた。



「次に進む階段が2つある!?」


「少年、目的地はこっちだ」



『10―2』の壁に触れて階段を出現させる。目的地ということは、この先に団長さんがいるはずだ。俺はナーゲさんと一緒に階段を降りていった。






 ■


 ―10―2―






 10階の2に着くと、地面はこの洞窟でよく見かける石でできた床と壁に魔石が光っているが、天井は地上と同じように空が見えていて、雨が降っているように見えるが、身体には1適も雨粒は当たらず、地面にも雨の痕はなかった。


 少し離れた位置には家が複数も建っていて、畑があったり水が流れていたりしているが、一番驚いたのは人がいることだった。


 まるでここで生活しているのか、畑を耕す人や、牛や鳥などを育てている人、冒険者のような見た目をしている人たちまでいた。



「団長の所まで行くぞ」



 ナーゲさんは驚くことなく人のいる方に歩いていく。俺も小走りで後を付いていくと、全身に鎧を装備していて顔は見えないが、背中に大剣を装備している冒険者っぽい男性からナーゲさんは声をかけられていた。



「おっ、ナーゲじゃねーか! ここで会うなんて珍しいな」


「うるせぇ、俺はこの少年と団長の所に行くんだよ」


「この少年と……ははーん、なるほどね。そこの少年、名前は?」


「シンです」


「そうか、シンって言うのか! ナーゲはあんな感じだが、仲良くしてやれよ」



 俺が男性冒険者に肩をポンポン叩かれているとナーゲさんが止めに入る。



「もう絡みはいいだろ、通してくれ」


「おう、頑張れよ」


「…………ああ、分かっている」



 俺は冒険者の人にお辞儀をしてナーゲさんと団長さんの所へ向かう。



「ナーゲさん、あの人は……」


「あの人は(ほし)5冒険者のダイケン、大剣を武器に魔物をバッタバッタと倒していく冒険者だ」


「そんな凄い冒険者もここの洞窟に来るのですね。ダイケンさんもクエストといて来ているのかな?」


「いや、あの感じを見ると、魔物を狩って、経験値を得に来た感じだろうな。(ほし)5にもなると、受けられるクエストは一気に狭くなる、魔物の討伐も1人じゃ厳しい相手ばかりになる」


「それじゃあダイケンさんもパーティー組んでクエストやればいいのに……」


「……それはできないんだ」


「え?」



 ナーゲさんが急に歩くのを止めて顔を伏せる、なにか事情があるのだろう。



「こんな道の真ん中で話じゃないな、俺がおごるから飯食いながら話そう」



 そう言って、進む方向を変えて、食堂をやっている建物に入っていった。






 食堂に入ると、店員のおばちゃんに「いらっしゃい!」と言われて出迎えられた。店内を見渡すと、何人かの冒険者がいるくらいで席は空いていた。俺たちは、窓際の人が少ないテーブルに座る。


 店員からもらったメニューを見ると、値段が地上に比べて高く、種類も少ないうえに、飲み物は水とミルクしかなかった。それにここでは先払いで、(ゴールド)か魔石しか払う方法は無いようだ。



「ベアードの魔石で払うから気にせず頼んで良いぞ。ただ、食べきれない量は頼むなよ、ここは食料も水も地上に比べて貴重だからな」



 ナーゲさんが俺を睨んで圧をかける。


 俺は卵とトマトのスープにパンを1つとミルクを注文して、ナーゲさんは卵サンドパンと水を注文した。



「これだけでいいのかい? ベアードの魔石ならもっと注文しても大丈夫だよ」



 店員が俺たちに忠告する。



「俺たちがこの店にいる間、周りに人を近づけないようにしてくれればいいさ」


「分かったよ、すぐ料理持ってくるね!」



 店員が離れて、キッチンで料理を始めた。そこで、ナーゲさんが話し始める。



「ダイケンがパーティーを組めない理由だったな……それは、アルンの街に(ほし)5冒険者が少ないからだ。お前も街の外でモンスターを狩っていて気が付かないか? この辺りにいる魔物が弱いことに」


「俺にとっては強いと感じますけど、確かに俺でもなんとか戦えていると感じますね」



 言われてみると、めちゃくちゃ弱いはずの俺でもスライムは倒せるようになっている、俺よりも強くなるのが早くて、先に冒険者をやっている人が、アルン周辺にいる魔物で満足できるのだろうか?


