43話 新たな仲間!(不仲)
「オレンには自己紹介したけど、ミドーとキイロにはまだだったね。俺はシン、気軽にシンって呼んでくれれば良いよ。3か月前からこの学校で冒険者を目指して頑張っているんだ。」
俺がそう言うと、キイロが首をかしげている。
「えっと……この学校って3か月で冒険者になれるって聞いたんだけど。シンはなんで冒険者になってないの?」
「俺が弱いからまだ冒険者にできないって言われちゃってね……」
「あ……そうなんだね」
俺を見るキイロの目が暗くなった気がした。ミドーはお腹を抱えて笑っている。
「ははははっ! 3か月もやっといて冒険者になれない雑魚かよ、俺の邪魔だけはするなよな」
「ミドー、そんなにハッキリ言ったら可哀想だよ」
「はいはい分かった分かった、悪かったよ」
キイロがミドーに注意をするが、ミドーは言葉では謝っていても態度は謝っていなかった。
「僕たち、仲良くやっていけるのでしょうか……」
苦笑いをするオレン、俺たちの初めての出会いは良くないことは確かだった。
その後1日中、俺とオレン、ミドーとキイロと別々で会話をしていた。同じ部屋にいるのに見えない壁でもあるかのように、お互いに干渉をしなかった。
■
空は晴れ窓からは少し暑い光が入ってくる、俺が1番早く起きたみたいで、みんなはまだ寝ていた。ミドーはいびきまでしていた。
「みんな朝だよ、起きて」
俺は、オレン、ミドー、キイロの順番で起こしていく。
「……あ、おはようございます……ふわぁ……」
オレンは寝ぼけているのか、上体を起こしているけど目は閉じたままだ。あくびもしている。
「…………もう少し寝かせろ……」
ミドーは眉間にしわを寄せて、俺のいる方とは反対を向く。ミドーのことは後にして、キイロを起こしに行く。
「ん!?」
キイロに身体を揺らそうと肩に手を当てると、いきなりその手を掴まれて引っ張られる。そのときにお腹も殴られた。
その騒がしい音でオレンとミドーは完全に目を覚まし、俺たちの方に視線を送る。
「……そろそろ俺の手を放してもらえる?」
「ご……ごめん! 痛かったでしょ?」
キイロも目が覚めたのか俺に謝ってきた。
「いきなりのことでビックリしただけだから大丈夫だよ」
「ははははっ! キイロは寝起き悪りぃから起こさない方が良いぞ、俺も何回も殴られてるからな」
「そうみたいだね」
ミドーが言うようにキイロは寝起きがめちゃくちゃ悪いようだ。俺は顔を引きつらせながら、実はミドーよりキイロの方がヤバいやつなんじゃないかと思うようになった。
「食堂でご飯食べるけど、みんな行くでしょ?」
「飯か! だったらもっと早く起こせよな、ほら行くぞ」
部屋から出て早速移動を始めるミドー。
「待ってよ、食堂はそっちじゃないよ」
キイロはミドーを追いかけていく。
「それでは僕たちも食堂に行きましょうか、シンくん、案内お願いします」
「そうだね、食堂はこっちだよ」
オレンと俺はゆっくりと食堂に向かった。
■■
食堂に着くと、先に行ったはずのミドーたちはいなかった。後ろからする足音がするので振り返ると、ミドーの腕を引っ張るキイロの姿があった。表情は笑っているが、目は笑っていなかった。
「クソ、俺たちが負けたのかよ!」
「食堂の場所も知らないのに勝手に移動するからじゃん。おとなしくシンに付いていけば良かったんだよ」
「雑魚には付いて行きたくねぇ!」
「またそういうこと言う!」
ミドーとキイロはそんなことで揉めていた。
「とりあえず静かにしよう、シェフの人たちも凄く睨んでいるし……」
俺が厨房を指差し、2人がそちらを見ると皿を拭きながら睨みつけるシェフや、ジャガイモの皮を包丁で剥きながら睨みつけてくるシェフなどがいた。
「きょ、今日のところはこれで勘弁しといてやるよ」
「そうだね、僕も言い過ぎたようだ」
2人は揉めるのを止めた。
「それじゃあ、食事を取りに行こう」
俺が移動すると3人とも付いてきた。ミドーは納得がいかない顔をしているが渋々付いてくる。
「ミドー、大盛も頼めばしてくれるよ」
「なんだと! 雑魚のくせにでかした、俺は大盛にするぞ」
俺たちは普通の量だったからすぐに渡して貰えたけど、ミドーは食事も飲み物も大量だからか少し時間がかかっていた。その間に近くのテーブルで食べることに決め席に着く。
俺の目の前にオレン、オレンの横にキイロという感じで座っている。
「こんなに貰ってきたぞ」
3人前くらいある量を乗せて、こちらへ向かってくる。ミドーはキイロの隣に座った。
(俺の隣が開いているのに、遠回りしてキイロの隣に座るのか……そのことを言ったらまた揉めそうだし、仲良くやっていけるのかな?)
