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59話 ☆1『ゴブリン調査』②(巣穴)

 俺たちは街から出て森に向かっている。


 イラミは槍を装備しているが、ザイゲンは武器になりそうな物を装備していなかった。



「ザイゲンさんは武器を使わないんですか?」


「俺の武器はこの拳さ」



 ザイゲンの手には、革製の指なし手袋が装備されていた。



「俺は武器より、拳で殴る方が性に合っているみたいでね」



 ザイゲンは左右の拳をシュッシュッと風切り音を出して振って見せた。



「こんな感じで魔物を殴って戦っているのさ。攻撃も武器を使うより早くできて良いぞ」


「拳をメインに使うのはザイゲンだけでしょ! 普通は武器を使った方が強いの! 剣でも槍で何でもいいから武器持ちなさいよ。いつも被弾しているじゃない、私とコカの身にもなりなさい」


「そうだな、いつも2人には助けられている」



 俺と会話をしていたはずが、いつの間にかザイゲンとイラミの会話だけになっていた。



「ところで、コカって人がここに来られなかったもう1人の仲間ですか?」


「コカのことはシンに言ってなかったな、確かにもう1人の仲間だ」


「『参加できなくなった』と言っていましたが、何があったか聞いても……」



 俺がそう聞こうとしたら、イラミは怒った口調で参加できなくなった理由を教えてくれた。



「コカは朝になって急に『(ほし)3になったから参加できない』って言ったのよ! 昨日の夜に言って欲しかった」



 イラミは頬を膨らませて、ザイゲンは額に汗を流し引きつった笑みをしていた。



「俺たちはまだ(ほし)2冒険者だから、コカと一緒に行けるクエストが減るんだ。このクエストをクリアすれば、俺たちも(ほし)3冒険者になれるのさ。本当は3人で同時になるつもりだったが、コカだけは(ほし)3冒険者の条件を満たしていたんだ」


「『調達』『討伐』『調査』と大まかにクエストがあるでしょ? そのクエストをどれだけクリアしたかが冒険者の(ほし)を上げるのに関わってくるの。


 私とザイゲンは『調査』のクエストクリア数が足りなかったから、まだ(ほし)2なの。コカは1人でも『調査』クエストにも行っていたからクリア数が足りていて(ほし)3になったってわけ」


「そういうことでしたか」



 2人の話しはとても参考になる。(ほし)はクエストをやっていれば勝手に上がる物だと思っていた。でも、何のクエストをクリアしたかが冒険者の評価に繋がっている。考えなしにクエストをやっているだけじゃダメと分かったことは良いことだ。



「クエストの種類も大事ですが、冒険者の(ほし)は獲得したGP(ギルドポイント)でも決めているんですよ」



 今まで話しにも入って来なかったギルド職員が補足として俺らに教えてくれた。そして、俺らは歩みを止める。



「森まで到着しましたね、索敵スキルに反応が無いので、このまま最初の目的地に向かいます。ここからは気持ちを切り替えてクエストに集中してください」



 ギルド職員の言葉に俺たちは頷き、森の中へ足を踏み入れた。






 ■






 ギルド職員は目的地についていないが、時々足を止めて周りを見渡す。



「ふむふむ……木にひっかき傷……標準より傷が深い、地面にはゴブリンの足跡。しかも調査場所と同じ方向に進んでいる……通り道でこれだとすると……」



 独り言をつぶやきながらゴブリンの痕跡をメモしていく。書き終わると歩き出す。どんどん森の奥へ進んでいくが、魔物とは1体とも遭遇しなかった。



「ん、近くに魔物がいますね。身を隠して通り過ぎるのを待ちましょう。こっちです」



 ギルド職員に言われるがまま付いて行って草むらに身を隠す。


 俺とイラミは小さいから上手く隠れているが、ザイゲンは身体が少し外にはみ出て見えていた。



「魔物は何体いるんだ?」



 ザイゲンがそう聞く、その表情は戦う気でいる顔つきだった。ギルド職員は落ち着いた声で魔物のいる方向を指差した。



「2時の方向に3体の魔物の気配を感じます」


「それくらいなら私たちが倒してあげる」



 槍を強く握りしめ、今にも飛び出しそうなイラミをギルド職員が止める。



「今回は調査が目的なので、避けられる戦闘は避けましょう」


「心配無用よ、3体程度なら倒せるわ」


「いえ、ここは倒すよりも、あの魔物の後を付けていきましょう。そうすればより良い情報が手に入るはずです。私の探索スキルで見えなくても追って行けます。魔物に気づかれることは無いでしょう。


 でも、魔物に付いて行けば他の魔物も合流するはずです。その時は逃げ道を作ってもらうために戦ってもらいます」



 イラミとギルド職員がお互いの目を見ている。遠くで何かが動いている音が聞こえるほど、俺たちの周りは音がしなかった。



「……分かった、言う通りにする。ザイゲンもシンもそれで良いよね?」


「もちろん」


「俺もそれで大丈夫です」


「では、魔物の後を付いて行きます。私より前に出ると見つかる可能性があるので、絶対に後ろにいてください」



 こうして俺たちはギルド職員の後を付いて行く。魔物の気配を分かっているのはギルド職員だけなので、俺はもちろん、ザイゲンやイラミも魔物がどこにいるかは正確に分かっていない。


 進んでいくうちにだんだんと神経が研ぎ澄まされていく。自分の心臓が耳にあるみたいに、ドクンドクンと強く音を感じていた。


 ギルド職員が止まり、腕を横に出して俺たちに止まれと合図を出す。



「…………かなり数が集まっています。10体は索敵スキルに反応があります。ここからはもっと慎重に進んでいくので、音を出さないようにお願いします」



 俺らは首を縦に振って態度で示した。


 草木をかき分け進んでいく、目の前の草むらの先は、森にしては広い空間があった。そこにゴブリンがざっと数えただけで10体以上いた。


 そのゴブリンたちは木の実などを抱えて消えていく。



(!? ゴブリンはどこに行ったんだ!?)



