28話 模擬戦トーナメント!(説明)
「『スマッシュ』!」
圧縮して撃たれた魔法は、新しく用意したスライムくらいの大きさの的に向かって飛んで行く。しかし、的には当たらず奥の壁に当たってしまった。
「やっぱり5割より更に圧縮すると狙いが安定しないな、でも今は威力の方を優先」
俺は『スマッシュ』の威力を高めるために圧縮の鍛錬を開始していた。威力を上げて狙いを良くしてまた威力を上げるを繰り返していけばいつかはできるようになる。そう信じて今日も鍛錬をしていた。
「全部外れたけど、鍛錬をきつくすると毎回こんな感じだな」
「シンくん、今日も頑張りましたね。明日みなさんにも伝えることですが、模擬戦をやるので1週間は午前と午後の鍛錬は休みになります。もちろん魔法鍛錬も」
「1週間も休み!?」
かなり長い休みに俺は驚いた。
「休みと言っても鍛錬はして良いのですよ。身体を休めたり、鍛えたいところを集中して鍛えたり、シンくんたちがそれぞれ必要だと思うやり方を選択できると思ってもらえれば良いです。そうそう、私からみなさんに伝えるまでこのことは内緒でお願いします」
最後にランド先生は片目を閉じてお茶目に俺にお願いをしていた。
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次の日、教室にみんなが集まった。最近はお昼も外で鍛錬だったから、イスに座って話しを聞くのは久々である。ランド先生からみんなへ、明日から1週間鍛錬が休みということと、模擬戦をやるということが伝えられた。教室がざわざわとうるさくなっていた。
それを「お静かに」とランド先生は人差し指を自分の口に近づけて言った。教室が静かになったのを確認すると詳細を話し始めた。
模擬戦は64人参加のトーナメントで行うこと、これは、勝った人は他の勝った人と戦うというのを最後の1人になるまでやるという俺でも知っているやり方だ。午前で準備を整え、午後に模擬戦を始める。これを1週間続ける。5日間で64人から2人に絞り、1日休みを入れて7日目に決勝戦をやると説明を受けた。
「それからもう1つ、1回戦で負けた方には逆トーナメントに参加してもらいます」
「「「逆トーナメント?」」」
みんな同じように聞き返した。
「説明します、逆トーナメントとは、負けた人が2回戦3回戦と進んでいくトーナメントです。つまり、誰が1番弱いかを決めるので、みなさんここで優勝しないように頑張りましょう」
みんなは焦っていないようだが、この模擬戦は俺に不利だと気が付いて内心ドキドキして焦っていた。魔法の鍛錬をしていたから、みんなよりも魔法は優れているが、模擬戦は近距離戦闘を想定した試合、当然相手との距離も近い。そうなれば、今の俺では魔法を使う暇を与えてもらえないことは分かり切っていた。
(威力や狙いを優先して、発動速度を鍛えてないことがここで響いたな……)
俺がそんなことを考えていると、隣からガタガタと小さい音が聞こえてきた。何かと思いそちらを向くとアオが震えていた。アオも近距離戦闘が得意では無いので不安なんだろうと俺は察した。
俺はアオの肩に手を置き「一緒に頑張ろう!」と言って励ました。アオは俺に頑張ろうと言われたことで気持ちが落ち着いたのか、体の震えは止まり「そうだね、頑張ろう!」といつも通りの元気を取り戻した。
模擬戦の説明は終わり、明日に備えてお昼の鍛錬をせずこのまま解散となった。
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部屋に戻るとアオやハクと俺とで明日の模擬戦で会話が盛り上がっていた。
「僕とシンくんは強くないから負けちゃうだろうけど、ハクくん強いから優勝できるかもね!」
「俺は自分のことで精一杯だったから分からないけど、ハク以外で強いのって誰がいるんだろう?」
「……ユカリだな」
アオと俺でハクの他に誰が強いかと話していたら、ハクから思わぬ人物が出てきて俺の身体が少し跳ねた。
「ユカリってそんなに強いの?」
「……あぁ……強い、というより上手いと表現した方が良いか。とにかくこちらの攻撃が当たらないんだ、シンは実戦訓練でユカリとパーティーだったから、ユカリの戦い方見てるよな」
俺は以前やった戦闘訓練を思い出していた。
「そういえばユカリだけはスライムの攻撃を全部避けてたような……」
「……ユカリは全部避けるのに攻撃を入れられるときは入れてくる。ヒット&アウェイが得意なんだ……なかなか強敵さ」
「でもハクくんも早い方だからなんとかなるかも?」
「……そうだな、何が起こるか分からないし、アオの言う通りもしかしたらなんとかなるかもな、1発でも当たれば……」
ハクは手で顔を覆う、指の隙間からはニヤリと何かを企んでいるように口角が上がっていた。
「まぁ勝たなきゃユカリとも戦えないし、もしかしたら途中でユカリが負けるかもしれない、アオもハクも頑張ろうね!」
「うん! 僕頑張るよ」
「……あぁ……そうだな」
こうして俺たちは眠りについた。
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模擬戦当日、空は晴れて天気による邪魔は入らない。対戦相手は先生たちが勝手に決めたようだ。呼ばれるまでは待機して、その間みんなの戦いを見ることも大切だそうだ。
「私たちが許可した武器のみ持ち込み可、魔法も使用可とします。10回攻撃をもらうと負け、血を流しても負け、降参をしたら負けとします。審判は各先生方にお願いします。なにか質問はありますか?」
ランド先生は俺たちに聞く、返事がないためそのまま次に進んだ。
「ではこれより模擬戦を開始します、名前を呼ばれたら来てください」
校庭でみんな「「「うぉぉぉ!」」」と歓声を上げている。次々と名前を呼ばれて言った。
「シンくん、前へ」
どうやら俺は他の模擬戦を見ることなく自分の試合が始まるようだ。
「よろしく!」
「あぁ、よろしく」
俺から対戦相手に挨拶をして握手を求め、手を出す。向こうも応じてくれた。
「他の先生方も準備ができたようです、私の持つ石が爆発したら始めてください。それ!」
ランド先生が空に投げた石は大きな音を立てて爆発した。ビックリしてほとんどの生徒が爆発した空を見上げて動きを止めていた。
(ここしかない!)
俺は詠唱を始めた。
「我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる……」
「うおぉぉぉ!」
俺が詠唱を始めたことに気が付いたのか、相手は慌てて俺に攻撃を仕掛けてくる。
「サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ……『スマッシュ』!」
「うぐぅ!」
撃ち出した『スマッシュ』は相手のお腹に当たって身体を浮かせた。しかし、膝を付くほどのダメージではないようだ。
(もう少し気づかれるのが遅ければ圧縮で威力を高められたのに……)
俺は腰にある剣を抜く、もう魔法を使わせてくれるほど相手は待ってはくれない。お互いに相手に向かって走り出す、剣と剣がぶつかり鍔迫り合いになった。
「……っ!」
「……はぁ!」
力の差はかなりあり、数秒で俺の剣を押し返した。俺は剣でガードするが、相手の連撃が止まらず攻撃を食らう。
「いっ……てぇ!」
刃物で身体を切る痛み、加護のおかげで一瞬で痛みは引き、傷も無い。
(痛みが完全に無くなったから加護はまだ残ってる……攻撃力は大したことないけど、この調子だとあっという間に10回攻撃食らうぞ)
その後俺は防戦一方になり……
「うあっ! いっ! くそっ! うっ……! まだまだぁ! っ……血が……」
5回切られた辺りで身体から血が出て俺は敗北した。




