41話 ギルドカード認定書!(便利)
今日は久々にみんなと一緒に朝の鍛錬、模擬戦や実戦訓練で一緒にやることは少なかったので新鮮な気がした。
俺も鍛錬に参加している。魔物との闘いで付いた腕の傷は、起きたら完全に塞がり痛みも無くなっていた。
この学校に来る前は、痛みが次の日にも残っていたことを思うと、自分はあのころから成長していることを感じられた。
(あの頃は加護もかなり弱かったんだなぁ)
鍛錬をして、勉強をして、魔物と戦う。
同じことを何度も繰り返し、少しずつできるようになってきている。みんなとはどんどん実力が離れていっているけど、いつかは追い越す。そんなことを俺は思うようになっていた。
「はぁ……はぁ……みんな速いし力も上がっているよね。実戦訓練の次の日は差を凄く感じさせられるよ……」
「そうだね、シンくん。魔物と戦うのは怖いけど、倒したあとは僕もみんなも強くなっているよね!」
アオの言う通り、魔物を倒すたびにみんな強くなっている。前回は5人でも苦戦していたのに、今回は3人でもかなり楽に戦えた。
(もうみんなは1人でも1体のスライムを倒せる実力になっているはず。俺もそろそろ1人でスライムくらい倒せるようにならないと)
俺がそんなことを思いながら朝の鍛錬は終わった。
■
汗を流し、昼食を取り、久しぶりの教室だ。
ランド先生がまだ来ていないからか、教室は普段よりも騒がしい。もう授業の開始時間を過ぎているのにだ。
「ランド先生が遅れるなんて初めてじゃない? もしかして教室じゃなくて外だったのかな?」
アオが不安そうに言う。ユカリは座りながら背伸びをして、窓の方を見る。
「教室で合っているはずですわ、窓から外を見ても誰もいませんわよ」
そんなことを話しているうちに教室の扉が開けられた。
「みなさん、遅くなってすみません」
荷物を抱えたランド先生が謝罪をして教室に入ってくる。さっきまで騒がしかった教室は一瞬で静かになった。
「みなさんに報告があります。先ほど私たち教員とギルド職員とが話し合った結果、明日から冒険者として活動しても良い者を決定しました。名前を呼ばれた方は渡す物があるので、
前に来てもらいます」
「「「…………えええええ!!!」」」
少しの静寂のあと、生徒たちの歓喜が響き渡った。
「みなさん静かに……みなさん静かにしてください!」
「「「…………」」」
両耳を手で塞ぎながら静かにするように言うが聞き入れてもらえず、仕方なくランド先生は大きな声で静かにさせた。
「まだ騒ぐのは早いですよ。みなさんの中には話し合いの結果、まだ冒険者にするのは厳しいと判断された方もいます。自分の名前が呼ばれるまでは安心できませんよ」
生徒たちはゴクリと唾を飲んで呼ばれるのを待った。ランド先生は紙を見ながら名前を呼んでいった。
「ユカリさん、ハクくん……」
次々と名前を呼ばれた者から前に行き、紙みたいな物を渡され席に戻る。
「……アオくん。以上が今回冒険者として活動しても良い者たちです」
みんな名前を呼ばれて「良かったぁ」と喜んでいる人ばかりだった。そんな中、ランド先生が言ったように冒険者になれなかった者が1人だけいた。
「っ!」
冒険者として認められなかったのは俺だけだった。俺は両手で顔を隠すように額に手を当てる。なんとなく分かっていたこととはいえ、目には涙が溜まって今にも零れ落ちそうだった。
「……シン」
「シンくん……」
ハクやユカリは俺のそんな状態を見て、悲しそうな声で俺の名前を呟いた。その声を聞いて、俺の涙はぽろぽろと落ち始めた。
「ぅ……っ……」
俺のすすり泣く小さい声は、みんなの歓喜の声にかき消されていることが幸いだった。俺のこの状態を知っているのは、ハクとユカリ、アオとランド先生だけだった。
みんなが席に着いたことで、渡された物の説明が始まった。
「名前を呼ばれたみなさんは全員受け取りましたね? みなさんに渡したのは『ギルドカード認定書』です」
みんな渡された物を確認すると『ギルドカード認定書』の文字と自分の名前が書いてあった。
「この『ギルドカード認定書』をギルドに持っていくことで、本物の『ギルドカード』と交換してもらえます」
さらに続けて説明をしていく。
