52話 強くて『スマッシュ』鍛錬!③(明日)
今日も魔法の鍛錬をするために訓練所にやってきた。
「確かここに魔法石を入れて……動いた!」
昨日使っていた装置に魔力入りの魔法石を入れることで的が動き始めた。早速いつもの位置に移動して、完全詠唱をし、的を狙っていく。
「『スマッシュ』!」
まだ的の動きに合わせられないのか、壁に当たってしまう。しかし、昨日の1発目に比べれば的から近かった。
その後、2発3発4発と魔法を飛ばしていく。4発目のときに的の端当たった。
「よし、当たるようになってきたぞ」
そして俺が5発目を準備しようとしたとき、的からギギギッと変な音が鳴り始めた。魔法を中断させて様子を見ていると、的が動かなくなってしまった。
「もしかして壊れちゃった!?」
的に駆け寄り色々調べるが壊れたところなどは見当たらなかった。
今の俺にはどうしようもないので、明日ランド先生に聞いてみようと思い、魔法石を取り出そうとすると、中に入っていた魔法石は輝きを失っていた。
「もしかして、魔力が足りないから動かなくなった?」
そう思った俺は魔法石に今ある魔力をすべて送り込む。
魔法石は完全とはいかないが、輝きを取り戻した。その魔法石を、的を動かす装置に入れると動き始めた。
「魔力が無くなって動かなくなっただけか。壊れていなくて良かった……」
壊れていなかったことを確認した俺は、すぐに装置から魔法石を取り出し、魔力を無駄に消費しないようにした。魔法石にすべての魔力を送ってしまったので、今日の魔法鍛錬はこれ以上続けていられないため帰ることにした。
■
あれから約1週間、俺は動く的に『スマッシュ』を当て、魔法石に魔力を送り込むことを続けていた。今日は久々にランド先生が見に来てくれていた。
「動く的に当てられるようになってきましたね。それに以前私が見ていたときよりも『スマッシュ』を使う速度も速くなっています。なにかコツでも見つけましたか?」
「はい、的を追いかけるのではなく、的が来る場所に狙いを定めることで、タイミングを合わせるだけで当てられるようになってきました」
「素晴らしいですね。ですが、そのやり方は規則的な動きをする的には使えますが、不規則な動きをする魔物には通用するでしょうか?」
「そ……それは……」
言われてみれば確かにその通りだ、俺は痛いところを疲れて答えに困ってオロオロしていると、ランド先生は口を軽く押さえて軽く笑っていた。
「すみません、少しからかってしまいました。実は魔物にもシンくんのやり方は通用します」
「え? でも魔物は不規則な動きをするって言っていましたよね?」
「もちろん、絶対この動きをするというものは少ないですが、こちらが魔物の動きを誘導することは可能なのです。例えば……」
そう言ってランド先生は俺から距離を取ってこう言った。
「『ファイア』」
「うわっ!」
いきなり俺に向かって『ファイア』を使ってきたので右に向かって避けた。すると、俺の身体になにかがぶつかって倒れてしまった。
「うっ……いきなりなにするんですか」
「身をもって体験する方がシンくんも分かりやすいと思いましてやりました。どうしてシンくんはそちらに避けようと思ったのですか?」
「えっと……右に避けたのは『ファイア』が俺の身体より左側にあったから、避けやすい右に行きました……っ!」
俺はランド先生が伝えようとしていることがなんとなく分かった。
「理解できたようですね。私はシンくんの左肩の方を狙って魔法を使いました。避けなければ当たって有利になりますし、避けるにしても移動する場所をある程度誘導することができます。
ただし、絶対この動きをするというものは少ないので、過信をしすぎてはいけません。魔物によっては、その場で相殺してきたり、飛んで避けたりなど様々な対応をされることがあるでしょう。
シンくんは相殺することも飛んで避けることもできないので、避ける場所は限られていたので、その場所に魔力の塊を飛ばしておきました」
「俺が倒れたのは魔力の塊が当たったからだったのか……」
相手の行動を読むのも大事だけど、それ以外にも相手の行動に制限を付けることで読みやすくなる。体験して教えてもらったことで、戦術が広がっていくことを感じていた。
「では明日からは圧縮した『スマッシュ』で動く的に当てる鍛錬にしましょう。普通の『スマッシュ』は当たるようになってきましたし、2週間後には実戦訓練ですから、そろそろ次の段階に行ってもいいはずです。頑張りましょうね」
「はい!」
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次の日
