24話 2回目の実戦訓練!(不足)
先生たちや生徒たちが街から出て広い草原を歩いている。今日は2回目の実戦訓練、前回から約1ヵ月ぶりである。
前回は10人1グループを作っていたが、今回は5人1グループだ。みんな強くなっているとはいえ、半分も減ると狙われる可能性が上がる。攻撃ばかり鍛えて防御は全く鍛えていないので、1発攻撃を受けるだけでもダメなのは変わっていなかった。ただ、俺は魔法が使えるのでみんなほど魔物に近寄らなくていいことが強みである。
「私が近くにいると逃げてしまいますので、ここからはみなさんで移動してください。なにかあっても助けられるギリギリの位置にいますので、今までやってきたことを出しましょう」
ランド先生や他の先生たちは俺たちと別行動を始めた。他のグループが豆のように小さく見えるくらい俺たちから離れていた。すると横から誰か俺に近づいて話しかけてくる。
「シンくんはやれるだけのことをやればいいのよ、ダメだったら私たちが守ってあげるわ」
「ユカリありがとう、頼りにしてるよ」
ユカリはニコッと笑みを浮かべると元の位置へ帰っていった。今日一緒に行動する5人の内の1人はユカリだ。どうやら俺のことを心配して声をかけたみたいだ。俺は弱い気持ちにならないようにしていたつもりでも、まだまだみんなからは心配に見えるようだった。
「あれは……いたぞ、スライムだ」
先頭を歩く俺がスライムを発見した。100メートル以上離れたところに青い塊が低く跳ねている。みんなは俺の指さす方向に目を向けスライムを見つける。ここからでは俺たちの攻撃が届かないので移動する、その間もスライムは跳ねたり這いずったりと移動する。
跳ねてくれると位置が分かるが、這いずられると草に隠れて場所が分からなくなる。そうやって近づいては離れを繰り返しているうちに、やっとスライムと30メートルほどの距離まで近づくことができた。スライムも俺たちの存在に気が付いたのか、こっちをジッと見つめてくる。
(この距離じゃ遠くて俺の『スマッシュ』は当てられないのに気付かれるのかっ!)
敵意のある魔物ならもっと離れた位置でこちらに気が付き攻撃してくるだろう、改めて自分の攻撃範囲が狭いことを思い知らされる。
「私たちがスライムの周りを囲んで注意を引きます、その間にシンくんは魔法をお願いしますわ」
「分かった」
ユカリの指示に従い俺以外はスライムの周りに展開していく。スライムは4人をチラチラ見て俺から完全に意識を外していた。
確実に魔法を当てるためにゆっくりと近づく、訓練所で使ってた的よりも小さいスライム、距離にして約20メートル、これ以上近づくと俺にも意識がいってしまう……そうなれば当然避けられるだろう。狙う場所が変わったところに一度も当てたことが無いので、バレるわけにはいかなかった。
「我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる……サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ」
「『スマッシュ』!」
魔法名を言うタイミングでスライムが俺の方を向く、すぐにユカリたちが武器を大きく振って注意を逸らす。それに気を取られ、俺から目を離したことにより『スマッシュ』がスライムに直撃する。
「当たった!……」
衝撃でスライムは少し後ろに押される、スライムの身体を見るとかすり傷ができていた。もう1発入れようと詠唱を始めようとしたとき、スライムが俺に向かって跳ねながら近づいてくる。
「スラ! スラ!」
「っ! 我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる……っ!」
「『スマッシュ』!」
俺とスライムとの距離は5メートルもなかった。完全詠唱をすると間に合わないと判断して途中で魔法を発動させた。跳ねながら近づいて来るとはいえ、直進で距離も近かったこともあり当てることは難しくなかった。跳ねて空中にいるところに魔法が当たってゴロゴロと転がっていく。魔法の威力が低いのか、かすり傷が増えた程度ですぐに体勢を直してきた。
俺が魔法を当てて時間稼ぎができたおかげで、ユカリたちが俺のところまで来ることができた。
「シンくん! 大丈夫?」
「ギリギリ魔法が当たって助かったよ、でももう魔法を使っている余裕はなさそうだ」
スライムは完全に戦闘態勢になっていた。俺は腰から剣を抜きいつでも戦えるように準備する。仲間の1人がスライムに攻撃をする。
「うおぉ!」
「スラ!」
剣での攻撃が当たり、スライムが初めて血を流す。俺たちも後に続いて攻撃する。魔法ばかり鍛えていた俺は剣でダメージを与えることができなかったが、ユカリたちが少しずつダメージを与えていた。
「スラ!」
「うあっ!」
仲間の1人がスライムの体当たりを食らう、衝撃で仰向けに倒れてしまう。倒れた仲間に続けて攻撃しようとしていたところをユカリが狙い、攻撃を中断させることに成功する。スライムのヘイトがユカリに移ったことで、倒れた仲間が大勢を立て直す時間ができた。
「スラ!」
「っ!」
攻撃をすれば避けられなくなるので、ユカリは避けることに専念している。その間に仲間が攻撃してダメージを与えていく。そしてダメージを与えた仲間にヘイトが向かい、体当たりを食らって膝をつく。
ここでグループの人数が少ないことによる大変さが分かるようになってきた。攻撃と防御の切り替わりが早いのだ。対応が遅れるとスライムの攻撃を食らうことになる。また、攻撃回数が少ないのでなかなかスライムが倒せないでいた。
「おりゃ!」
ダメージを与えられない俺もスライムに攻撃する、俺にヘイトが向けばユカリたちが攻撃しやすくなるからだ。
「スラ!」
「うっ!」
スライムの体当たりを避けることができなかったが、俺は腕で身体を守りながら避ける動きをしていたので直撃を食らわずに済んだ。ただ、腕に痛みが残っている……
(やっぱりまだ1発で加護が無くなるのか!)
女神の加護が代わりに受けてくれるダメージを超えたため身体に痛みが残ってしまった。俺がヘイトを向けられているうちにユカリたちが交互に攻撃していく。
「スラ……」
攻撃されすぎてスライムに疲れが見え始めた。
「「「はぁ……はぁ……」」」
俺たちも肩で息をしながら戦っている。
「……スラ……スラ……」
スライムが這いずりながらノロノロと逃げ出した。逃がさないようにユカリたちが周りを囲む、それでもスライムはすき間を探して逃げようとする。
(逃げようとしてるけど動きが遅い、距離もそんなに離れていない、今なら!)
俺は痛む手をスライムに向けるそして魔法の詠唱を始めた。
「我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる……サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ!」
「『スマッシュ』!」
「スラ!?」
弱ってて俺に意識がいっていないところに魔法が直撃した。スライムはひっくり返り体勢を立て直すのに時間がかかっている。その隙を見逃すことは無く、ユカリたちは一斉に攻撃してスライムを倒した。倒したスライムから経験値が出てきて俺たちの中に入っていく。
「やったわシンくん! スライムを倒したのよ」
「ユカリあんまり揺らさないで……ぅ」
ユカリはスライムを倒した喜びで俺の身体を揺らす。俺は魔法を3発も使ったことでかなり疲労が溜まっていたため、揺らされると気持ち悪くなっていた。
少しして遠くから見ていたランド先生が来た。
「みなさんお疲れ様です、他のグループも終わったみたいなので街へ帰りましょう」
ランド先生に連れられて俺たちは街に帰る。
まだまだ俺の攻撃も防御も弱い、1人じゃ魔物すら倒せない、みんなの力を借りないといけない。だけど自分の力が通用すると感じた日であった。




