239話 ☆3『ゴースト討伐』④(半球形)
『サーチ』を使う余裕がない俺は剣を振り回し、ゴーストが俺たちを攻撃してくるよりも先に、こちらが攻撃をするという作戦に出た。
「えいっ、やぁ、はぁ!」
剣を縦に横に、ときには後ろに向かって攻撃してみるが、見えないゴーストに俺の攻撃が当たらず、俺の耳には、剣の振った時の風切り音が聞こえるだけだった。
俺が剣を振るのに夢中になっている間に、ゴーストはアオの近くで姿を現し、氷の攻撃をしていた。
「ケケケ」
「うわぁ冷たい!」
アオは腕に冷たさを感じてその場から走り出し、ゴーストから離れる。アオが近くにいなくなったことで、ゴーストは姿を隠して俺たちを狙って近づいて来ているのだろう。
俺はアオを自分の後ろに移動させて、とにかく剣を振ってゴーストが近づけないようにしていた。その間に、アオは自分の服に付いた氷を落としていく。
「えいっ!」
「ォ……」
「いま当たった!?」
たまたま剣を振っていた場所にゴーストがいたようで姿が現れる。ゴーストの体が一部切られるが、やはり剣ではあまりダメージになっていないのか、すぐに元の姿に戻っていく。
だが、俺が攻撃を当ててゴーストの姿が見えた事で、アオがゴーストの近くまで移動して手を向けた。
「『ヒール』!」
「ォォォ」
アオはゴーストを倒したあと、魔石を拾って俺の所に戻ってくる。
「シンくん、僕試してみたいことがあるんだけどいいかな?」
「何をやるの?」
「まあ見てて」
アオは空に向かって両手を上げると魔法を唱えた。
「『シールド』!」
俺とアオの周りにドーム状の薄い青色の壁が広がった。
「ケケ?」
ゴーストはアオの『シールド』を通り抜けられないのか、姿を現して『シールド』ちょんちょんと触っていた。そして『シールド』を壊そうと、氷の攻撃をしてくる。
『シールド』はどんどん凍らされていくが、あと少しくらいは耐えられそうだ。
「僕の思った通り成功したみたい」
「なるほど、アオの『シールド』で全方位を守っているから、その外側にいるゴーストが俺たちに攻撃できないのか」
「さすがに全方位を守っていると『シールド』が薄くなっちゃって突破されやすくなるから、シンくんは今のうちに『サーチ』を唱えてみて」
「そのための『シールド』か!」
俺は目を閉じて集中すると、『サーチ』の完全詠唱を始める。アオに守られているおかげで、ゴーストが俺に攻撃して邪魔をしてこないので、最後まで詠唱することができた。
「『サーチ』!」
俺の『サーチ』が発動して視界が灰色に変わったのと同時に、アオの『シールド』がゴーストの攻撃によって壊された。
「アオ、あそこからゴーストが近づいて来ている」
「分かった! 『ヒール』!」
「ォォォ」
「今度はこっちにゴースト!」
「『ヒール』!」
「ォォォ」
俺は寄ってくるゴーストをアオに教えて、アオにゴーストをどんどん倒してもらった。辺りには多くの魔石と経験値が落ちていた。
アオは短期間に魔力を多く使ったことで、汗を流して呼吸が乱れている。
「はぁ……はぁ……シンくん、もうゴーストはいない?」
「うん、俺の目にはゴーストは見えないよ」
「良かった……はぁ、疲れた……」
アオはゴーストが近くにいないと分かると、体をふらふらとさせながら後ろに倒れそうになった。俺は『サーチ』を解くとアオの後ろに回って、アオが倒れる前に支える。
俺は袋からマジックポーションを取り出して蓋を開けアオに飲ませると、魔力を回復させたアオは元気になり、俺の支えがなくても自分で立てるようになった。
「シンくん、ありがとう。じゃあ他のゴーストが来る前に魔石を回収しようか」
「そうだね」
俺とアオは、落ちている魔石を拾って袋に詰めていった。全てを回収すると、墓地から離れて袋に入れた魔石を全部出す。
そして魔石が何個あるのか数えるのだった。
「17……18……19、俺たちが倒したのは19体のゴーストってことで良いのかな?」
「わぁ、そんなに僕たちは戦っていたんだね。半分に分けると1個余っちゃうのか」
「じゃあ俺が9個でアオが10個だね」
「いいの?」
「ゴーストを倒したのはアオだし、俺はその手伝いをしただけ。むしろ、俺が9個も魔石をもらって良いのかなって気持ちになってる」
「シンくんがいなきゃ、僕はこのクエストを受けようとも思ってなかったからもらっていいんだよ」
「そう言ってくれて助かるよ。じゃあお互いの魔石の個数は決まりだね」
俺とアオは、自分の取り分の魔石を袋に詰めると、アルンに帰る準備をするのだった。だが、明るかった視界はどんどん暗くなってきていた。
「あっ、暗視ポーションの効果が切れたみたいだ」
「ゴーストと戦っている最中に効果が切れなくて良かったね。でもこの暗い中でどうやって帰る?」
「アオはランタンを持ってきている?」
「持ってきてないよ」
「そうか……仕方ない、俺の『ファイア』を明かりの代わりにしよう」
俺は『ファイア』を唱えて左の手の平の上で維持をする。すると、周りが明るく見えて地面がはっきり見えるようになった。
「火で明るくなったね」
「こういう時に周りを明るくする魔法の『ライト』が使えれば良かったけど、俺はまだ『ライト』が使えないからなぁ」
「『ファイア』でも今の僕たちには十分な明るさだよ」
アオはそう言って俺の右隣に来る。
俺は『ファイア』を維持したまま、アオと一緒に帰るためにアルンに向かうのであった。
『サーチ』を使う余裕がないので、剣を振り回してゴーストよりも先に攻撃しようとしたが、見えない相手には当たらなかったので、風切り音だけが聞こえた。
アオは空に向かって手を向けると『シールド』を俺のアオの周りにドーム状の薄い青色の壁を広げた。
ゴーストがこの壁の相手をしているうちに、俺は『サーチ』を使うことができた。
ゴーストを倒したら魔石を回収して墓地から離れる。合計19個の魔石を手に入れ、俺が9個、アオが10個の取り分となった。
暗視ポーションが切れたので、『ファイア』で明るくしながらアルンに帰るのであった。




