233話 『サーチ』鍛錬!①(魔素)
窓からは夕日の光が差し込んでくる時間になっても、俺は『サーチ』の魔法を唱えていた。最初の頃は一瞬しか視界が灰色に変わらなかったが、今では数秒間視界を灰色にすることができていた。
だが、そこまで使いこなせるようになるまでに限界ギリギリまで魔力を使っていたので、ベッドに仰向けで寝転がり、眩暈のせいで揺れる天井を見つめていた。
しばらく目を閉じ休んでいると、お腹の鳴る音が聞こえてくる。
「お腹空いたなぁ、ご飯食べに行くか」
俺はベッドから起き上がり、食堂に向かった。
食堂から出てくる冒険者は多いが、入ってくる冒険者は少ないようで、食べ終わって空になった食器がテーブルに置かれている所が多く、店員が掃除をしながら片付けていた。
俺は空いているテーブル席に1人で向かい、メニューを見て何を注文するか決めて、鈴を鳴らして店員を呼ぶ。
すると、テーブルを掃除している店員は、厨房の方に向かって声をかける。
「キャリー、私今手が離せないから、お客さんの所にあなたが行ってきて」
「はーい、今行きます」
キャリーは今やっている仕事を中断して、俺の所に早歩きでやって来た。俺の顔を見るなり、早歩きから駆け足気味に俺の所まで来る。
「呼んだのはシンさんでしたか! いらっしゃいませ、ご注文お決まりでしょうか?」
「ベーコンパンセットを1つで」
「かしこまりました! ふふっ、シンさんはベーコンパンセットがお気に入りのようですね」
「うん、美味しいからね」
「それは良かったです、すぐに持ってきますね」
キャリーが厨房に向かって数分すると、注文したベーコンパンセットが運ばれてきた。
「お待たせしました! ごゆっくりおくつろぎください」
「ありがとう」
キャリーは俺の言葉に笑顔で返すと、厨房に向かって途中で中断していた仕事を再開するのだった。
俺はゆっくり料理を食べながら、鍛錬の疲れを癒していく。
出された料理を食べ終えたころには、他のテーブルに置かれていた食器は全て片付けられていて、掃除も終わっているようだ。
そして、冒険者たちが一気に食堂に入ってきて、店員たちが大急ぎで注文を受けていた。
それらが終わって店員たちに余裕ができたタイミングでお会計をする。
「またのご利用お待ちしております!」
会計をしてくれたキャリーに手を振って別れると、食堂の外に出る。辺りは夜になっていた。
自分の家まで歩いて帰り、家の外の壁に寄りかかって、道を歩く人たちを見ていた。
「ここで『サーチ』を使ったらどんなふうに見えるんだろう? 魔法書には、人は青く見えて、魔物は赤く見えるって書いてあったけど、文字だけだと想像ができないから、ここで試してみよう」
魔力は休んだことで少しだけ回復している、今使っても眩暈で倒れることはないだろう。俺は目を閉じ、完全詠唱を思い出しながら唱えていく。
「『サーチ』!」
魔法を唱えると同時に目を開き、視界が灰色に変わっていくのを感じる。
そして丁度良く、人が俺の目の前を通ろうと動いていることを視界の端で捉えるが、まだ俺の『サーチ』の範囲は狭く、自分から1Mくらいの距離だと伝わってくる。範囲外のものは魔素を見る事ができず、灰色のままに見える。
俺は『サーチ』が途切れないように踏ん張っている。
(あと少し近づいてもらえば、範囲内に来るはず……っ! 見えた!)
灰色に見えていた人の腕が範囲内に入ったら、その腕が青く見えるようになった。だが、そこで俺の限界が来て『サーチ』の効果が切れてしまった。
俺は壁に寄りかかったままズルズルと地面に座り、息を整える。そしてニヤリと口角を上げた。
俺の前を通っていた人はその一連の俺の見ていて、変な人を見るような目で俺を見て早歩きで移動し始め、どこかへ行ってしまった。
それでも俺は、『サーチ』で魔素を見る事ができたことを喜んだのだが、あることに気が付いてしまう。
「ん、待てよ? 人が青く見えるのなら……」
俺は自分の手を視界に入れながら『サーチ』を使った。すると、俺の手は青く見えるのだった。
「わざわざ他の人を見て試すんじゃなくて、自分の体で試せばよかったぁ! そうすればあんな変な人を見る目で見られなかったのに!」
もう少し早くこのことに気が付いていれば良かったと後悔する。恥ずかしさのあまり、すぐに自分の部屋に戻ってイスに座り、両手で顔を隠して大きい溜息を吐くのだった。
だけど、過ぎてしまった事はしょうがないと諦めて、気持ちを切り替える。
その後は、瞑想しながら魔力が回復するのを待ち、魔力が回復したら『サーチ』の鍛錬を再開して、魔力が切れたら瞑想を交互にやるのだった。
途中から眩暈が酷くなったので、ベッドで横になりながら瞑想だけの鍛錬に切り替える。
瞑想に集中していると、意識が遠くなっていく事を感じていた。
今日はウッドォを討伐して、新たな魔法の習得するための鍛錬をしていたので、体と精神が疲れていた。俺は、遠くなる意識に身を任せて、そのまま眠りにつくのだった。
『サーチ』の鍛錬をすることで、数秒間維持することができるようになった。
そしてお腹が空いたので食堂で食事をし、家の外の壁に寄りかかる。
魔法書に『サーチ』は、魔物が赤く見え、人は青く見えると書かれていたので、近くを通る人に『サーチ』を試していると、『サーチ』範囲内に入った人の腕が青く見えた。
自分の部屋に戻り、『サーチ』と瞑想を交互にやり、眩暈が酷くなったので、ベッドで横になって瞑想だけをしていたら、意識が遠くなってきたので、そのまま眠りにつくのであった。