「圧縮して……『スマッシュ』! よし当たった」
1発目から的の端に当たり、一部を壊すことに成功する。2発3発は外すが、4発目は反対側の的の端に当たり少しずつ壊すことができていた。
そして次の日もその次の日も同じように圧縮して魔法を飛ばすが、圧縮をやり始めてからの2発分しか的に当たらなくなっていた。
「的が壊れて小さくなっているからか、全然当たらない。もっとよく狙わないと……ん? こんなに的が動くのは速かったか?」
疑問に俺は近づいて確認してみる、すると的の動きが、壊れる前より少し早くなっているのだ。
「まさか壊れた分だけ軽くなったから速くなった……のか。通りで当たらないわけだ。的が小さくなって当たりにくいのもあるけど、今の的の動きと、俺の思っている的の動きのズレを直さないと」
ズレを修正するためにイメージで感覚を調整していく。
(いつもより少し早く飛ばす…………このタイミングなら大丈夫なはず……)
修正も終わり、完全詠唱と圧縮を終わらせ、的に狙いを定める。
「いまだ! 『スマッシュ』!」
いつもよりも魔法を飛ばすのが速い、壊れる前なら的が来る前に壁に当たるが、今回は違った。的も速く動いているため、的と『スマッシュ』がぶつかり合った。
「よし! やっと当たった。だけどまた壊れて軽くなったから速くなったはず……次からはタイミングを速めないと……」
外れていた原因が分かり、それは解決できる問題だったので、後はひたすら修正していくだけだった。
こうして実戦訓練まで残り1週間というところで、動く的を完全に壊すことに成功した。
「やっとここまで来た! ランド先生からもらった新しい的を付けて、実戦訓練までにちゃんとできるようにするぞ!」
そう意気込んで飛ばした『スマッシュ』は壁にぶつかり、その後を的が通り過ぎて行った。
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「シンくん、明日はいよいよ実戦訓練の日です。この魔法鍛錬がここで受ける最後の鍛錬になることを祈っています」
「はい、ランド先生。僕が今日まで頑張ってきたことを見ていてください」
この日までに完全に壊した的の数は3つ
壊れかけの的を、新しい的に変えランド先生に成長を見せていく。
前日に魔力をたくさん魔法石に込めたので途中で止まることは恐らくない。
体調も良い魔力も良い……あとは失敗しないように気を付けるだけ。
「我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる、サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ」
完全詠唱によって『スマッシュ』ができる、これをどんどん圧縮していく。
(もう何度も経験している、焦らず狙いを定めて……)
「『スマッシュ』!」
1発目は見事に的に当たり一部を壊す。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる、魔法を使い始めてからじゃ制御が難しいから、使う前に整えておく。
同じように完全詠唱と圧縮をした2発目を飛ばす。
また的に当たり一部を壊していく。
続く3発目、壊れてなくなった部分を魔法が通り過ぎて壁に当たった。
(大丈夫……1発外しただけ、いつものことだ。取り乱すことじゃない……それに元々的があった場所だ)
4発目は的の真ん中に当たり一気に的が壊れる。しかし残骸が2つ残っていて、それが左右バラバラについていた。
(残り1発……的は繋がっていないからどちらかしか壊せないな。でも必ず1つは壊してみせる!)
「『スマッシュ』!」
最後に飛ばした『スマッシュ』は残骸の1つを完全に壊すことに成功した。俺はできることをすべて出し切ったので満足だった。すると後ろから拍手が聞こえてくる。
「シンくん、よくここまで頑張りました。これであれば明日の実戦訓練は大丈夫そうですね」
「ここまで来られたのはランド先生のおかげです、ありがとうございます」
悲しくないのに涙が出てくる、きっとこれが嬉し泣きというものなのだろう。
「最後に確認します、明日はシンくん1人で戦ってもらいます、できますか?」
「はい、絶対勝ってみせます!」
「……分かりました、では明日のためにしっかり今日は休みましょう」
こうして実戦訓練までにある程度、動く的に当てることに成功した。
明日は俺1人で戦うことになるが、今度こそ勝って、初勝利を目指す。




