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71話 ☆2『アルンの洞窟へ運搬』①(荷物)

 目を覚ますと軽めの雨が窓を叩く。俺は朝食を済ませてレインコートを着て、ギルドへ向かった。



「ハンナさん、おはようございます!」


「シンさんおはようございます!



 ギルドに着くと元気よく挨拶をしてくれるハンナさんは、受付からいなくなり掲示板の隣にある扉から出てきた。



「シンさん、こちらへどうぞ」



 俺はハンナさんに付いていき、何度も通された部屋のイスに座る。



「では、ドラコニスさんを呼んできますので、お待ちください」






 そう言われてから大体30分ほど待ったがドラコニスさんどころか、誰もこの部屋に来なかった。さすがに遅いので、部屋から出て廊下を見渡すと、ドラコニスさんと、その後ろに両手で抱えるほどの大きさの荷物を抱えたハンナさんがいた。そんな2人を見ていたらドラコニスさんと目が合った。



「シンくん、遅れてしまいすみません。そのまま扉を開けたままで結構ですので、イスに座って待っていてください」



 荷物を持ったハンナさんに合わせてか、歩く速度は変わらず部屋に入ってきた。ハンナさんは荷物をテーブルの上に置いて、イスに座った。



「この雨で思うように仕事が進まなくなって遅れてしまいました。すみません」



 頭を下げて謝るドラコニスさん、俺は「もう気にしていないので大丈夫ですよ」と言った。



「ありがとうございます」



 そう言って頭を上げ、イスに座るドラコニスさんは1枚のクエストを懐から出し、ハンナさんに渡した。



「では今回のクエストについて話しましょう、ハンナ」


「はい! クエスト内容を読み上げますね」


 ――


 (ほし)2『アルンの洞窟へ運搬』


 クリア条件:指定された荷物を届ける


 報酬金:300(ゴールド) 900GP(ギルドポイント)


 参加条件:(ほし)2冒険者1人以上


 ~依頼内容~


 指定された荷物を、アルンの洞窟10階にいる団長に届ける


 ――


「この荷物を、そのアルンの洞窟の団長さんに届ければいいのですね。ところで、アルンの洞窟って何ですか?」


「アルンの洞窟というのは、女神アルンによって人間が魔物と戦う力を得られるように作った洞窟と言われています」


「そう言えば、どこかでそんなことを聞いたような……」



 思い出そうとしてみるが、どこで聞いて誰に言われたか全く思い出せなかった。ドラコニスさんはアルンの洞窟に詳しそうなのでどんな所かも聞いてみた。



「アルンの洞窟は、先ほども言ったように魔物が出てきます。ただ、地上と違う所は、倒した魔物の死体が残らないということ……素材にすることも食料にすることもできず、魔素となり、魔石と経験値しか得られません」


「魔石? 魔法石と何か違いがあるのですか?」


「魔石は魔素を吸収したり放出したりする石、魔法石は魔力を吸収したり放出したりする石。つまり、魔素か魔力かの違いだけでほとんど同じような石です。ですが、魔石の魔素を取り除き、加工することによって、私たちが使う魔法石になったり、武器や防具など様々なアイテムになるのです! ……話がそれましたね」



 咳笑いをして場を整え、アルンの洞窟の説明を続ける。



「アルンの洞窟は地下に降りていく洞窟です、下の階に行くほど魔物は強くなっていきます。最も深くまで行った冒険者でも79階だそうです」


「79階が最下層ですか……結構深いのですね」


「いいえ、最下層ではありません、まだまだ下に続く階段があったそうですが引き返したみたいです」


「え? 魔物が強いってことですか?」


「いいえ、魔物の強さは(ほし)4冒険者以上なら1人でも倒せる強さだそうです、ただ、食料などを現地調達できない関係で、持っていける食料で行ける階層が決まってしまうのです」


「なるほど……」



 俺とドラコニスさんで話が盛り上がっていると、ハンナさんから「ドラコニスさん、話が長いです。簡潔にまとめてください」と注意を受けていた。それを受けて、ドラコニスは元々良かった姿勢を更に正してまとめてくれた。



