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40話 3回目の実戦訓練!②(強個体)

「グルァァァ!」



 森にいる魔物が雄叫びを上げる、俺はその声を聞いて身体が石になったかのように動きを止めた。魔物が森から出て姿を現す。


 大きさはだいたい2メートル。熊みたいな見た目で青い毛皮、瞳は赤い色をしている。手からは鋭く硬そうな爪が生えていた。



「グガァァァ!」



 魔物から1番近くにいたスライムに手を叩きつける。



「ス……ラ……」



 俺たちに経験値が入ってくる、襲われたスライムは魔物の一撃でやられてしまったようだ。そして、経験値は魔物にも入っていった。


 スライムに興味を無くしたのか、俺と魔物は目が合った。今まで動けずにいた俺は、やっと事の重大さに気が付いて逃げ出す。


 背を向け逃げる俺を、魔物は追いかけてくる。魔物の方が速く、どんどん俺との距離が近づいてくる。



「うぁぁぁ!」



 腕に強い衝撃が走る。俺は数メートルも飛ばされて地面に横たわる。



「ぁ……ぁ……」



 今まで一度も経験したことのない激痛が腕にくる。目からは涙があふれ、痛みで声もまともに出せなくなっていた。


 俺は無事な方の手で痛みの激しい腕を抑えて、痛みを和らげようとする。押さえている指の隙間から血がドバドバと流れていった。



「シンくん! ぁ……」



 俺のところまで駆け寄ってくれたアオは、俺の出血を見て腰を抜かしてしまう。


 ハクは魔物に矢を放って攻撃をしているが、魔物の身体に矢が当たっても弾かれていた。



「……ダメージが入らないから、俺の毒が効果を発揮できない!」



 ハクはそれでも矢を放ち続ける、そんなハクの行動を全く気にせず、魔物は俺の方へ近づいてくる。



「グラァァァ!」



 魔物が俺に飛びかかろうとしたとき。




「『ドン・ウォータ』」




 魔物と同じくらいの大きさの水の塊が、魔物に直撃して攻撃を中断させる。



「危ないところでした」



 ランド先生が助けに来てくれた。


 魔物を急に現れたランド先生の様子をうかがっている。


 その間にランド先生は俺たちに近づき、何か液体が入ったビンを取り出すと、それをアオに手渡した。



「アオくん、これは『スーパーポーション』です、私が魔物の相手をしている間に、シンくんに飲ませてあげてください。完全には治らなくても、痛みを和らげてくれるでしょう」


「わ、分かりました!」



 アオはビンのふたを取って、俺にゆっくりと飲ませてくれた。



「うっ……ぅ……はぁ……はぁ……少し……マシになったよ」



 スーパーポーションを飲んだことで痛みは引いたが、傷はまだ塞がってなかった。今は手で押さえて出血を減らすことに専念することにした。




 ランド先生は俺たちの前に出て剣を構える。



「熊のような見た目……ベアードという魔物に近い見た目をしていますが、青い毛皮に赤い瞳……強個体のベアードですね。もっと森の奥にいるはずの魔物がなぜこんなところに……」


