37話 模擬戦トーナメント!⑩(決勝)
今日は模擬戦トーナメントの決勝戦。
校庭には先生や生徒たちだけでなく、学校で働いている人たちも見に来ていた。いつもより人が多く、決勝ということもあり騒がしい。
「みな静かに」
どこからか聞こえてきた声に反応して静かになった。誰が言ったか確認するために辺りを見るが、見つけられなかった。しかし、大人たちの視線が空に向いていることに気が付き空を見ると、地面でもあるかのように空中を歩いている校長先生がいた。
5メートルはある高さにいるが、ひょいと身を投げて着地する。土埃は多少舞ったが、着地の音は全く聞こえず、衝撃を完全に殺していた。
「みな、良くここまで頑張った。同じ環境で学び鍛錬をしたはずじゃのに、この短い期間で戦術も能力も得意不得意も個性が出た。今日はお互いを高めあう最後の模擬戦の日、己のすべてを出し切り戦うのじゃ」
校長がそう言うとやる気が一段と湧いてきた。
「決勝は逆トーナメントの方から行います」
緊張しているのか心臓の音が大きく聞こえる、俺は目を閉じ、心を落ち着かせる。
「シンくん、前へ」
俺は前へ移動する。心を落ち着かせたことで視野が広くなった気がした。
「アオくん、前へ」
アオも前へ移動する、装備は槍を持っているだけで、他に隠しているものは無いように見える。詳しく知る目的で握手に向かう。
「アオ、今日はよろしく」
「シンくん、こっちこそよろしく」
アオの装備を確認してもおかしなところは無かった、しかし、握手をしている手に違和感を覚える。
(手に触れているはずなのに、手の感触が分からない……)
服を多く着込んでるみたいな感触、前にも同じものを感じたことがある。アオがなにかしていることは分かったが、それがなにかまでは分からなかった。
考えても答えが出ないなら、今は考えない。今は少しでも勝ちやすくするための準備をする。俺は完全詠唱をして『スマッシュ』をいつでも使えるようにした。審判の先生が声を上げる。
「私の持つ石が爆発したら始めてください」
高く投げられる石が爆発する、俺はすぐに魔法を使った。
「『スマッシュ』!」
「『ウォータ』!」
俺から出た魔力の塊と、アオから出た水の塊がぶつかり俺の魔法は消えた。アオの魔法も弾けて地面を濡らした。
「なっ、アオが魔法!?」
「『ウォータ』!」
「うぁ!」
驚いている間に次が来る、アオの放った魔法を避けられず当たってしまう。スライムに体当たりされているような感じだった。身体も濡れている。
(まさか魔法を使ってくるなんて思わなかった、しかも省略詠唱の属性魔法。俺はまだ無属性魔法に完全詠唱をしないと使えないのに……)
「『ウォータ』!」
「っ!」
考えている間にまた魔法を使ってくる、なんとか反応して避けてみるが身体にかすってしまう。
(魔法でも勝負はダメだ、アオの方が早いのに俺の魔法を相殺できる威力。武器での戦いに持ち込まないと!)
俺は斜めに移動しながらアオに近づく。
「『ウォータ』!」
アオが魔法を使ってくるが、俺に狙いを合わせられていないのか当たらない。そのまま距離が近づいたときに、薙ぎ払うように槍で攻撃される。俺はそれを剣でガードすることで対処する。
そのまま体当たりをしてアオの体勢を崩し、剣で切りつける。
「うっ! えい!」
「っ! うわっ!」
すぐにアオが殴って反撃をしてくる、そのあと身体を回転させて槍の薙ぎ払いをしてきて、俺のお腹に当たる。
次にアオは槍で突いて来るが、俺は槍の横を剣で叩き軌道を逸らせる。アオは槍をもう一度構え直して攻撃しようとするが、先に俺が剣を振り下ろす。
咄嗟にアオは槍でガードする。アオの方が力が強いのか剣を押し切れない。
「ぐふっ!」
お腹に衝撃が来る、どうやらアオに蹴られたようだった。
「『ウォータ』!」
「!?」
後ろに少し引いた俺の顔面に魔法を使ってきた。水の塊が顔に当たり痛いが、それよりも一瞬息ができず視界も悪くなったことがまずかった。その間にアオは俺の目の前から消えていた。
すぐ後ろを向くと槍が俺に刺さる。
「かはぁ!」
俺は衝撃で後ろに飛ぶ、すぐに体勢を立て直してアオから離れる。魔法を使ってくる可能性があるので、離れていても気は抜けない。
(まだやれるはずだ、なにかいい方法は……!)
俺が周りを見ていると濡れている地面を見つける、最初にアオと俺の魔法のぶつかり合いのときにできたものだ。
(見つけたけど、どうやってアオをあそこまで誘導するか……)
俺は目線でバレないようにアオを見ながら俺とアオの間に濡れている地面が入るように移動する。槍ではもう一歩近づかないと俺に攻撃が当たらないギリギリのところまで移動することができた。アオはこちらの様子をうかがっている。
目的の場所までこれたので、俺は完全詠唱をする。アオは俺に走って近づいてきた。
(魔法を使わなかったってことは、もうアオの魔力は無いってことだな!)
アオが濡れた地面を踏んだと同時に魔法を使う。
「うわぁ!」
当然魔法を避けるためアオは足に力を入れて回避しようとするが、地面が濡れていて思うように地面が蹴れずに転んでしまう。
「今だ! そりゃ!」
「うあ! っ! うっ……いっ!」
俺は転んだアオに向かって切りつける。地面が濡れているおかげで、手で起き上がることも難しくなっていた。
俺に攻撃されながらも槍を掴みなおし、振り回して俺の足を狙ってくる。俺は剣を地面に刺しながらガードする。普通の地面なら避けられるが、ここでは避けると転んでしまうのでガードを選択した。
足元に槍が来たことで、槍を踏みつける。アオはその衝撃で手から槍が離れる。
地面に刺した剣を再び持ち、アオに攻撃する。
「っ!」
アオは俺に体当たりをしてくる。踏ん張りができず転び、アオに馬乗りされてしまった。そこからはお互い殴り合いである。
まずアオが先に俺を殴る、次に俺と交互に……
「そこまで!」
アオが俺の顔面を殴って試合終了、ということは……
「シンくん、僕の勝ちだね」
「あぁ、負けたよ」
模擬戦逆トーナメントは、全敗した俺が優勝してしまった。