「アルンの洞窟は、手に入るのが魔石と経験値だけで、下に降りるほど魔物が強くなるということだけ今は覚えてもらえれば大丈夫です。ではシンくん、荷物お願いしますね」


「分かりました!」



 俺は、荷物を背負う。中身は重く、後ろに重心を置くと倒れそうになる。



「それでは行ってきます!」



 俺はドラコニスさんとハンナさんに手を振り、ギルドの掲示板の前に着くと1人の冒険者に話しかけられた。



「その荷物、お前もアルンの洞窟に行くのか? 俺も行くところだから一緒に行かないか」



 話しかけてきたのは、帽子を被り、片目を黒髪で隠している細身で長身の男性だった。その人も俺と似たような荷物を背負っていることから、アルンの洞窟に行くというのは間違いないだろう。



「んー良いですよ、一緒に行っても。俺はシンと言います、あなたは誰ですか?」


「おっと少年、むやみに人を信じて連れて行っちゃぁいけないぜ、俺が悪い奴だったらどうするんだい?」


「いやいや、悪い人はそういうこと自分から言わないですよね」



 俺は手や顔をブンブンと横に振った。



「それもそうだな! お前面白いな、俺はナーゲナイフ。気楽にナーゲさんとでも呼んでくれれば良いぞ、少年」


「ナーゲさん、俺はシンって名前が……」


「このクエストを無事にクリア出来たら名前で呼んでやるよ。でも安心しな、この俺が付いていれば、この辺の魔物相手に少年を守りながら戦うのなんて余裕さ」



 人差し指で帽子を軽く上げ、ニヤッとした表情をして俺を見ていた。



「さあ行くぞ少年、あんまり長居していると雨が強くなっちまう」



 どこからか取り出したレインコートを着て、ナーゲさんはギルドの扉を開けて俺を待っていた。



「今行きますよ!」



 俺はナーゲさんと一緒にアルンの洞窟まで向かうことになった。






 ■






 俺たちは今、馬車に揺られてアルンの洞窟に向かっていた。



「馬車に乗るのなんて久しぶりです、これを無料で乗っちゃって良いんですか?」


「本来は(ゴールド)GP(ギルドポイント)がかかるが、俺たちはクエストでこの荷物を届けるんだ、これくらいの費用はギルドが出してくれるのさ」



 ガタガタと揺られながらアルンの街を離れていく、いつもクエストで行く草原や森とは違う道を移動していた。


 ポツポツと降っていた雨も、今ではザーっと大きい音を立てて馬車の屋根を叩いていた。






 しばらく雨の音を楽しんでいると、馬車が止まった。



「着いたみたいだな、少年行くぞ」



 俺はナーゲさんに引っ張られて馬車から降ろされた。


 目の前にはかなり大きい岩の壁があり、そこには大きな穴が開いていた。穴の周りには建物が並んでいて、宿屋や道具屋などがあった。


 洞窟の穴には槍と鎧を装備した兵士のような人たちがいて道を塞いでいる。俺たちが穴に近づくと、槍を横に向け通さないようにしてくる。



「アルンの洞窟に何の用だ!」



 穴から離れた位置で座っていた兵士が俺たちの前に来て聞いてきた。



「俺たち2人、アルンの洞窟に入りたいんだが」


「では通行料として1人100(ゴールド)払ってもらおう」


「俺たちはこの荷物を届けるんだ」



 ナーゲさんは俺と自分の背負ったものを兵士に見せていた。



「ふむ……確かにこれはギルドからの荷物だな。よし、通って良いぞ!」


「「お気を付けて!」」



 兵士たちは敬礼をして俺たちをアルンの洞窟へ通してくれた。



「あれは何なんだ?」



 俺が疑問に思っているとナーゲさんが答えてくれる。



「あれはギルドから派遣された門番だ、このアルンの洞窟はギルドの所有物ってことになっている」


「無料で通してくれてもいいのに……」


「昔は無料だったらしいが、死ぬ冒険者が多くて、仕方なく通行料を取っているらしい。100(ゴールド)払わなきゃいけないと分かれば、それなりに腕に自信のある冒険者しか来ないってことだそうだ。実際、それで本当に死ぬ冒険者は激減したみたいだぜ」



 ナーゲさんはレインコートを脱ぎ始める。



「少年、ここからは雨の心配はないからレインコートは脱ぎな」



 俺はレインコートを脱いだ。



「さぁ、まずは1階から攻略だ! ちゃんと守ってやるからついて来いよ、少年」

・アルンの洞窟


女神アルンによって作られた洞窟、手に入るものは魔石と経験値だけで、下に降りるほど魔物が強くなる。

現在の最下層は79階だがまだまだあるらしい。


新キャラ紹介


・ナーゲナイフ(ナーゲさん)


帽子を被り、片目を黒髪で隠している細身で長身の男性。

(ほし)4冒険者であり、投げナイフを武器として使う

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