「グルゥゥゥ……」


「今は安全確保のために追い払います。原因調査はギルドに任せることにしましょう『ドン・ファイア』」


「グギャァァ!」



 今度は大きな火の玉がベアードに直撃する、身体は火に包まれて苦しんでいる。ベアードは地面に身体を擦り付け火を消そうとしていた。



「させません! 『ウィンド』」



 風の魔法を燃えているベアードに向かって使う。火に風が送られることでより火の勢いが増した。地面に生えている草も燃えはじめていた。


 ベアードはそこから離れることで難を逃れる。身体に付いていた火も消え、所々焦げた毛皮になっていた。



「グルァァァ!」



 ベアードはランド先生に攻撃をする、鋭い爪で引き裂こうとしたが避けられて、反撃で腕を切る。


 しかし、ベアードの毛皮は固くランド先生の剣でも傷が付かなかった。



「焦げていない毛皮は、ダメージが通らない。なら、焦げたところなら」



 ベアードの背後に回り焦げた毛皮に向かって攻撃をする。



「グギャ!」



 ベアードから反応があったが、思うようにダメージが与えられなかった。



「なら、次は魔力を剣に流して……はぁ!」



 剣に薄っすらと魔力がかかる。その状態を維持しつつベアードに攻撃をすると、毛皮を切り裂き血が流れダメージを与えることに成功する。



「グギャァァ!」


「1回でこれだけダメージが与えられていれば十分ですが、シンくんのことがあります。戦闘を早く終わらせなければ……『ドン・ファイア』」



 もう一度ベアードに『ドン・ファイア』を使ったが、手で弾かれて散ってしまった。


「2度も通用しないですか。でもこれならどうですか?」



 ランド先生は剣を地面に刺し両手を前に出す。手には大きな魔力が集まっていた。



「『ガル・ドン・ファイア』」



 ベアードを飲み込むほどの大きな火の玉が、容赦なく襲い掛かる。そしてランド先生は追い打ちをかける。



「『ガル・ドン・ストーン』」



 巨大な石の塊がベアードにのしかかり、身動きを取りづらくしていた。


 暴れているうちに、のしかかった石を砕きなんとか脱出に成功するが、ベアードの毛皮はボロボロ、皮膚が丸見えになっているところの方が多かった。



「グルァァァ!」



 ベアードは両手を地面に刺し、土をすくい上げて飛ばしてきた。ランド先生は腕で土が目に入らないようガードしていると。その間にベアードが森に逃げ出した。


 唯一離れていて、土の影響が無かったハクがベアードに矢を放って攻撃する。矢は刺さったが、そこまでで、森に入られて見失ってしまった。


 戦いが終わったからか緊張が解け、ハクもその場で座り込んでしまう。ランド先生はハクに手を貸し立ち上がらせて俺のところまできた。



「先生……俺のことはいいですから、あの……ベアードとかいう魔物を追いかけてください」


「ベアードはギルドの冒険者たちに任せましょう。今はシンくんの怪我を治すことが優先です。さあ、街に帰りますよ」



 ランド先生は俺を抱きかかえて街まで運んだ。





 ■





 街に到着して学校に戻ると、ランド先生に運ばれている俺を見て、他の実戦訓練をしていた生徒たちからは最初からかわれたが、腕の出血を見てみんな顔を青くして心配をする声に変った。


 ユカリも涙を流し「生きてて良かったわ」と言っていた。


 部屋に戻り、一通り治療をしてポーションを飲まされた。まだ腕は痛むが、耐えられる痛みにはなってきていた。


 夕食は、片腕が使えないとアオやユカリに思われて2人に食べさせてもらっていた。


 食堂の真ん中に人が集まって列を作っていた。列の先頭は、肉をお皿に乗せられて渡されている。

 どうやら調理された大きな肉の塊をシェフが削いでいるようだ。



「シンくん、あれなんだろうね?」



 アオが俺に聞いてくる。



「この前話していた豪華な食事ってやつじゃない?」


「あれがそうなのね! 私シンくんたちの分まで取ってくるわね!」



 そう言ってユカリは列に並び始めた。


 そして、俺たちの分の肉をユカリは持ってきた。



「美味しそうなお肉ね……んんん!?」



 ユカリは肉を一口食べると奇妙な声を上げた。



「どうしたの!? ユカリ」


「すっっっごく美味しいわ! このお肉! シンくんも食べてみて! はい、あーん」



 ユカリは肉を俺に食べさせた。



「なんだこの肉! めちゃくちゃ美味い!」



 俺が肉の味に感動していると、何の肉か教えてもらった。



「さっきシェフの人に聞いたら、このお肉はベアードという赤い毛皮に覆われた魔物のお肉なんですって」



 俺とアオとハクは一瞬で血の気が引く感覚に襲われた。



(この肉が……ベアード……でも赤い毛皮だから俺たちと会ったやつとは違う……)



 俺たちはこの後、肉の味をしっかりと記憶に残して眠りについた。




 今日はスライムを倒しに実戦訓練をしていたら、ベアードに襲われランド先生に助けられた。そんな命の危険までした不幸な日であると同時に、今までで1番美味しかった肉を食べられて幸せだった日でもあった。

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