70話 ☆1『スライム討伐』③(昇格)
「今日二度目の草原だ……今の俺の状態を確認しよう」
傷はポーションを使い完全に消え、加護も戻ってきている。魔力は使い切ってもう魔法は使えない。
「今日はもう魔法が使えないから、それを考えて行動しないとな」
真上から照りつける太陽に向かって剣を突きつけ気合を入れる。
「さぁ、スライムを探すぞ!」
朝と同じように、草を刈りながら前へ進んだ。
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「……スライムがいるけど2体いるな、違う所探さなきゃ……これで3回目だよ……」
額の汗を拭いため息を吐く。1体しかいないスライムを探しているが、なかなか見つからない。いたとしても見える範囲に別のスライムもいて、戦えば1対複数は避けられそうもなかった。
理由はこの暑さにあるだろう。クエストに行くときは朝ばかりだったから気温も穏やかだったが、今は真上に太陽がある昼、草原の気温は高くなり、長居するには向かない場所になっていた。
そんな状態だからか、スライムたちも草原から離れ、森の入り口にある木の陰で身を潜ませている。そこに、草原にいたスライムが集まっているので、入り口付近にはスライムが多かった。
「もう森の中に入って隠れながら探した方が良さそうだな」
森の中に入って木の陰に行くと、涼しい風が身体を冷やしてくれる。
「涼しい……これじゃあスライムたちが熱い草原にいるわけないよな。ここじゃあスライムが多いから、もっと奥を探してみるか」
他の魔物と出会わないように気を付けながら、森の奥へと進んでいく。
涼しい風が吹く方向に歩き続けると光が見えてくる。その先には大きな湖があった。
「森の中に湖なんてあったのか!」
ここの湖には人の出入りがあるらしく、近くには小屋があり、木製の船着き場とイカダがあった。
湖は綺麗で、中を覗き込むと、浅い所には空気草が生えていて、深い所には大きいクラゲのような何かが泳いでいるのが見えた。
更に深い所にも何かいるみたいだが、暗くなっていて形も大きさもよく分からなかった。
「グルァァァ!」
獣の鳴き声が聞こえてくる。周りを見ると、湖の向こう側に赤い色の熊が俺に向かって吠えていた。
「あいつは確かベアードの通常個体! あいつがいるってことは、俺はかなり奥の方まで進んじゃったってことだな……」
ベアードは辺りを見渡して通れる所を探しているようだが、湖が広いおかげで、俺の所までたどり着く道を見つけられないようだった。
しかし、そんなことでは諦めないのか、湖に飛び込み、泳いでこちらに来ようとしていた。
「うあっ!? こっちに来る、逃げなきゃ!」
呑気に眺めていた俺は、慌てて逃げようとすると、ベアードの様子がおかしいことに気が付いた。
「グルァァァ!」
ベアードが湖に入って少し泳いだところで、触手に捕まり、その場で暴れていた。
触手はどんどん増え、ベアードの抵抗を抑え、湖に引きずりこんでしまった。
「ここは俺の来て良い場所じゃないな……」
戦いとも言えない、一方的なやられ方を見てレベルの違いを理解し、逃げるように湖から離れた。
森の中を走り続けて、草むらに入り辺りを警戒する。
「はぁ……はぁ……ここまでくれば、よく見る森の風景と同じだ。助かったぁ」
安心したからか、急に疲れが現れ座り込む。すると、草むらの陰に青色の何かが光った。
「あ、スライムだ。しかも怪我をしている」
怪我をしたスライムは草むらに身を隠して寝ているようだが、たまたま俺が座った位置からなら見えていた。
「もしかしたら、朝に戦って逃げられたスライムかな? とにかく寝ている今がチャンスだ」
俺は剣を抜き、足音を立てずにゆっくりと近づいて剣を突き刺した。
「スラ!?」
スライムは攻撃されたことで目が覚める。刺した剣を抜くと血が一気に噴き出した。元々弱っていたからか、反撃をしてこないので連続で攻撃する。
「えい、えい、えい!」
「ス……ラ……」
スライムは動かなくなり、経験値が俺の中に入ってきた。
「これで、クエストクリアだ! あぁ、大変だった……」
少し休んだ後、倒したスライムを持ち、森を抜けた。
森を抜け草原に出ると、ギルド職員がリュックや袋を持って立っていた。
「クエストお疲れ様です。魔物を運ぶのは大変でしょう。そのスライムは私がギルドまで運びます」
「良いんですか!」
「もちろんです、それが我々ギルド職員の仕事の一部ですから」
「分かりました、それじゃあお願いします」
俺はギルド職員にスライムを渡し、街に帰った。
■■
ギルドに着くと、早速ハンナさんの所に向かいクエストクリアの報告をする。
「クエストお疲れ様でした。シンさんが倒したスライムは、3体回収されたことをギルド職員が確認しています。こちらが報酬金となります。ギルドカードにもGPを入れときました。新しいギルドカードをご用意しているので少々お待ちください」
報酬金の100Gを受け取り、あとは新しいギルドカードと200GPを受け取るだけだ。
「そしてこちらが新しいギルドカードです! シンさん、☆2冒険者にランクアップおめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
受け取ったギルドカードには少し装飾がされていて、冒険者の欄には☆が2つ付いていた。
「シンくん、ランクアップおめでとう。私の出したクエストを見事達成したみたいだね」
「ドラコニスさん!」
ドラコニスさんは軽く拍手をしながら2階から降りてきた。
「これで冒険者として認めてもらえますよね?」
「もちろん、シンくんは普通の冒険者と同じだけの実力があり、☆2になったことを認めましょう!」
「やったぁ!」
俺がガッツポーズをして喜んでいると、何やらまだ話があるらしい。
「実はシンくんには明日受けてもらいたいクエストがあるのですが、受けてくれますか?」
「良いですけど、いったいどんなクエスト何ですか?」
「ある場所にモノを運んでもらいたいのです。詳しくは明日説明しますので、朝の9時までには来てくださいね。では、今日は大変だったと聞きます。部屋に帰ってゆっくり休んでください」
「分かりました、それではまた明日お願いします!」
俺は遅い昼食を済ませて部屋戻り、ギルドカードをニヤニヤと眺めつつ、次の日に備えて身体と心を休めた。
今日は、森で湖を見つけたり、ベアードが簡単に触手に負けてしまったりとあったが、
スライム3体との戦いを、苦戦をしながらも勝利することができた。
これで俺はドラコニスさんにも認められ、☆2の冒険者となった。




