32話 模擬戦トーナメント!⑤(特化)
模擬戦の2回戦が終わり、みんな自由に鍛錬を始める。ハクやユカリはお互いの鍛錬が見られないように離れて鍛錬をして、アオも俺と距離を取って鍛錬をしていた。
「なんだか今日は人が少ないような……」
俺が周りを見渡すと、昨日に比べて人が少なかった。2回戦を勝った人のほとんどが鍛錬をしていて、他の人は校内に戻って休んでいた。
「みんなが休んでいる間に少しでも強くならなきゃ! とは言ったものの、何を強くするか……だな」
俺に何ができるか考える、魔法を強くするには時間がかかるし、準備しても別の方法で止められる。そうなると剣術しかない。だけど力も速さもみんなより劣る……そんな状態で勝つには……
剣を持った相手をイメージする、もしそんな相手から攻撃されたら、避けるほど速くない俺は武器でガードをしてしまうだろう。
もしガードじゃなくて受け流すならどうだろうか? 相手の攻撃を止めないから力が弱くても大丈夫。
イメージした相手が剣を振りかぶって攻撃する、俺はそれを武器でガードするが、相手の攻撃の軌道が斜めに逸れるようにガードをして、俺の身体に当たらないようにする。
「イメージなら上手くいくけど、これが戦いで通用するかだな」
模擬戦後の自由鍛錬はずっとイメージ練習をしてその日を終えた。
■
次の日、朝の自由鍛錬で昨日のイメージ鍛錬をして、模擬戦の3回戦を待つ。勝っている人、負けている人それぞれ16人まで減っていた。
「シンくん、前へ」
「俺からか、じゃあ先に行ってくるよ、アオ」
「うん、シンくん頑張ってね!」
アオは手を振って見送ってくれた。
「アオくん、前へ」
「あ、僕も呼ばれたみたい」
俺のすぐ後にアオが呼ばれたが、対戦相手は俺ではなく違う人のようだ。
俺の対戦相手は弓を装備している、背中や腰にかなりの数の矢を持ってきていた。ここにきて遠距離攻撃をする相手と当たったようだ。
「よろしく」
「あぁ、よろしく」
俺は握手をする、前の試合のときのように魔法の準備が終わってから潰されないようにするためだ。相手も俺の魔法を潰すつもりだったのか、握手をしたときに顔が少し引きつっていた。
これで試合前の邪魔は無くなった。相手は作戦が失敗したこともあり俺からかなり距離を取っていた。だいたい50メートル程離れている、あれだけ距離があると、俺の魔法を当てることは難しそうだ。
こちらから近づくとその分距離を取ってくる、試合が始まるまでは近づくこともできないだろう。
俺は大人しく『スマッシュ』の完全詠唱をしていつでも使えるようにする。
「他の先生方も準備ができたようです、私の持つ石が爆発したら始めてください」
その声の後にスタートの爆発が鳴る。
「『スマッシュ』!」
準備していた『スマッシュ』を使うが、距離が離れすぎているのと、相手が避けているのも合わさって当たらなかった。
「やっぱり当たらないか! ん?」
足になにかが当たったような感触があった。足元を見ると細い棒のような物が地面に落ちていた。
「よし当たる! 模擬戦のために新しく用意して良かった!」
相手からそんな声が聞こえる、そこで俺の足元にある細い棒の正体を理解する。
「こんな細い矢があるなんて思わなかった!」
相手は背中にある矢を掴み、狙いを定める。俺はすぐにその場から動く、止まっていたらあっという間に負けてしまう。
(痛みなんてほとんど感じない、ただ当てることに特化した矢だな! ダメージは無くても、この模擬戦のルールでは攻撃を受けたことになる、とにかく左右に動きながら近づくしかない!)
左右に動いて避けているつもりだが、細くて見えにくく身体に当たった感触が何度もする。そして矢が軽いからなのか、かなり速い連射をしてくる。
矢を避けていると相手が後ろを向いた。どうやら背負っていた矢が無くなり、掴めなくて後ろを見てしまったようだ。この隙に俺は一気に距離を詰める。
「うぉぉぉ!」
「あぁ!」
俺が迫ってきたことに相手は焦って、真っ直ぐ進んでいるのに矢を外してしまう。俺は剣を振りかぶって攻撃をする。
「うあっ!」
1回、2回、3回と攻撃をしていると体当たりをされる。その衝撃で足がもつれて尻もちをついてしまった。
俺が立ち上がっている間に、相手に十分な距離を取られてしまった。腰から矢を掴み、こちらに狙いを定めている。
(ここまでか……)
俺はその後、相手に再び近づく前に矢を受けすぎて負けてしまった。
■■
俺が観戦しているみんなのところまで戻ると、アオも少ししてこちらにやってきた。
「アオ試合はどうだった? 俺はまた負けたよ……」
「僕もまたダメだった……」
アオも負けてしまったようだ。昨日ほどではないが落ち込んでいる。
「ユカリさん、前へ」
「ユカリが出るってことは、今日の逆トーナメントは戦い終わったってことか」
「そうみたいだね」
俺とアオがそんなことを話していると、ハクも前に呼ばれた。ハクは俺たちのいるところから離れた場所で戦うみたいで、細かい戦いの内容は見えない。
そうこうしているうちにスタートの爆発が鳴った。今はユカリの試合を見ることに集中する。
ユカリの相手は長く太く頑丈そうな棒を装備している。両手を上手く使い、頭上でクルクルと棒を回転させて威嚇をしていた。
ユカリは一直線に突進する、相手は棒の回転を落とさずに薙ぎ払う。ユカリはジャンプをして避け、背後から攻撃をする。相手は後ろに棒を振ることによって反撃に出る。
「くっ!」
ユカリの攻撃は当たり、相手の棒は空振りだった。
今度は相手から動く、棒を移動の道具として使い、足だけではできない方向転換をして翻弄をする。ユカリは動きが読めないため、後ろに下がりながら警戒する。相手を見ながら下がっているのでどんどん距離が近くなっていった。
「おらぁ!」
相手が高く飛び、棒をユカリ目掛けて叩きつける。当たればダメージは大きい攻撃だが、ユカリは難なく避ける。
次はユカリが仕掛ける、円を描くように相手の周りを移動して隙を伺う。相手は「いつでも来い」と言い、腕を伸ばし胸の位置で棒を横に構えて待つ。
ユカリは徐々に近づき、死角になる背中を狙う。相手もそうくると分かっていたのでタイミングを見計らって棒を振るが、ユカリには攻撃が届かなかった。ユカリは速度を落としタイミングを変えて相手の攻撃を空振りさせた。
「っ!」
隙のできた相手に攻撃を入れる、すぐに相手も体勢を直して攻撃をするが、ユカリが後ろに飛ぶことによって避けられる。
その後ユカリは緩急を利用してどんどん攻撃を当てていく一方的な戦いになった。相手は打開策も無く、ユカリは1度も相手の攻撃を受けずに勝利した。
ハクもいつの間にか試合に勝っていて模擬戦の3回戦は終わった。




