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53話 4回目の実戦訓練!(成果)

 実戦訓練当日の朝、装備を整え外に集まる。



「これから戦いに行くけど、みんなは大丈夫?」



 俺は、オレンとミドーとキイロの顔を見ながら聞いてみる。3人はこれから魔物と戦うというのに怯えた様子は無かった。



「あれから魔法も覚えましたし、どれくらい魔物に通用するのか楽しみです」


「俺は早く魔物をボコボコにしたいぜ」


「僕たちのことは心配いらないよ、シンの方が心配さ。1人で戦うんだろ?」



 みんなを心配して声をかけたのに、逆に俺がキイロから心配をされてしまった。



「俺はこれで4回目だからね、鍛錬通りにいけば大丈夫だと思う。これだけ頑張ったんだから、スライムくらい倒せないとね」



 そうやってみんなと話していると周りがざわつき始めてきた、ランド先生や他の先生たちや生徒たちもそろった。


 次々とパーティーメンバーを決めていく。決まったところから先生と一緒に街の外に出て行った。


 オレンたちはそれぞれ別のパーティーになった、そこら中から「頑張ろう!」や「また後で」などと声が聞こえてくる。そうやってみんなを見送って最後に残ったのは俺とランド先生だけになった。


 最終確認なのか、ランド先生は俺に問いかけてくる。



「武器は装備していますね?」


「剣を装備しています」


「体調はどうですか?」


「悪くは無いです」



 俺に目線に合わせてランド先生は両膝を付き、俺の肩に手を置き顔をまじまじと見る。



「勝てる自信はありますか?」



 俺はその言葉で、今までの負けてきた戦いが頭の中を駆け巡った。でもそれと同時に、鍛錬してきたことも思い出す。



「…………もう一度言います、勝てる自信はありますか?」



 俺が何も言わないからか、痺れを切らして同じことを聞いてくる。



「…………ます………絶対勝ってみせます!」


「よろしい、シンくんはスライムを倒せるくらいの実力は手に入れています。後は心の問題でしたが、それだけハッキリと勝つイメージを持つことができているなら。大丈夫でしょう。では、そろそろ私たちも行きましょうか」



 こうして俺とランド先生は街の外に移動した。






 ■






 俺は今1人で草原を歩いている。ランド先生が近くにいるとスライムが逃げ出してしまうので、別行動をしている。



「スライムが見つからないな、こんなに草が高いと見つけにくい……」



 草の高さは俺の膝くらいまであり、スライムくらいの大きさの魔物を見つけることが難しかった。そんなとき、風も無いのにガサガサっと音が聞こえ、そちらの方に振り向いた。



「なにもいない、確かに音が聞こえたはずだけど……! やっぱりなにかいる」



 見えてはいないけど音は聞こえていた、俺は音の正体を確認するためゆっくりと近づいて行く。すると、緑色に広がる景色の中に水色が見えた。



「スライムだ! やっと見つけたぞ。周りに他のスライムはいないよな?」



 周りを見ても他のスライムは見当たらない。



「草が邪魔で、いないかどうかよく分からないけど、ここ以外でなにか動くような音も聞こえないし、きっと1体だけのはず」



 俺は身を屈めて音を立てずにスライムに近づいて行く、ギリギリまで近づいて少しでも魔法の命中率を上げようとする。しかし、俺の気配に気が付いたのか、俺はスライムと目が合ってしまった。



「…………」


「…………」



 スライムとの距離は10歩分くらいある。お互い睨み合いその場で固まっていた。



(ギリギリを攻めすぎたな……この距離なら俺が魔法を使う前に攻撃されるだろう。スライムはこちらから攻撃しない限り襲ってこないから、距離を取って攻撃をしよう)



 俺はスライムから目を離さず、後ろへ下がった。スライムは俺を見ているが、身体を震わせるだけでその場から動こうとしなかった。


 そして、魔法を使うのに十分な距離になったので攻撃を仕掛ける。



「我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に……」


「!? スラ!」



 俺が詠唱をして、手に魔力が集まり始めたころにスライムが動き出す。攻撃をしようとして敵意を感じたからか、飛び跳ねながら俺に向かって近づいてきた。



「我に適応し糧となる、サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ」



『スマッシュ』が完成しても、まだスライムとの距離を離れている。この間に少しでも圧縮をして威力を上げていく。


 鍛錬のときと同じように圧縮をしているはずなのに、魔力が不安定になっていた。相手が攻撃をしてこない的では味わえない緊張、それがこの魔力の不安定さに現れた。


 ただ、これは今回に限り問題なかった。



「スラ!」


「『スマッシュ』!」


「スラっ!?」


「当たった!」



 スライムは俺の魔法が当たり吹き飛んでいった、真っ直ぐ自分から近づいてくれていたおかげで、不安定な魔力でも狙いやすく当てることに成功した。



「……スラ……」



 スライムは血を流して弱っている、俺の攻撃がちゃんとダメージとして入っていた。俺は続けて2発目の準備をする。詠唱をしている間にスライムは俺に近づいてくる。


 今度は真っ直ぐ来るのではなく、ジグザグに跳ねながら移動している。ダメージを負って動きが鈍くなっているのに加えて、ジグザグという余計な移動で俺のところに来るまで、少し時間がかかっていた。


