68話 ☆1『スライム討伐』①(証明)
「ん……朝か……」
窓から入る眩しい光で目を覚ます。今日は雲一つない快晴のようだ。
「……ちょっと寝すぎたみたいだね……あれ? なんだかいつもより身体が軽く感じるな」
剣を装備しても、昨日より重く感じない。
「あっ、そうか! ゴブリンを倒したことで経験値が入って強くなったんだな」
ゴブリンにダメージを与えていたのはハクやユカリだったけど、それでも俺はこんなに強くなれるのかと驚いていた。
ゴブリン5体を4人で倒したから、1体分の経験値は俺にも入っているはずだ、たったそれだけでもここまで違いが分かるなんて、経験値って凄いんだなと思った。
「それじゃあ、今日もクエスト頑張るか!」
俺はやる気が沸き上がり、朝食を済ませてギルドへ向かった。
■
ギルドに着くと、かなり多くの冒険者がいた。
「さて、今日はどのクエストやろうかな、ハンナさんおはようございます!」
掲示板でクエストを探していたら、ハンナさんが紙を持ちながらこちらに来るのが見えた。
「シンさん、おはようございます!」
「それ新しいクエストですか?」
「そうですよ、基本は朝と昼と夜の3回クエストを貼るんです」
「夜にクエスト貼っているところは見たことあるけど、朝と昼は見たことないですね」
「それはシンさんが早くギルドに来るからですよ、今日みたいに少し遅く来れば、色んなクエストを選べますよ! あっ、そういえば、ギルドからシンさんにやってもらいたいクエストがあるみたいですよ」
「俺にやってもらいたいクエスト?」
「はい、このクエストを掲示板に貼り終わって、他の冒険者さんのクエストを受注しましたら呼びますので、待っててもらえますか?」
「分かりました、待っていますね」
俺は食堂の空いている席に座って待つことにした。
まだ☆1の冒険者の俺にギルドからクエストが出るなんて不思議だ。いったいどんなことをやらされるのだろうと、考えていた。
ハンナさんが掲示板にクエストを貼り終えたことで、掲示板の周りに冒険者が集まり騒がしくなる。冒険者たちは次々とクエストを取って、ハンナさんたちギルド職員が受注していく。
数分眺めていると落ち着いてきて、ギルドは静かになってきた。
「シンさん、お待たせしました。こちらへどうぞ」
ハンナさんに連れられて、掲示板の隣にある扉に入る。冒険者登録をした時と同じ部屋に通された。
部屋の中には、少し豪華な服を着ている金髪で長髪の男のギルド職員が1人いた。
「君がシンくんだね」
「はいそうですけど、あなたは?」
「僕は、中央大陸アルン国本部のギルド長を任されているドラコニスと申します」
「本部の人がこんなところに来るなんて!?」
俺が驚いていると、ハンナさんは口を手で押さえながらフフフっと笑っていた。
「シンさん、ここのギルドが本部なんですよ」
「規模が小さいから本部と思わないのも無理はありませんが、毎回冒険者たちに驚かれるので泣きたくなります……」
ドラコニスは上を向き、目頭を指で押さえて涙が出ないようにしていた。
「あの……ドラコニスさん、シンさんも待っていますから本題に入りませんか?」
「そうですね、立っているのも辛いでしょうから、シンくんもハンナも座りなさい」
俺たちが席に着くとドラコニスさんは咳笑いをして場を整え真面目な顔になり、話し始める。
「シンくんは、冒険者がどのように☆を上げていくか知っていますか?」
「……たしか『調達』『討伐』『調査』クエストのクリアした数と、GPで決まると聞きました」
「その通りです。我々ギルドは冒険者たちの☆を上げるには、シンくんが言ったようなことで決めています。
☆2に上がるためには、1000GP以上報酬として受け取っていることが条件です。シンくんはこれまでのクエストで、合計1150GPを受け取っています」
「じゃあ俺はもう☆2冒険者ってことですか?」
「他の冒険者なら、条件を満たしたら☆を上げるのですが、シンくんは事情がありまして、上げることができないのです」
俺だけが上がれない理由は何だろう? 冒険者学校の出来事を振り返ればいくらでも出てきて原因が分からなかった。