周りを見ると、オレンは気まずそうにしているし、キイロもため息をつくだけでなにも言わなかった。
今日の食事はパンに野菜スープにポテトサラダ、飲み物はミルクだ。俺がこの学校に来て初めて食べた献立と同じだった。
「うまっ!」
ミドーがそんな事を言う、ポテトサラダが一口分減っているのでそれを食べたのだろう。
「うまっ! うまっ! うまっ!」
凄い速さで食べていく、パン1つを平らげたかと思うと、ポテトサラダを口に含みまたパンを食べる。それを野菜スープで流し込み、パンを少しかじり、ミルクで口直しをしている。
あまりの食べっぷりに俺とオレンは手を止め、口を開けてミドーを見ていた。キイロはいつものことなのか、驚くこともなく食べていた。
「あぁ食った食った、ここの飯はめちゃくちゃ美味いな!」
「そうだね、かなり美味しいと僕も思ったよ」
ミドーもキイロもここの食事に満足しているようだ。さっきまで2人を睨んでいたシェフたちも、ミドーの食べっぷりを見てニコニコしている。
「ここの食事って美味しいよね」
「あぁ、めちゃくちゃ美味かった」
俺が話しかけても素直に答えてくれる、美味しいものを食べて満腹になっているからか、ミドーの雰囲気は柔らかくなっていた。
俺やオレンやキイロは食べ終わっていないので食事を続けていると、食堂に人が集まり始めていた、食べ終わったらすぐに片付けて教室へ向かうことにした。
「それでは、教室の方の案内もお願いしますね」
「ほらミドー、今度はちゃんとシンに付いて行くよ」
「はいはい」
ちゃんと3人付いてきてくれるみたいだ、俺たちは教室へ向かった。
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教室に着くとミドーは適当なところに座り、俺たちも隣になるように座った。
しばらくすると、食事を終えた他の生徒たちも入ってくる。生徒全員が集まって教室が雑談で騒がしくなってきたころ、教室の前の扉が開き、ランド先生が入ってくる。
「みなさん昨日ぶりですね、今日から私があなたたちの先生をすることになりましたランドと言います。みなさんに教えるのは冒険者にとって基礎的なことになります。もし基礎を学ばずに冒険者になるととても危険で、最悪命を落とします」
教室にピリッとした空気が流れるが、ミドーは口角を上げて楽しそうである。俺は前にも聞いたような挨拶から入るランド先生に懐かしさを感じていた。
「この学校から学び冒険者となっていった方たちは、昔に比べて生き残るようになりました。私もあなたたちに死んでほしくありませんので、きっちり教えていきます」
ランド先生は笑顔で生徒たちを見て、俺と目が合ったときは軽くうなずく。
「では授業を始めます」
俺は強さや知識を持った状態で、最初から学び直すようだ。




