42話 シン生活!(新生活)
朝、学校の正門前でアオ、ハク、ユカリ、他のみんなも荷物をまとめて立っている。その向かい側には俺やランド先生、他の先生たちがいた。
「アオ、ハク、ユカリ。俺とはここでお別れだけど、みんなと会えるように、すぐに冒険者になるから!」
俺の差し出す手に3人とも手を重ねてくれる。なにも言葉を言わなくても、みんなの思いは伝わってきた。
「別れは寂しいですが、またみなさんと会えるときを楽しみにしています」
ランド先生は冒険者になるみんなに笑顔で言う。みんな俺たちから背を向けギルドに向かって歩き出した。
みんなが見えなくなるまで見送った。完全に見えなくなったら他の先生たちは学校に帰っていった。残ったのは俺とランド先生だけだ。
「明日から冒険者になるための人たちが来るので今日は大掃除をします。シンくんは自分の部屋の掃除をお願いします」
「分かりました」
そう言ってランド先生も学校に帰っていった。俺もその後に続いて行く。
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自分の部屋に着く、俺の荷物以外は綺麗に片付けられている。
「掃除をするわけだし、まずは自分の荷物を綺麗にするか」
武器や服に魔法書などをテーブルに置いて一か所に集める。Gが入った袋を持ち上げるとジャラジャラと音が鳴る。
「最後に使ったのは船に乗ったときか……あれから3か月か……ギーリックさんにガイアさん、今頃なにしてるのかなぁ」
森にいた俺を助けて学校にまで入れてくれたギーリックと、初めて魔物と戦闘をさせてくれたガイアを思い出していた。
「よっと、俺の物はこれで全部かな? よし、じゃあ部屋の掃除だ!」
荷物を全部テーブルに置き、掃除を始める。毎日掃除をしていて綺麗だが、今日はベッドの下やテーブルの裏や窓を入念に水拭きや乾拭きをして埃を残さないようにする。テーブルに置いた荷物も元の位置に戻した。
ゴロゴロという音が近づいてきて俺の部屋の前で止まる、するとコンコンとノックされる。
「はーい、どうぞ」
「シンくん、掃除は順調そうですね。換えの枕とベッドカバーを持ってきたので交換しておいてください」
ランド先生は部屋の中を見てそう言うと、扉を開けたまま部屋を離れる。部屋の外には荷車があり、そこにある枕やベッドカバーを両手で部屋まで運んでくる。
「シンくん、これをテーブルに置くので、交換をお願いします」
ドサッとテーブルに置かれる4つ枕と4つベッドカバー、それを置くとランド先生は部屋を出ていき、ゴロゴロとする音が聞こえて、隣の部屋あたりで音が止まった。
「さっきの音は荷台の音だったか。さっさと交換しちゃおう!」
ササッと全部交換して部屋の掃除が終わったころ、交換した枕とベッドカバーはランド先生が回収に来てくれた。
「部屋は十分綺麗ですね。私たちはまだ他の部屋の掃除がありますが、シンくんは自由時間にしていて良いですよ」
「本当ですか! ありがとうございます」
そう言ってランド先生は部屋を出ていった。
俺は今日1日のやることが終わって、掃除道具をしまい、ベッドでくつろいだ。
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いつの間にか寝ていたようで、窓からは夕焼けが部屋を優しく照らしていた。
(お昼食べてないのにこんな時間か)
俺1人だけがいる部屋は不気味なくらい静かだった。
(掃除しているときは気が付かなかったけど、1人だとこの部屋広く感じる)
もう誰もいないベッドを見つめる、寂しさを感じているとお腹が鳴った。眠気も覚めて、しばらくは眠ることもできなさそうなので、食堂に行ってご飯を食べることにした。
(食事をしているのは俺だけか……)
コックが厨房で洗い物をしている音がよく聞こえるほど食堂も静かである。食事もすべて食べ終え部屋に戻るころには日も落ち、辺りは星の光だけとなった。
(最近やってなかった瞑想でもしてみるか)
俺はベッドに横になり、目を閉じ集中する。全身に魔力を感じた。徐々に身体から余計な力は抜け、リラックスできていた。
街の外にある草原の空に浮いているような感覚になっていく、スライムが何体かぴょんぴょん跳ねるだけで平和だった。
そのまま視界がどんどん広がっていく、どうやら俺が空高く移動しているみたいだ。どんどん地上から離れていくと、周りは黒いなにかで見えなくなっていた。
(あそこはまだ行ったことがないから見えないのか)
どんどん視界は暗くなっていく、それでも空高く移動を続ける。俺の意識はいつの間にか無くなっていた。
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窓から差し込む光と騒がしい声で目を覚ました。外を見るとかなりの人数の俺と同じ歳くらいの人たちが学校に入ってきていた。
朝食を食べに食堂に向かい部屋に帰ってくると人がいた。俺がいきなり部屋に入ってきたことに驚いているようだ。俺も部屋に入ったら知らない人がいて驚いている。
「あぁ、驚かせてごめんね。俺はこの部屋で寝泊まりしているシンって言うんだ。冒険者になるためにここに来たんだよね?」
「あ……初めまして、僕はオレンと言います。よろしくお願いします、シンさん」
パーマのかかったオレンジの髪色の優しそうな少年がそう挨拶してくれた。
「俺のことはシンで良いよ、オレンはこの部屋を一緒に使うみたいだし」
「お気遣いありがとうございます、シンくん」
俺がオレンと親交を深めていると足音を響かせながら新たな同居人が部屋の扉を強く開ける。
「……あぁ、なんだてめぇら。ここは俺の部屋だぞ」
髪を逆立てた緑色の髪の目つきがキツイ少年が俺たちを睨む。
「ここはミドーだけの部屋じゃないでしょ、ランド先生にそう言われたじゃん。あ、僕はキイロでこの目つきの悪いのが幼馴染のミドー。これからよろしく」
さらさらとした黄色い髪で顔がカッコいい少年が、ミドーに注意をして俺たちに笑みを浮かべてくる。
アオ、ハク、ユカリと別れた次の日には、新たな仲間のオレン、ミドー、キイロと出会った。そんな日だった。