 全て狩りつくされて魔物はいなくなるんじゃないだろうか?



「魔物が弱いから、アルンのギルドは高ランクのクエストをなかなか出さない、そうなると、上位冒険者はアルンから離れて、別の国や街のギルドのクエストを受けにこの街から旅立つ。


 (ほし)5になった冒険者は(ほし)4のクエストを受ける権利がなく、たまにある(ほし)5以上でも受けられるクエストも、他の(ほし)5冒険者がいないから、なかなか手を出すことができない……」


「確かにそんな状況なら、生活も厳しくなりますよね……でもそれならアルンの街から出て、違う所でクエスト受ければいいのに」


「やっぱ少年もそう思うよな、俺だってそう思って、何度も言ったが、聞く耳を持たなかった。『そろそろアレの時期が来るかもしれないからこの街から離れられない』とな」



 ナーゲさんは帽子を深く被って黙ると、数秒後料理が運ばれてきた。



「お待たせ! こっちが卵とトマトのスープにパンとミルクで、こっちが卵サンドパンと水ね! あとこれお弁当用に追加で卵サンドパン2つ作っといたから、2人で食べなさい」


「ありがとうございます」


「良いのよ、それじゃあごゆっくり」



 店員が去っていくと、俺はスープを一口飲み、話しを再開した。



「アレの時期とは何ですか?」


「アレの時期と言ったら魔王軍の時期のことだ」


「魔王軍!?」


「ここ数年現れていなかったが、どうやらダイケンの話しではそろそろ動きを見せるらしい。数か月前から強個体の出現頻度も高くなっているし、冒険者学校の生徒が実戦訓練中に強個体と遭遇して、1人死にかけることにもなったそうだ」



 死にかけたのは俺のことだな……と思いつつ、スープとパンを食べてやり過ごす。



「魔王は俺たちの前に現れることは無いが、魔王の出す魔素が魔物に影響して狂暴性を増したり、強個体や当然変異種などが増える。魔王の配下が多くなるほど、勢力を広げてくるから、魔王軍の戦力を減らして後退させなければならない」


「魔王軍のことは少し分かりました。しかし、それとダイケンさんがこの街に残る理由が分かりません」


「それは最初が肝心だからだ、1日討伐が遅れるだけで魔王軍の戦力は増えるんだ。この前も、ドン・ゴブリンが発見されたのに、雨で1日討伐が遅れたせいで、ゴブリンの数が想定より多くなったそうだ。優秀な冒険者が揃っていたおかげで被害は少なかったがな」



 そう言うと、ナーゲさんは卵サンドパンを全部食べ水で流し込む。



「とにかく、そんな訳でダイケンはこの街から離れないんだ。散々魔王軍のことについて言ったが、本当に来ているかは誰にも分からない、思い過ごしかかもしれないから誰にも言うなよ。そろそろ団長の所に行って、この荷物を届けないとな」



 俺は残りのスープとパンを食べ、ミルクを一気飲みして食堂を出て、俺たちは団長さんの所に向かった。

10階のボスはベアードで、ナーゲさんの投げナイフや魔法の使い方で倒した。


ボスを倒すと10―2という別の道があり、そちらに進むことで、洞窟の中だというのに、

人が住んで生活ができていた。どうやらここを拠点にして、食料や水を冒険者に与えているみたいだ。


魔王軍の話しも出てきて、俺のこれからの冒険者生活はどうなってしまうのか……


新キャラ紹介


・ダイケン

全身に鎧を装備していて、顔まで隠れている(ほし)5冒険者の男性。武器は大剣を使用する。


魔法の紹介


・『バレッド』


無属性の魔法で、魔力の針を複数本放つ。シンが最初に覚えようとした魔法の1つ。


・『サンダー』


雷属性の魔法で、相手に電撃を浴びせる。


・『ドン・サンダー』


サンダーの上位魔法、さらに強力な電撃を浴びせる。




魔王軍


魔王が勢力を拡大して住処を増やそうとしている。

魔王が近くにいるだけで、魔物が活発になり危険なので、さっさと追い返すのが良いだろう。

また、魔王軍は1つだけではなく、たくさんあるらしい……

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