 俺がゴブリンの消える瞬間をしっかり見ると、消えている訳ではなく、穴に入っているだけだった。


 その穴は、大木の根に作られ地下に続いているようだ。そこにゴブリンたちが次々と入っていった。


 外にいるゴブリンが全員穴に入ったところでギルド職員が口を開く。



「あの穴を調べましょう」



 穴のまで近づくと意外と大きな入り口だった。ここでもメモを書き始めるギルド職員。



「穴の奥からは20以上の反応、それに1つ強い反応あり。穴の大きさ、ゴブリンの統制。これはドン・ゴブリンがいる可能性が高いですね」


「ドン・ゴブリンだって!? さすがに今の戦力じゃ厳しい相手だ」


「そうね、そいつだけならまだしも、ゴブリンの一緒に相手しなきゃいけないのを考えると、私とザイゲンだけじゃ厳しい」


「あの、ドン・ゴブリンって……」



 俺が聞くとすぐにギルド職員が話し始める。



「ドン・ゴブリン。ゴブリンのリーダーのような魔物です。人より少し大きく、体格は約2メートル、力が強く繫殖力があり、数週間野放しにすると、ゴブリンだらけになります。また、ドン・ゴブリンから産まれたゴブリンは、通常のゴブリンよりも強くなっています。


 通りでゴブリンが付けたにしては木のひっかき傷が深いと思いました……!? みなさん急いでここを離れます! 穴の中からゴブリンたちが出てきます」



 俺たちは急いでその場を離れた。必死にギルド職員の後を付いて行く。そうして森の外まで出てやっと止まってくれた。



「はぁ……はぁ……ふぅ。危ないところでした、あと十数秒逃げるのが遅ければ戦闘になっていました」


「はぁ……はぁ……ここまでは追ってこないですよね?」


「草原まで来てしまえばもう安心です。ここには食べ物は少ないですからゴブリンたちは寄ってきません」


「なら良かったぁ」



 俺は息を切らしながらも安堵する。ザイゲンとイラミは全く息を荒くしていなかった。



「これからどうするんだ? また森に入ってゴブリンの調査をするのか?」


「本当はもっと周りの痕跡などを調べてゴブリンの数を把握するつもりでしたが、いきなり巣穴を見つけることができましたので調査は十分です」


「じゃあクエストクリアってことね!」


「はい、ギルドまで護衛お願いします」



 こうして俺たちはギルドまで帰っていった。






 ■■






 ギルドに到着し、受付にいるハンナさんにクエストクリアの報告をする。



「これが今回の調査結果です、十分調査できたと私は判断します」


「はい、確認いたします。ドン・ゴブリンの可能性にゴブリン20体以上、巣穴の場所の特定……今回の調査でかなり進んだみたいですね。クエストお疲れ様でした。こちらが報酬金となります。ギルドカードにもGP(ギルドポイント)を入れときました」



 100(ゴールド)入った袋が3つ用意され、俺、ザイゲン、イラミが1つずつ受け取った。俺のギルドカードには200GP(ギルドポイント)が追加された。


 凄くハラハラしたけど、やったことは森に行ってゴブリンを見て逃げてきただけなのに、薬草や毒消し草のクエストより多い報酬をもらった。本当に良いのだろうか?



「シン、今日はありがとね」


「俺からも礼を言わせてくれ、シン今日はありがとう。それとすまない、俺たちもほとんど活躍していないのに報酬を多く貰ってしまって……」


「! いえいえ、俺の方こそありがとうございます。これでもいつもより報酬多いので大丈夫です」



 笑顔なイラミ、今も報酬のことで悩んでいるザイゲン、やったことに比べて報酬が多いことに満足している俺は気にしていないことをザイゲンに伝える。



「そうか……シンがそれ良ければそれでいいんだ。また機会があったら一緒にクエストをしよう」


「そうそう! 今度やるときは『討伐』クエストに一緒に行きたいね。シンも早く私たちの(ほし)になってね」



 そういうと2人はギルド職員に連れられて扉の向こうに消えていった。


 俺は食堂でご飯を食べた後、部屋に戻り布団をちゃんと敷いてから眠りについた。




 今日はゴブリン調査をして大量のゴブリンを見た。

 調査の結果、ドン・ゴブリンというゴブリンのリーダーがいる可能性が出てきたりした。

 初めての『調査』クエストでとても緊張する1日だった。


新キャラ紹介(名前だけ登場)


・コカ

ザイゲンやイラミのパーティーメンバー。

先に(ほし)3になったためクエストに参加できず、シンが代わりに参加することになった。


容姿などの詳細は登場したときに語ります

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