「『ギルドカード』をちゃんとした手順で作ると、1000Gもかかりますし、書類の作成や、実力テストを受けさせられますが、この『ギルドカード認定書』を渡せばそのようなことが無く、すぐに『ギルドカード』を発行してもらえます。これで説明を終わります」
面倒なことをしなくても良いというのは、みんなには魅力的に見えたらしい。キラキラした目で紙を眺めている人が多かった。アオもその1人だ。
「明日から冒険者です。この3か月で得られた経験や知識を生かして、様々な困難を乗り越えてくれることを祈ります」
ランド先生はみんなに頭を下げ、みんなは「ありがとうございました!」と自然とお礼を言っていた。
「ではみなさん、私はこれで失礼します。シンくんはお話があるので私の部屋まで来てください」
「は、はい!」
急に呼ばれて焦って立ち上がる。
「アオ、ハク、ユカリ、また後で」
俺はそう言ってランド先生に付いていき教室を出た。
■■
久々にランド先生の部屋に入る。魔物にダメージが入らなくて相談しに行ったとき以来だ。
「どうぞ座ってください、今ミルクを用意しますね。テーブルに置いてあるクッキーも食べて良いですよ」
言われるがままイスに座り、ミルクを出してもらった。ランド先生は魔法石を使ってポットを温め始める。中の水はお湯に変り紅茶を作る。
ミルクと紅茶の甘い香りが部屋を包む。
「ランド先生、俺に話しってなんですか?」
ランド先生は紅茶を一口飲んでから話し始める。
「シンくん、今回あなただけ冒険者にしなかったことをどう思っていますか?」
「え? どうって……やっぱり悔しいです。みんなと一緒に冒険者になりたかったです」
「私も他の先生方もシンくんの頑張りは知っています。来た頃に比べて成長していることも分かります」
少しの沈黙、場の雰囲気に耐えられなくなった俺はクッキーを1枚口に入れ、ミルクと一緒に飲み込んだ。クッキーやミルクの甘い味で少し気持ちが楽になった。
「それでも、シンくんの剣では魔物にダメージを与えられない、魔法も4回しか使えないのでスライムすら倒せない。このまま冒険者にしてしまうと、クエストをクリアできず路頭に迷うことになることが想像できました」
ランド先生の言葉はその通りすぎるのでグサグサと胸に突き刺さった。
「……ランド先生は……俺がなにをすれば冒険者として認めてくれますか?」
「……1人でスライムを倒せるようになったらですね」
魔物の話しが出たときにある程度想像はついていた。やはり、スライムを倒すことは冒険者にとって最低条件なのだ。
「次の実戦訓練は1か月後です。シンくんには1人でスライムと戦ってもらいます」
「1か月後……ですね。やれるだけのことはやってみます!」
俺以外は冒険者になり、
俺も冒険者目指して次は必ず勝利する! そう意気込んだ日だった。
■■■
ランド先生や他の教員に、ギルドの職員が集まり会議をしていた。
「実戦訓練中にベアードの強個体の出現、危うく生徒の1人が死にかけました。ギルドは何か情報を掴んでいますか?」
「我々の調査によりますと、ここ最近魔物が活発に活動していることが分かっています。森の奥地で生息するベアードは住処を奪われて草原まで姿を現せたと考えられます。また、実戦訓練のために魔物の狩る量を減らしていたことが、草原まで導いてしまった要因かと。すでに何件か魔物の死骸が発見されたと報告されています」
「そうですか、直接戦ったランドさんの話しも聞きたいです」
他の教員がランドに話しを振った。
「2メートル弱の個体なので産まれたてのベアードで間違いないと思います。生徒の命を優先したため追いかけませんでしたが、あのとき追いかけて倒しておけばと後悔しています」
「それでしたら我々がクエストを出しましょうか? ☆4冒険者のランドさんならクリアできると思いますが」
「私よりも、今活動している冒険者たちにクエストを出した方が良いかと」
それを聞いてギルド職員はがっくりと肩を落とす。
「しかし困ったものです、森や草原で魔物を狩っているでしょうから、クエストの難易度を間違えやすい。☆3クエストと出して、 ☆4並みなら大変なことになります……かといって☆4クエストで出すとクエストを受けてくれる者がいるかどうか……」
「☆4冒険者以上は他の街に行ってしまうことが多く、アルンの街には数が少ないのが……」
会議はそのような話しで続いていた。




