46話 強くて授業!③(痕跡)
「あの逃げていった切り株は魔物だったのかよ、気づかなかったぜ。やるなシン!」
「ランド先生がヒントくれたおかげだよ」
ミドーから褒められた俺は照れるように言った。
「あの魔物は、獲物が油断して近づいたところを襲うのです。私との実力差に怯え逃げてしまいましたが、みなさんでは襲われてしまいますので、不用意に近づかないようにしてください。怪しいと思ったら刺激しないように離れるか、遠くから石などを投げて確認してください」
ランド先生は簡単に魔物の説明をして、対策も教えてくれた。
簡易ベースキャンプがあっても森の中、気を抜いているとすぐそばに魔物がいることに気が付かず、休んでいる間にやられてしまう。街とは違って安全ではないことが分かった。
「さて、魔物の観察もしたことですので、学校に帰りましょう。後ろにいた人を先頭にして進んでください」
ランド先生の指示に従い、来た道を戻る。俺たちはここに来る前に先頭を歩いていたため、帰りは後ろになるようだ。最後尾はランド先生となっている。
歩いていると、木々が揺れ体に僅かな振動を感じる。
「先生方、急いでみなさんを移動させてください」
慌てるように前にいる先生に伝える。それを聞いた先生たちは早歩きで生徒たちの誘導を始める。
「シンくんたちも急いでください」
ランド先生から声をかけられた直後、遠くの方から獣の咆哮が聞こえてくる。俺は聞き覚えのある声に足が止まり身体は震え始めた。そんな俺の状態を見て、オレンとミドーとキイロの足も止まる。
「シンくん大丈夫ですか」
「なんだ、今の雄叫びは!?」
「なにかヤバい気がする。急いで!」
キイロの声に反応してミドーは移動を再開する。オレンは俺の背中をさすりながら歩かせる。
「まだ遠くにいるはずです、見通しの悪い森の中から私たちのところに来る可能性は低いでしょう。私は様子を見てくるので、みなさんは先生方に付いて行ってください」
俺たちにそう伝えると、ランド先生は後ろに移動して見えなくなった。
「ありがとうオレン、もう震えは止まったから1人で歩けるよ。俺のせいでミドーたちと距離が開いちゃったから急いで合流しないとね」
「僕は気にしてないですよ。さあ行きましょう」
俺たちは走ってミドーたちのところまで向かう。まだ見える位置にいたおかげで迷わずに進んで行けそうだ。
無事にミドーたちのところに合流できた。しかし問題が発生していた。
「ミドー、他のみんなはどこ?」
「…………悪い、道に迷った」
「ごめんシン、僕がミドーを急かしたばかりにこんなことになった……」
「ここで止まっていても森から出られないので、移動しましょう」
獣の咆哮がまた聞こえる、さっきよりも音が大きく近くなっている。さっさと森から出ないといけない。通ってきた道を思い出しながら、その風景と似たところを探していると木に巻かれた赤い布を見つける。
「あそこに赤い布がある! もっと近くで見ればどの方向に向かえばいいか分かるよ」
赤い布を目指して進んでいく、目の前に到着すると片付けられているが、荒れた痕跡がまだあった。
「木にひっかき傷があります……ここでなにかあったのは確実ですね。それにしても大きい……僕の指が根元まで入るくらい削られています」
オレンが手で木に触れ、付けられた傷の大きさを確認している。
「シン、帰る方向は分かりそうか?」
「ちょっと待ってて、ここがこうだから……多分あっちの方向に行けば森から出られると思う」
俺が指をさして次に向かう場所を決める。するとミドーがまた先行しようとしたので、キイロに肩を掴まれて止められた。
「シンは進む道が分かってるみたいだから、シンを先頭にして移動するよ、みんなもそれでいいよね」
キイロの提案にみんな賛成のようなので、俺が先頭を歩いて移動する。歩いている最中にも獣の咆哮が聞こえてくる、その音に怯えながらも歩き続けていると、森の出口が見えてきた。
「やっと森から出られますね」
「ミドーが迷ったときはどうなることかと思ったよ」
出口が見えて安心しているオレンとキイロ、でも安心するのはまだ早い。
「他のみんなと合流できなきゃ、俺たちだけで街まで帰らなきゃいけなくなる。スライムなら襲ってこないけど、他の魔物と遭遇したら今の俺たちじゃ倒せない」
「俺が負けると思ってるのかよ!」
「ミドーには悪いと思うけど、学校に入ってすぐだから勝てないと思うよ。武器も木製しか装備させてもらってないでしょ? だから戦おうとしないでね」
ミドーにも注意して森の外に出る。周りを見渡すとかなり遠い位置に先生や生徒たちが移動しているのが見えた。
「とりあえず最悪な展開ではなさそうだね、さっさと合流しちゃおう」
その後ちゃんと合流できて無事に学校まで帰ることができた。
■
俺は今、部屋の窓から夕焼け空を眺めている。この時間になってもランド先生が帰っていないみたいだ。
「俺たちみたいに迷っているのかもな」
「さすがに先生ともあろう人がミドーみたいに迷うかな?」
「迷っていないなら帰りが遅いのは不思議ですね、なにかあったのでしょうか?」
考えられるとしたら、森の中で聞こえた獣の咆哮だ。
(ランド先生、無事でいますように……)
俺はそう祈るしかなかった。




