27話 『スマッシュ』鍛錬!③(圧縮)
『スマッシュ』の圧縮を始めて2日目、昨日訓練所でランド先生が用意していた天井や的に使った石たちは綺麗に無くなっていた。
「今日も『スマッシュ』の圧縮鍛錬です、集中してやりましょう」
「はい!」
ランド先生の声で、俺はすぐに魔法に集中する。完全詠唱を唱えて『スマッシュ』の準備ができる、昨日と同じように集められた魔力を圧縮していった。
「ぐぐっ……っ! 『スマッシュ』!」
1度寝たことにより改めて圧縮の難しさを体感する。これ以上の圧縮は無理と判断して的に向かって撃つが、狙いが甘いため空高く『スマッシュ』は飛んで行き、空中で消滅した。
「昨日よりも圧縮できていますね、その調子ですよ。ではもう一度」
完全詠唱をして圧縮する、耐えられなくなったら撃つ。今はこれを繰り返す。今日も4発すべて的には当たらなかったが、たまたま地面に当たった『スマッシュ』は昨日よりも大きく穴を開けていた。地面が的のようになっているが、本来当てなきゃいけない的はスライム程の大きさの的なのでまだまだ目標は先である。
『スマッシュ』の圧縮を始めて3日目、徐々に圧縮には慣れてきて、俺が作る『スマッシュ』の8割程の大きさまで圧縮できていた。そこから先は魔力制御が上手くいかずに暴走しそうになるので的に向かって撃つ。地面に当たって穴を開けていく、圧縮すればするほど威力が上がっていることは穴の大きさで目に見えて分かるので、成長を実感できて俺の精神は安定していた。
「はぁ……はぁ……ランド先生、圧縮はどのくらいの大きさになるまで続ければ良いのですか?」
「そうですね、元の大きさの5割程の大きさに圧縮してもらいたいです」
「5割!? それは大変ですね」
「圧縮する度に制御は難しくなりますが、5割くらいなら鍛錬すれば大丈夫ですよ」
俺の出来を知っているはずのランド先生が余裕の表情で答えた。ということはそこまで難しくないのであろう。ランド先生の言ったことは今までも正しかったので今回も信じる。
「よーし! 1日でも早く5割まで圧縮してやる」
俺はそう意気込んで今日の分の『スマッシュ』を撃ち尽くした。
『スマッシュ』の圧縮を始めて7日目、ようやく『スマッシュ』を5割程の大きさまで圧縮することに成功した。4日目で7割、5日目で6割、6日目からは5.5割と圧縮することが難しくなったが、無事に課題の5割圧縮までたどり着くことができた。
「『スマッシュ』!」
撃ち出された『スマッシュ』は空に消える。俺の後ろから1人分の拍手が聞こえた。
「シンくんおめでとう。5割まで圧縮できましたね、早速ですが次の課題です。どんなに強力でも当たらなければ意味がありません。ですので、今度は圧縮した状態で狙ったところに当てる鍛錬です」
喜びもつかの間、すぐに次の課題が言い渡された。俺は気持ちを切り替えて完全詠唱まで終わらせ圧縮しようとすると、ランド先生から「待った」の声が入った。
「ここ1週間ずっと圧縮ばかりをして狙いが甘くなっていました。今日は感覚を取り戻すために残りの『スマッシュ』は圧縮せずに的を狙ってください」
「分かりました」
俺は圧縮を止めた。少し前の俺なら手の平に『スマッシュ』を維持するだけでも大変だったのに、今では無意識に維持ができるようになっていた。圧縮に夢中で気が付かなかったが、魔力の制御が上手くなっていたのだろう。
「『スマッシュ』!」
スライム程の大きさの的に向かって撃つ、的が小さいとはいえ10メートルという短い距離を外すことは無かった。
「最初の1発は外さずともズレると思っていましたが、見事に真ん中に当たりましたね」
どうやらランド先生は俺が外すと思っていたようだ。俺もしっかり当たって内心驚いていた。その後もすべて当て今日の鍛錬は終わる。
