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61話 ☆1『空気草調達』(音)

「さて、どのクエストをやろうかな」



 ハンナさんが新しいクエストを貼ってくれたおかげで、討伐以外のクエストもいくつかあった。



「レインコートも買ったし、見たことないクエストに挑戦してみるか」



 ほとんどの(ほし)1クエストは、薬草、毒消し草、スライムと、

見たことのあるクエストばかりだったが、その中に見たことのない調達クエストが貼られていた。



「よし、これをやってみよう」



 クエストの紙を取りハンナさんの所へ持って行った。



「ハンナさん、このクエストお願いします」


「このクエストですね、分かりました。クエスト内容を確認します」


 ――


 (ほし)1『空気草調達』


 クリア条件:空気草を5つ納品


 報酬金:100(ゴールド) 200GP(ギルドポイント)


 参加条件:(ほし)1冒険者1人以上


 ~依頼内容~


 森に生えている空気草を5つ採取して、ギルドまで納品。


 5つを超える納品について。

 10つまでは、1つにつき10(ゴールド)と40GP(ギルドポイント)で買い取ります。

 それを超える納品は、1つにつき5(ゴールド)と20GP(ギルドポイント)で買い取ります。


 ――


「このような内容ですが、クエストを受けますか?」


「はい、お願いします」


「それではクエストを受注します。それと、お願いがあるのですが、他の冒険者さんがあまりこのクエストをやってくれないので、できれば10つ納品してもらえると助かります。もちろん、無理にとは言いません」


「分かりました、できるところまでやってみます!」


「ありがとうございます! それではクエスト頑張ってくださいね」



 ハンナさんは俺に手を振りながら俺を見送ってくれた。


 俺は準備をするために自分の宿に帰る。レインコートのおかげで向かう途中濡れることは無かった。



「おぉ、この服凄い! 雨に当たりながら宿に入ったのに、床が濡れてない。服に一滴も水が残らないんだ」



 レインブーツも同じで、足跡には乾いた土だけが少し付いている程度、濡れて泥となったものの水分を弾いていた。



「ギルドで試したときは分からなかったけど、こんなに性能良いんだ。良い買い物したなぁ」



 上機嫌になりながら自分の部屋に向かう。レインブーツを履く前に身に着けていた普通の靴を床に置き、空気草について書かれた紙を読んでいく。



「えっと……空気草は普段地中に存在していて、地中で空気を吸っている草。草の周りが一定以上濡れ、地中から空気を吸うことができなくなることで地上に顔を出す。調達するには雨の日が望ましい。


 見た目は青白く、花は膨らんでいるのが特徴。森や湖に生えていることが多く、洞窟などでも発見されたこともある……と。空気草について調べたし、そろそろ出発するか」


 俺はレインコートのフードを被り、森に向かった。






 ■






「やっと森に着いたぞ。地面が雨で柔らかくなって歩き辛かった。レインコートやレインブーツが無かったら、身体中泥だらけだったよ……」



 森に来る途中の平原では、歩く道の所々に水溜まりができていた。避けて通りたくても、草が水溜まりを隠しているので、踏むまで水溜まりがあるか分からなかった。


 森の中はというと、草原に比べて草は生えていないので、水溜まりの場所を見つけるのは簡単だった。ただ、水溜まりが無い所を探す方が難しく、濡れないためには、ジャンプしながら木から木に飛び移るくらいしか無かった。


 しかしそれは、レインブーツが無ければの話し。


 レインブーツを履いているので、深い水溜まりでなければ普通に歩くことができた。



「完全に水の中に足が入っているのに、土が付くだけで濡れる気配がない。本当に便利だ…………あ、あれが空気草だな!」



 木の根元に空気草が生えているのを見つけ近づいていく。近づくたびに水溜まりが深くなって、バシャバシャと歩く音が大きくなっていった。



「この膨らんだ花を取れば良いんだよね?」



 俺の拳くらいある大きさの空気草の花に手を触れると、花なのに指が軽く押し返されるような弾力があった。まるで風船を触っているような感触。花を1つもぎ取り、袋に詰めていく。



「大きさの割にとても軽い、まるで何も持っていないように感じる。よし、次探すぞ……って、いっぱいある!」



 少し先を見れば、空気草が1つ、2つ、3つと見えている。俺はどんどんもぎ取って、袋に詰めていく。あっという間にクエストクリアに必要な5つの空気草を手に入れることができた。



「雨の日にクエストをやる人が少ないから、こんなに簡単に調達できたんだろうな。これなら、ハンナさんにお願いされた10つまで探せそう」



 俺は森の奥に進んで空気草を探していく。そして、苦労することなく空気草を見つけ、袋に詰めていく。目的の10つの空気草を手に入れ帰ろうとしたときに、雨とは違う音が聞こえていた。






「なんだ、このホワホワっとした不思議な音は? どんどん音が近づいてくる。何か分からないけど隠れなきゃ」



 草むらにしゃがんで身を潜める。不思議な音はどんどん大きくなるのに、原因らしいものが見当たらない。



「この音は本当に何なんだ?」



 左から聞こえて来ていた音が、右から聞こえるようになってきた。どうやら俺の前を通ったらしい。でも目の前を見ても何もいない。



「おや? こんな雨の日に森で人に合うなんて珍しいね」


「!?」



 前ばかり気にして後ろを警戒していなかったから、急に声をかけられて驚いた。俺は何とか叫ばずに、身体がビクッと跳ねた程度で済んだ。



「誰!?」


「ん? その声はシン? 俺だよ、カイトだよ」



 カイトは被っていたフードを顔が見える程度に脱いで俺に顔を見せてくれた。俺もカイトと同じように顔が見える程度にフードを脱いだ。



「何でこんな所にカイトが!?」


「クエストの最中でね、ミズクラゲの討伐に来ているんだ。今そいつを追いかけている所さ。さっきから聞こえる音は、ミズクラゲが移動しているときに出す音なんだ」


「そうだったんだ、左から右の方に音が移動していたのに移動しているなんて気がつかなかった……」


「ミズクラゲは空を飛んで移動しているからね、シンの上を通ったんじゃないか?」



 カイトに言われて上を見ていなかったことに気がついて血の気が引いた。もしそのとき、警戒していない上から攻撃を食らっていたらと考えると……



「大丈夫だよ、刺激を与えなければ向こうから襲ってくることは少ないから。それじゃあ俺はクエストの続きをしてくるよ。またどこかで会おうね」



 カイトは音のする方向へ消えていった。俺も十分な量の空気草を手に入れているので、森を抜け、寄り道しないでギルドに向かった。






 ■■






 ギルドまで無事に辿り着き、受付にいるハンナさんにクエストクリアの報告をする。



「ハンナさん、クエスト終わりました」


「シンさんお帰りなさい、それでは確認しますね…………8、9、10……空気草10つ確認しました。クエストお疲れ様でした。こちらが報酬金となります。空気草を買い取らせていただくので、50(ゴールド)と200GP(ギルドポイント)を加えておきますね。シンさんありがとうございます!」


「いえいえ」



 俺は照れながら150(ゴールド)入った袋を受け取り、

 ギルドカードには400GP(ギルドポイント)が追加されていることを確認した。


 ギルドの食堂で食事を済ませて宿に帰り、雨の音を聴きながら眠りについた。




 今日は空気草のクエストをして、

 姿は見てないが、ミズクラゲの移動音を聴いたりなどの1日だった。

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