49話 強くて授業!⑥(疲労)
朝の日差しが眩しく暑い、こうやって立っているだけでも身体から汗が垂れていく。そんな中、俺たち生徒はランド先生の指示で、校庭で待っている。
ランド先生の持ってくる荷物が運び込まれるまで、俺たちは朝の鍛錬を始められないでいた。俺以外は、なにが起こるか知らないため、緊張や不安などが顔に出ている人もいた。
(朝の鍛錬の前に待たせると言ったらやっぱりアレだよな)
そんなことを考えていると、ランド先生が武器の入った大きな入れ物を運んで来た。
「みなさんには、これらの武器を装備して走ってもらいます。金属製ですので重いですが、慣れてもらわないと魔物との戦闘に苦労するでしょう」
俺は真っ先に自分がよく使う剣を装備する。それに続いて、他のみんなも武器を装備していった。
「っ……こんな小さなナイフでも、意外と重たいのですね。キイロくんはどうですか?」
「僕はオレンより力はあるから平気だよ。ただ、爪を装備しているから普通の走り方だと腕が疲れて使えなくなりそうだ。ミドーは……動きにくそうな武器だね……」
オレンとキイロが選んだ武器はどれも軽めの物だが、ミドーは自分と同じ長さのある鎌を背負っていた。
「デカいだけあって、後ろに引っ張られる感覚があるな」
みんなは武器を装備しただけで動き辛そうにしていた。俺は金属製の武器の重さに慣れていたからなんの支障も無かった。
「みなさん武器は装備できましたね、では鍛錬を始めてください」
俺たちは一斉に走り出す。もちろんミドーが俺を追いかけてくるので全力で逃げる。武器を装備して遅くなっているのでしばらく夢中で逃げていると、いつも後ろから感じていた、追われている気配が今日は薄かった。気になって後ろを振り返ると、ミドーと距離が離れていた。
ミドーは辛そうな顔をしながら走っている。鎌の重さに引っ張られて、上体が反って今にも後ろに倒れそうになっていた。他のみんなもいつも以上に汗を流しペースが落ちていた。
この調子なら追いつかれることは無いと思ったので、走るペースを落とし、ミドーの様子を窺う。もし倒れたらすぐに駆け付けるためだ。
だけど、誰も途中で止まることなく朝の鍛錬は終わった。
「ぜぇ……ぜぇ……あぁ疲れた!」
ミドーは武器を外して大の字に地面に横になって休憩をする。ミドーだけに限らず、いつもは立って休憩をしている人も座って休憩をしていた。
しばらく休んでいると、1番疲れているミドーが回復したのを見計らって魔法の鍛錬が始まる。こちらも1段階厳しくなる。
魔力を身体の外に出す鍛錬で、お手本としてランド先生が手の平に球体の形にした魔力を出す。俺はいつも『スマッシュ』を使うときにやっていることなので楽々できた。
「あぁ……」
「くっ……」
「…………」
オレンは上手く球体を維持しているが、徐々にぐらぐらと揺れ始めて魔力は消えていった。
キイロも良いところまで行くが、球体と言えないほど形は揺れていた。
ミドーは魔力が漏れすぎて早々に膝をついていた。
他のみんなも同じように、魔力を手に集めるまでは上手くいくが、球体になってもすぐ崩れたり、形がそもそも球体とはならなかったり、外に魔力を出したことで膝をついてしまう人もいた。
「……俺もそろそろ限界だな……」
球体にした魔力が揺らぎ始め、それを止めることができなくなったので自分から魔力を消した。魔法に使っていない魔力なら安定してきた、あとはこれをどうやって魔法でもやるか……そんなことを考えて今日の朝の鍛錬が終わる。
初めてこの鍛錬をやったみんなは、心身ともに疲れてその場から動けないでいた。
「お昼は勉強ではなく校庭で鍛錬をしますので、しっかり昼食を取り身体を休めるようにしてください」
みんなはそのことを聞いて魂が抜けたように固まっていた。
■
昼食を済ませ、再び俺たちは校庭に集まる。朝にやっていた武器を装備しながら走るのかと思っていた人たちばかりだが、昨日までやっていた武器なしで走る鍛錬の時間を長くするだけのようで安心していた。
俺は知っている、武器を装備した鍛錬の方が楽だったと。時間が長いということは、ペース配分を間違えると後半にどんどんきつくなってくる。みんなはまだ体験したことが無いから後半で余力を残すことができないことは想像できていた。
問題は、俺が自分のペースで走ることができるかどうか……
(ミドー追いかけてくるなよ……)
俺がミドーを見ると、やる気に満ちた目でこちらを睨みつけてきた。どうやら俺の思いは伝わらなかったようだった。
「いつもは10分ですが、今回から30分走る鍛錬に変ります。最後まで走り続けられる速さを見つけてください。では鍛錬を始めてください」
普段より遅い走り出しである、俺とミドー以外は…………
「あと15分です、頑張ってください」
(……まだ15分なのか……)
ミドーに追われすぎて、喉から「ヒュウ……ヒュウ……」と息をするたび鳴っていた。走っているのに歩くのと同じくらい動きが遅くなっていて、ペース配分に気を付けていた他のみんなにどんどん抜かされていく。
それでも序盤に何週も差をつけていたので、まだ周回遅れにはなっていなかった。
「…………おぇ……」
あまりの疲れに視界が歪む、吐き気まで感じるようになってきた。そして目の前から色が消え白黒でしか物が見えなくなっていた。
(……なんだ……これは!?)
急に身体が軽くなった感覚に襲われる。地面に足がついているのに空中にいるように感じ、上下左右の感覚が分からなくなった。
俺は前のめりで倒れる。倒れている感覚すら分からなくて顔を守ることができず、顔面を地面に叩きつけた。起き上がろうと手や足に力を入れるが思うように動かない。なんとか身体を起こしても、すぐに倒れてしまっていた。
しばらくそのようなことを繰り返していると、なにかが俺に覆いかぶさってくる。俺の耳元でなにかしゃべっているようだが、なにを言っているのか聞き取れなかった。
俺はそこで意識を手放した。
今日は鍛錬が厳しくなった1日だった。