「シンくんは冒険者学校でスライムを1人で倒した記録がありますし、クエストではパーティーでゴブリンを倒した記録もあります。我々ギルドが把握しているシンくんの魔物の討伐はこれだけなのです。そして、魔法は『スマッシュ』のみを使えるというのも分かっています。
しかし、君は冒険者学校で最弱だったと聞いています。☆2になれば、より危険なクエストも増えてきます。シンくん、君の実力を僕はまだ信じられません。どうかこのクエストをクリアして、普通の冒険者と同じだけの実力があることを証明してください」
ドラコニスさんは、ハンナさんに1枚のクエストを渡した。
「クエスト内容を読み上げますね」
――
☆1『スライム討伐』
クリア条件:スライムを3体討伐
報酬金:100G 200GP
参加条件:☆1冒険者1人
~依頼内容~
草原や森にいるスライムを3体討伐せよ
――
「シンくんが☆2冒険者の実力があるなら、この程度はできてもらわないと困ります。やれますね?」
「…………やります!」
「ハンナ、受注を頼みます」
「はい! それではクエストを受注しますね」
ハンナさんは受注を完了させて、俺はクエストに向かう準備をする。
「シンくん、頑張りなさい」
ドラコニスさんの言葉に、俺は「はい!」と答えてギルドから出て、街の外に向かった。
■■
「スライムはどこだ?」
草原でスライムを探しているが、草が伸びていて、草より背の低いスライムをなかなか見つけることができなかった。
剣を振って、雑草を切りながら進んでいる。こうすることで下の土も少し見えるようになり、スライムを見つけやすくなる。
すると、草むらから青い何かが跳ねたように見えた。そこら辺を注意深く見ていると、また青い何かが跳ねた。
「スライム見つけたぞ!」
俺はスライムに向かって行きながらも草を切っていく。その時に草とは違う感触の物に当たった。
「スラ!」
どうやら草で見えない所にスライムがいたらしく、草と一緒に切ってしまったようだ。
「! スライムから血が出ている、力を込めながら切っていたとはいえ、全力で振ってはいなかったのに……」
「スラ! スラ!」
俺に攻撃されて、スライムも戦闘する気になったみたいだ。
「スラ!」
「ふん!」
スライムの体当たりに、俺は腕でガードをする。衝撃は伝わってきたが、以前スライムと戦った時より痛くはなかった。
「攻撃力も防御力も、あの頃よりずっと強くなっている、これならもしかして魔法も……」
スライムから距離を取り、手を前に突き出す。スライムは警戒して近づいてこなかったが、しびれを切らして体当たりしてきた。
「今だ! 『スマッシュ』!」
いつもより小さい魔力の球がスライムに当たり、スライムは体当たりを中断する。『スマッシュ』が当たった場所にはかすり傷ができていた。
「省略詠唱でもダメージが与えられた! 魔力も強くなっているんだ!」
俺はスライムに近づき、剣で思いっきり攻撃する。
「スラッ!」
スライムに確かなダメージが入っていた。反撃に体当たりをしてくるが、それを省略詠唱の『スマッシュ』で俺に当たらないようにする。
「威力は弱いけど省略詠唱ってこんなに便利なのか」
「スラ……」
今までの攻防で勝てないと分かったのか、ぴょんぴょん跳ねてスライムが逃げ出した。
「逃がさないぞ! えい!」
「スラ!」
逃げているスライムに剣で攻撃をする。スライムは這いずるように逃げているが、草を切って見えやすくなっている所にいるので、追うのは簡単だった。
「くらえ!」
「ス……ラ…………」
俺の攻撃でスライムは力尽き、経験値が入ってきた。
「スライムは簡単に倒せるようになったな、これならあと2体のスライムも今日中に倒せそうだ」
俺は次のスライムを探して、移動を開始する。
今日は、ギルドからクエストを頼まれたり、
攻撃力や防御力だけじゃなく、魔力も強くなっていた。
それにより、完全詠唱でしかまともにダメージを与えられなかった『スマッシュ』が、
省略詠唱でもダメージを与えられるようになった。
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新キャラ紹介
・ドラコニス
中央大陸アルン国本部のギルド長を任されている金髪で長髪の男。
組織の長をしているだけあり、丁寧な話し方をする。




