66話 新たな魔法!(選択)
「ふぅ、食べた食べた! それじゃあ、お金払ってくるからみんなは外で待ってて」
リクは伝票を持って店員の所へ向かった。俺が横目でリクを見ていたら、Gじゃなくギルドカードを渡していた。どうやらここもGPで支払いができるみたいだ。
「シンくん? みんな外出ちゃったよ」
「あぁアオ、今行く」
俺たちが外で少し待っていると、リクが食堂から出てきた。
「みんなお待たせ、どうだ美味しかっただろ!」
「うん、美味しかった! また食べに行きたいって思ったよ」
「私も今度1人で行ってみるわ、パフェが甘くてとっても美味しかったわ」
アオもユカリも味に満足しているようだ、それは俺もハクも同感で、うんうんとうなずいている。
「リク、今日は美味しいご馳走ありがとう。最近はほとんど2食しか食べてなくて、結構お腹すいていたんだけど、久々に満腹になるまで食べられたよ。冒険者学校にいた頃は朝昼晩と3食だったのにね……」
「あ、そっかー。シンはまだ冒険者になりたてで飯に使えるお金が足りないんだな、それめちゃくちゃ分かる。それはシンだけじゃなくて冒険者になったみんなが同じこと体験しているよ」
「え? それ本当なの!?」
どうやら冒険者になったばかりは、☆1の簡単なクエストしか受注できないからGもGPもなかなか貯まらず、宿屋の朝食とクエスト後の食事しか食べる余裕がなかったみたいだ。
「リクとシンはマシな方だよ。俺たちが冒険者になった時には、冒険者学校から約60人の☆1冒険者が一斉にクエストをやるから、クエストの奪い合いになっていたんだから」
「カイトさんの言っていることは本当だよ。僕たちだって今日のご飯どうしよう……って思いながら、クエスト探してたもん」
「私やアオくんやハクくんは、たまたま他の冒険者とパーティーを組むことで☆2のクエスト行けたりして、何とか生活できていましたわ」
「……シンにも話したが、俺とアオはバフ系やデバフ系の魔法でサポートに回れたから、他の冒険者からクエストに誘われることが多かったな……それで宿代や食費を稼いでいた」
みんな俺とは違った意味で苦労していたようだ。話しの流れで冒険者学校にいた他の人たちはどうなったか聞いてみると、ほとんどは宿代が払えなくなって馬小屋で寝たり、野宿をしていたりしていたみたいだ。
今は午前にバイトをして、午後にクエストを受けているらしく、ちゃんと宿屋で寝泊まりしているようだ。
「ところで、シンくんは冒険者になって何日目なの? 新人冒険者が使える1週間宿と朝食が無料にやるやつ、そろそろ期限切れて危ないんじゃない?」
「あー、あと何日だったかな?」
俺は今何日経っているか思い出してみる。
まず初日は冒険者の説明を受けて、そのあと『薬草調達』をやった。
2日目は『毒消し草調達』をやって、
3日目は『ゴブリン調査』をやって、
4日目は『空気草調達』をやって、
5日目は『ゴブリン討伐』だったから、俺が冒険者になって5日ということになるな。
今までやったクエストを思い出しながら、みんなに5日経ったことを伝えた。
「それじゃあシンくんは後2日しか無料期間が使えないんだね」
「……だが、毎日クエストをやっているみたいだし、そろそろランクアップするんじゃないか?」
「ランクアップ?」
「……そうだ、☆2冒険者にランクアップだ。シンは討伐も調達も調査もやっているし、5つもクエストクリアしているなら、もう☆2に上がっていてもおかしくないんだがな……」
「何か手続きとか必要なのかな?」
俺が首をかしげて唸っていると、みんなはランクアップした時のことを教えてくれた。
「私が☆2になったときは、クエストクリアして報酬金をもらった後に、ハンナさんにランクが上がったことを教えてもらいましたわ」
「僕もそうだね」
「俺もそうだな」
「みんなの言っていることが正しければ、俺だってクエストクリアした後に教えてもらえるだろうし、それがないってことは、やっぱり俺は☆2の条件を満たしていないんじゃないかな?」
「……今はそう考えておいた方が良さそうだな」
