63話 ☆2『ゴブリン討伐』②(毒)
「ゴブッ!」
「こんな時にゴブリンに会うなんて!?」
俺たちは急いで森の外に抜けようとするが、目の前に棒を持ったゴブリンが現れて先に進めない。
「ゴブッ!」「ゴブッ!」
「後ろからもゴブリンが来ましたわ!」
「しかも2体もいるよ!」
「……合計3体のゴブリン……俺とユカリで1体ずつ抑えられても、アオとシンが2人がかりでゴブリン1体を抑えることができるかどうか……」
ゴブリンは俺たちの周りを囲み、逃げ道を塞いでいる。その後はジリジリと近づいてきて、いつ攻撃されてもおかしくない状況に追い込まれていた。
俺は完全詠唱をして『スマッシュ』を用意する。それを圧縮してみると、ゴブリンたちの動きが止まった。
「……ゴブリンが動きを止めたぞ! シンの魔法を警戒しているみたいだ」
俺が元の大きさの5割くらいまで圧縮すると、ゴブリンたちは俺から距離を取ろうと後ずさりをしている。
「……もっと圧縮すればゴブリンは逃げだすと思うが、できるか? シン」
「ごめん無理だ、この状態を維持するだけでも結構きつい……」
「……分かった、俺とユカリが正面のゴブリンに攻撃して隙を作るから、その間にシンとアオはそこに向かって走ってくれ」
「もう限界だ、飛ばすよ! 『スマッシュ』!」
俺の飛ばした『スマッシュ』は正面にいるゴブリンに当たり体勢が崩れた。その隙にユカリとハクが攻撃をしてヘイトを買ってくれた。
俺とアオは突破することができ、ゴブリンから囲まれていた状況から脱出できた。ハクやユカリも俺たちと合流することができ、後ろにはゴブリン3体が追いかけてくる。
走りながらハクが矢で、アオは『ウォータ』でゴブリンたちを牽制しているが、避けたりしながらも俺たちの方に向かってくる。
「……このままじゃ追いつかれるな……」
「俺の『スマッシュ』の威力を知られているから、もう同じ戦法は通じないよ! どうすれば……」
「ゴブッ……ゴッ……」
「何だ、急にゴブリンが苦しみ出したぞ!」
「……ようやく効いてきたみたいだな」
3体いた内の1体が立っていられずに膝を付く。
「……俺の『ボイズ』の毒が回り始めたようだ」
確かに、苦しそうにしているのはハクやユカリに攻撃されて傷が付いているゴブリンだった。その時の攻撃で毒を与えていたのだろう。
「……あいつは当分俺たちに付いてこられない、もっと移動して2対4にするぞ」
「分かった」
追ってくるゴブリンが2体に減ったおかげで牽制も楽にでき、なんとか森を抜けて草原に到着する。
「ゴブッ!」「ゴブッ!」
ゴブリンは息も切らさずに俺たちと一緒に草原に出てきた。
「はぁ……はぁ……疲れているのは……俺だけか……」
俺は肩で息をするほど疲れているのに、アオは呼吸が乱れている程度で、ハクとユカリは全く呼吸が乱れていなかった。
「……ここまでくれば木が邪魔で矢が当たらないなんてことは無くなる。シンとアオは攻撃しなくてもいいから、ひたすらゴブリンのヘイトを集めてくれ。俺の矢が当たればいずれ麻痺毒で動きが鈍る、それまで耐えてくれ」
そう言ってハクは矢でゴブリンを攻撃する。そんな攻撃は簡単に避けられてしまう。
1体はユカリがヘイトを集めているので、もう1体のゴブリンを俺とアオが相手をする。
「……ユカリの方のゴブリンから狙う、シンとアオはゴブリンが来ないようにしてくれ!」
「ゴブッ!」
「よっと!」
俺に向かってゴブリンが攻撃をしてくる。避けることに意識を向けているので、ギリギリ避けられている。しかし、全部が避けられるわけじゃなく、剣でガードしたりして直接身体に当たらないようにする。
ゴブリンの攻撃をガードするたびに手が痛い、アオの防御魔法が無かったらもっと痛かっただろう。
「ゴブッ! ゴブッ!」
何度も俺に向かって棒を振り下ろしてくる、このままじゃまずい。そう思ったタイミングで、アオの『ウォータ』がゴブリンの脇腹に当たり、ゴブリンは衝撃で地面に転がった。
「アオ、助かった」
「シンくん、加護はまだ大丈夫?」
「まだ加護は切れていないから大丈夫だよ」
「ゴブッ!」
アオの魔法を受けても、ゴブリンは平然と立ち上がり攻撃を再開する。
「うっ……」
今度はアオを攻撃対象に選んだようで、ガンガン棒で攻撃している。
アオはそれを槍でガードしているが、苦しそうな表情をしていた。俺はすぐにゴブリンの背中を切りつけるが、かすり傷すら付かなかった。
「嘘だろ……ぐはっ!」
ゴブリンの反撃を受け、お腹を棒で殴られ地面に倒れてしまう。加護のおかげですぐに痛みは取れたが、ゴブリンが飛び上がり、避ける余裕もガードする余裕もなかった。
身体を丸めて少しでもダメージを減らせるようにしたが、何の衝撃も来なかった。
「……シン、大丈夫か!」
ハクが声をかけてくれた。前を見ると、ゴブリンの肩には矢が刺さっていた。俺を攻撃する途中でハクに攻撃をされて中断したみたいだ。
「ありがとう助かった、こっちに来たってことはユカリの方は……」
ユカリの方のゴブリンは5本以上の矢が身体に刺さり、動きが鈍くなっていた。
「……あっちはユカリだけで大丈夫だろう。こっちをどうにかするぞ」
ハクはゴブリンに追加で矢を刺していく、刺さるたびにどんどんゴブリンの動きは鈍くなっていく。
「これだけ遅ければ攻撃は受けない、けど、俺の攻撃力じゃダメージが入らない……」
「……俺が毒でダメージを与えていくから気にするな……『ボイズ』」
「ゴブッ!」
ゴブリンは、ハクのナイフで何度も攻撃され毒状態になった。
「……これでこのゴブリンは大丈夫だ。ユカリの所に行くぞ」
「えい! えい!」
「ゴブ……ゴ……」
「ユカリ! 加勢に来たよ!」
ゴブリンの色んな所から切り傷ができていた。
「……そのゴブリンも毒状態にして」
「その必要はないわ……『ウィンドショック』!」
ユカリは剣から風の衝撃波を飛ばしてゴブリンに当てていく。かなりダメージを与えたらしく、ゴブリンからは血がだらだらと流れていった。
「ユカリちゃん凄い!」
「……俺の出番はなさそうだな」
その後、何度かユカリが『ウィンドショック』を使いゴブリンを倒した。ゴブリンから経験値が出てきたと同時に、俺たちが相手にしたゴブリンからも経験値が出て、俺たちに入っていった。
「はぁ疲れた、これで一段落だね」
「……あぁ、でもまだ3体しか倒していない……あと2体倒さないと……うっ……」
「大丈夫かハク!?」
急にふらっとよろけてしまうハクに手を伸ばし支える。
「……魔法を連続で使用したせいだ……少し休めば回復するさ」
「ゴガァァァッッッ!」
「結構近いわね」
「こんな声聞きながら森に入るの僕怖いよ……」
森の方ではまだ雄叫びが聞こえる、今度はこの雄叫びを聞きながらも森に入っていかなければならなかった。
技の紹介
・『ウィンドショック』
風属性の衝撃波を出すことができる