今日からは圧縮した『スマッシュ』を的に当てる鍛錬……のはずが少し違うことをやるようだった。
「今日から的に当てる鍛錬をしますが、シンくんには圧縮した『スマッシュ』を最低でも5秒は維持できるようになってもらいます。そのくらい魔力を制御できないと狙いも甘くなるでしょう。私が声をかけたら的に狙い始めて、数え始めるまで維持してから撃ってください」
「分かりました!」
俺は完全詠唱をして圧縮、5割程まで小さくできたら声をかけられた。
「そのまま維持してください、1……2……3……」
「うぅ……ダメだ! 『スマッシュ』!」
手の平で暴れる魔力を抑えることが無理と判断して、4秒になる前に『スマッシュ』を撃った。最初から的に狙っていたので的の方向に飛んで行ったが、的からは2メートルも斜め上にズレて壁に当たっていた。
「すみません……維持が無理だと思い撃ってしまいました」
俺はランド先生の指示通りにできなかったことを謝るが、ランド先生は「判断が早くて怪我をせずに済みましたね」と俺のことを心配していた。
「気を取り直してもう一度やりましょう」
「はい!」
このあとは『スマッシュ』を使うたびに維持できる時間が減って今日の鍛錬は終わった。
『スマッシュ』を的に当てる鍛錬2日目、今日こそはと意気込む。
「それではシンくん、私が声をかけたら的に狙い始めて、数え始めるまで維持してから撃ってください」
言われてすぐに始める、5割圧縮は昨日に比べて安定していた。
「1……2……3……4……5、撃ってください」
「『スマッシュ』!」
的から3メートル以上横にズレる、しかし今回はちゃんと維持に成功できた。
「よし! 5秒の維持はできた!」
「良いですよ、あとはどんどん的に当てられるように調整していくだけです。さあもう一度」
2発目3発目とどんどん的に近づいていく。
「『スマッシュ』!」
今日最後の『スマッシュ』が飛んで行く、方向も高さも的に合っていた。
「いけぇぇぇ!」
的の外側に『スマッシュ』が当たる、壊れはしなかったが圧縮前の表面に傷ができる程度ではなく、表面を削ることができた。
「当てることができましたね」
「良かった……やっとここまで来た……」
「あれだけ的にダメージを与えることができれば、あとは当て続ければ壊れますね。もう少しです」
今日も鍛錬を終えて眠る。
『スマッシュ』を的に当てる鍛錬3日目、的に当たったのはたまたまだったのか、
今日は3発目まで的のギリギリで外し、最後の4発目で当たった。
『スマッシュ』を的に当てる鍛錬4日目、
「よし! 今日は当たるぞ!」
的の真ん中に当たり始めて、的がかなりでこぼこになってきていた。そして3発目に異変が起きる、なんと的に小さい穴が開き、的の奥にある壁が見えるようになった。
「シンくん、あともう少しです」
俺は的の真ん中に向かって撃った。4発目も無事に当たり、的の真ん中は穴ができていた。
「よっしゃぁ! 的壊したぞ!」
俺が喜んでいると「まだです」とランド先生から声がかかる。
「残った部分も全部、ですよ」
どうやらまだ俺は完全に的を壊さないといけないようだ、しかしこの感じなら明日には達成できると思った。
『スマッシュ』を的に当てる鍛錬5日目、1発目は狙いが良すぎて穴の開いた部分を通って後ろの壁に当たった。俺は「あれ?」と首を傾けて、ランド先生は口を手で隠し笑っていた。その後はちゃんと的の端を狙って撃つ。2発目左上、3発目右上、4発目は下に当たり、的を完全に壊すことに成功した。
「ランド先生! 今度こそ壊しましたよね!」
「ええ、今度はちゃんと壊れていますよ。今まで頑張りましたね」
俺は的を壊したことを、両手の握りこぶしを空に突き立てて喜びを表現した。
今日は、そんな1日だった。