俺の☆2へのランクアップの話しはここで終わり、そろそろ解散する頃になっていた。
「いやー、まさかシンが飯2食しか食べてないことでここまで思わなかったよ」
「また機会が合ったら、一緒に食事しようね」
「じゃーな! シンにアオにハクにユカリ!」
ソラは笑いながら、カイトは小さく手を振りながら、リクは大きく手を振りながら帰っていった。
「じゃあ僕たちもそろそろ帰るね」
「じゃあねシンくん、また同じクエストをやるときはよろしくお願いしますわ」
「……じゃあなシン」
「うん、またね!」
アオもユカリもハクのみんなが見えなくなるまで見送った。
「…………サポートか……部屋でじっくり考えてみるかな」
外で考えても仕方がないので、部屋に戻って考えることにした。
■
「さて、部屋に戻ってきたし、早速ハクが言っていたバフ系デバフ系でも調べてみるか……」
俺は冒険者学校にいた頃から使っていた魔法書を取り出し、ペラペラとめくっていく。
「ははっ、懐かしいな。『スマッシュ』の完全詠唱を暗記してからほとんど読まなくなっていたから、ほとんど覚えていないや。このまま懐かしんでいたら日が暮れちゃうし、目当てのページまで飛ばさなきゃ…………あった」
魔法書をパラパラとめくり、星属性魔法のページで止める。
「確かこの星属性がバフ系とデバフ系の魔法が多かったよな……」
読み進めていくと、アオが使っていた『アームド』や『アームクルド』の防御力を上げるバフ系魔法。
ハクが使っていた『パラシス』は麻痺させて素早さを下げる魔法。『ボイズ』の毒で体力を奪い弱らせる状態異常系魔法などがパッと目についた。
「ハクはデバフ系って言っていたのに状態異常魔法じゃん! まぁ素早さ下げているからデバフ系でいいのか? それは置いておくとして、状態異常や状態異常回復に、加護などを治す回復も星魔法に含まれるのか……この属性だけ盛り込みすぎじゃないか?」
状態異常だけで『毒』『混乱』『沈黙』『暗闇』『眠り』などなど、この先もずらっと書かれている。当然それらの状態異常を回復する魔法も同じくらい存在した。
「うわぁ……これサポートに回る冒険者は覚えるのか……しかも詠唱の長さから考えると、初級魔法がほとんどじゃないか……この魔法たちで初級……ね」
はぁ……と大きなため息をついた。完全詠唱では魔法を使えると認めてもらえない理由がだんだん分かってきた。
1つの属性の1つのジャンルでこれだけ魔法が出てくれば、魔法名を覚えるだけでも大変だ。それを戦いながらどの魔法を選択すれば有効なんて難しすぎる。
「でも、少しづつ覚えていけばいける……よね? まぁ何にせよ始めないと使うこともできないし、最終手段でこの魔法書読みながら使えば確実に使えると思っておけばいいね! そうと決まれば、まずは何を使えるようにするかだな……」
まず考えるのは状態異常系の魔法、これを使えば強い魔物相手にも戦えるようになる。欠点は、その魔物に状態異常が効くかどうかで変わってくるってこと。
次に考えるのは状態異常回復系の魔法、これなら自分や味方に使うから確実に効く。欠点は、状態異常にならないと役に立たないこと。
普通の回復系も、ダメージを受けないと使えないが、俺はよくダメージを受けるので使うか考えてもいい。
次はバフ系、防御力を上げる魔法はもちろん、攻撃力を上げたり、素早さを上げたりするバフ系魔法もあるみたいだ。これも使うか考えてもいい。
最後にデバフ系、攻撃力を下げたり、防御力を下げたりできるが、状態異常の時と同じで、魔物に効かなかったら意味がない。
「こうやって考えてみると、回復やバフ系は自分や味方に使うから絶対に外れることはないんだよな。外れるとしたら、状態異常が違ったり、加護が削れていないのに回復したりなんかだと思う」
さて、この中で俺が使えるようになるとしたら…………バフ系の攻撃力を上げる魔法だな。
理由は、アオたちが攻撃力を上げる魔法を持っていないことと、俺が1人でも魔物にダメージが与えられるようにするためだ。
「よし、使う魔法も決まったし、早速鍛錬していくぞ!」
こうして俺は、新たな魔法に挑戦することになった。