 それでも、最初に比べれば近いところから動き出しているので、圧縮するまでの時間を確保することができなかった。仕方なく、普通に魔法を使う。



「『スマッシュ』!」


「スラ!?」



 ジグザグに動いていても、その間隔は一緒……鍛錬していたこともあり、タイミングを合わせることで当てることに成功する。


 この攻撃では、スライムの表面にかすり傷を付ける程度しかダメージを与えられていない、しかし、吹き飛ばすことはできているので、俺はその間に走ってスライムと距離を開ける。


 このまま立ち止まって魔法を使っていても、圧縮する時間までは無いことは、さっきの攻撃で理解していた。



「…………」



 スライムはこちらをじっと見て様子を窺っている。



「近づいてこないならいくらでも時間を使える」



 完全詠唱をして圧縮もして、狙いをスライムに合わせて魔法を飛ばした。



「スラ!」


「避けられた!」



 避けた後はすぐに俺に向かってくる、魔法を使う時間は無いと判断して装備していた剣を抜いた。スライムの体当たりに合わせて剣を振る。



「うっ!」


「スラ!?」



 剣を伝って俺の腕に体当たりの衝撃がくる。痛かったが加護は切れていないのですぐに痛みは無くなった。


 スライムを見ると身体の端にハッキリと分かる切り傷ができていて、そこから血が出ていた。剣を見るとスライムの血と同じ色の液体が付着している。



「剣でもダメージが入るようになっていたんだな……」


「スラ……スラ……」



 スライムは逃げようとしている。さっきの剣でのダメージが大きかったのか、ゆっくりと這うように進む。



「今なら狙える!」



 剣を地面に刺して完全詠唱と圧縮を終わらせる。そこまでやってもスライムは狙えるギリギリの位置までしか逃げていなかった。



(スライムの移動先を読んで……ここだ!)



「『スマッシュ』!」


「スラ!?」



 俺が魔法を使ったことに気が付いて振り向いたことで、スライムは顔に魔法が当たってしまった。



「……ス……ラ……」



 身体を震わせながら起き上がり逃げる、スライムの通ったところには血が付いており、見失っても追いかけることができた。


 地面に刺した剣を拾い、逃げるスライムに追いつき背中を剣で切る。


 かすり傷程度のダメージしか与えられなかったが、俺には十分だった。何度も何度も切ってダメージを与えていく。



「はぁ……はぁ……いい加減倒れてくれ……」



 何十回も切りつけたのにスライムは止まらない。やはり、かすり傷をいくら与えても倒れなかった。



「剣だけで倒せると思ったけどまだ無理みたいだ。仕方ない、最後の1発で決着をつける!」



 弱って攻撃をしてこないとはいえ魔物の至近距離で完全詠唱と圧縮をする。スライムからの反撃は無く、背中を狙って飛ばした。



「『スマッシュ』!」


「…………スラ……」



 スライムの身体には穴が開いた、少しの間ビクビクと身体を震わせて、動かなくなり経験値が俺の身体に入ってきた。



「……勝った……勝ったぞ!」



 初めての勝利、今までやってきた努力が報われた瞬間だった。俺が受けたダメージも手に伝わる体当たりの衝撃だけだった。ほとんど無傷と言えるだろう。



「倒したことだし、街に帰るか……うあっ!?」



 背中に強い衝撃がくる。気を抜いていたこともあり、かなりのダメージを受けたことにより、加護が剥がれて痛みがわずかに残った。



「な……なんだ、ス……スライム!?」



 俺に攻撃してきたのは傷1つないスライム1体……それだけかと思いきや、倒したスライムの周りに2体のスライムがいた。この場に生きたスライムは合計3体である。



「今の攻撃で加護は無くなった、魔力はもう無い。1体でも苦戦していたスライムが3体いる」



 状況確認をしている間に周りを囲まれてしまった。逃げ道は塞がっている。



「ここから逃げるには、どうしても1体と戦わなきゃいけない」



 どこから突破しようか考えていると正面にいるスライムが体当たりをしてくる。俺は剣を斜めに構えて、受け流すように体当たりに動きを合わせる。



「あがっ!? 痛いっ……」



 剣から手に伝わった衝撃で、手のひらに鈍い痛みを感じる。見てみると、剣の持ち手の跡が分かるほどの痣ができていた。



(両手が! 軽く握りこぶしを作ろうとするだけで手に痛みが走る)


「ぅぁ!? あっ……ぐはぁ」



 別のスライムからの体当たりが脇腹に当たる。口からは血が吐き出された。



(お腹が……痛い痛い痛いっ……)



 意識が飛びそうな痛みだが、その痛みによって意識が戻る。


 スライム3体が一斉に体当たりをしてくる。これを食らえば間違いなく死ぬ。俺は何も抗うことができないので目を閉じていた。


 しかしいくら待ってもなんの衝撃も伝わってこない。目を開けるとそこには身体が別れたスライムが3体いた。



「シンくん、また危ないところでしたね。ポーションを飲んで痛みを和らげます」



 俺が手を動かせないのを見ると、ランド先生はポーションを飲ませてくれた。血の味が混ざるが、飲めば飲むほど痛みは引いて行った。



「ランド先生、また助けてもらいましたね……ありがとう……ございます」


「どういたしまして、さあ、帰りましょう」



 俺はランド先生に抱きかかえられて街に帰ることになった。




 今日は初めて勝利することができた、しかしその後の連戦でボロボロにされた。でもそんなに悲しくはない、1勝はしたのだから。

 そんな1日だった。

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