231話 2回目の☆2『ウッドォ討伐』④(索敵魔法)
森を進むと、右の方向から何かが近付いてくる。俺はウッドォに気を付けながら木の陰に隠れて様子を見る。
「スラ!」「スラ!」
出てきたのはスライム2体で、何かから逃げるように、必死になって飛び跳ねて移動していた。そのスライムを追いかけていたのは3体のゴブリンたちのようで、木の棒を振り回しながらスライムを狙っている。
「「「ゴブッ!ゴブッ!」」」
「スラー!」
スライムは草むらに入りながら逃げているが、すぐに跳ねて移動するので、ゴブリンたちが足を止めることなく追い続けていく。
そして、スライムの1体がゴブリンに捕まった。
「ス……スラ!」
「ゴブッブッ!」「ゴブッ」「ゴブッ」
ゴブリンはよだれを垂らしながら舌を出しながら、両手でスライムを掴んで離さない。スライムは暴れて抵抗するが、他のゴブリンがスライムを木の棒で叩いて気絶させてしまう。
ゴブリンたちは、動かなくなったスライムを見て楽しそうに笑った後、仲間のゴブリンとスライムの取り合いをし始めるのだった。
持っていた木の棒を放り投げて、スライムを引っ張っているのに夢中で、木の陰に隠れている俺には気が付いていないようだ。
ウッドォと戦っているときに邪魔をされては困るので、ここで倒そうと剣を持つ手に力を入れて、攻撃するタイミングを見計らっていると、ゴブリンたちがやって来た右側の方から矢が飛んできて、ゴブリンたちの頭に当たり、ゴブリンたちはその場で倒れて経験値を吐き出した。
矢を放った人物がゴブリンたちの方へ近づいてくる。木が邪魔で見えなかった姿が見えるようになると、ハクの姿が見えてきた。ゴブリンを倒したのはハクのようだ。
「ハク!」
俺がハクの名を呼んでハクの前に現れると、ハクは弓をこちらに向けて警戒する。しかし、目の前に現れたのが俺だと分かると弓を下ろして警戒を解いた。
「……シン、こんな所にいたのか。急に出てきたから他のゴブリンかと思ったぞ」
「森で1人ならそれくらい警戒していても仕方ないよね。ところで、このゴブリンたちを倒してハクはクエストクリアなの?」
「……いいや、まだ討伐数が足りていない。俺以外にもゴブリン討伐に来ている冒険者が多くて、なかなか倒せないんだ。近距離武器を使う冒険者の場合は、ゴブリンを見つけ次第すぐに攻撃して倒してしまうから、隠れて狙っている俺では一歩遅れてしまう」
「だったら危なかったね。あと少し遅かったら、俺もゴブリンを攻撃するところだったよ」
「……そうか、危うくシンにも取られるところだったのか。それじゃあ俺はゴブリンを探してくる」
「うん、じゃあまたアルンで会おうね」
ハクはゴブリンに当てた矢を回収すると、森の奥へ消えて行った。俺もウッドォを探すために、ハクとは逆の方向に進んで行くことにした。
木がウッドォなのか確認しながら進んでいるが、なかなかウッドォを見つけられない。
あと2体を倒すのにどれくらいの時間がかかるのだろうか、そんなことを思い始めていると、ゴブリンの声と人の声が聞こえてくる。
「ゴブッ」
「待て、逃げるな!」
斧を持った冒険者がゴブリンを追いかけていく。ゴブリンは木に登って冒険者を見下ろすと、冒険者をバカにするような態度を取って煽っていた。
「あいつ俺の事をバカにしているな! そこから落としてやる!」
冒険者はゴブリンの乗る木の近くに来ると、斧で木を叩いて行く。
斧を一振りするたびに、木がミシミシと言い始める。そして、何度か斧で木を叩いているとバキッという音がして、木がゆっくりと傾き始めた。
そして、自分の重さを支えられなくなって、木は倒れる
「ゴブッ!?」
ゴブリンは木に捕まったままだったため、木の下敷きになり、足が挟まってしまって動けなくなっていた。
冒険者はそんなゴブリンの真上に立つと、思いっきり斧を振り下ろしてゴブリンを倒すのだった。
「これで討伐数はクリアだ」
冒険者はゴブリンを倒して気を緩めていると、冒険者の後ろから木の枝がゆっくりと伸び始めていた。
俺はそれを見て走り出し、冒険者に近付こうとする枝を剣で切り落とす。
「うぉぉ!? なんだ?」
冒険者は急に俺が現れたことに驚いているようだ。そして、切られた枝を見ることで、自分がウッドォに襲われかけていたことに気が付く。
「なんだか助けられちまったみたいだ、ありがとう」
「いえいえ、俺はウッドォの討伐がクエストなので丁度良かっただけですよ」
「アァッ!」
ウッドォは、伸ばした枝を自分の体に戻していく。俺はそれに合わせてウッドォに駆け寄る。正面に来た俺に対して噛み付こうとしてくるが、俺はウッドォの後ろに回り込んで、剣で切る。
攻撃が浅かったのか、ウッドォはまだ生きていて、体を回転させて、枝で攻撃してくる。
「アァッアァ!」
「ぐっ! はぁ!」
体勢を立て直して、一直線にウッドォに向かって突きを入れる、ウッドォに刺さった剣を、体重を乗せながら振り下ろした。
ウッドォは断末魔を叫びながら動かなくなった。
経験値が俺の体に入っていくのを見届けた冒険者は、ゴブリンに振り下ろした斧を持ち上げて背負い、倒した木を跨いでいく。そして、俺の方に片手を上げて別れを告げると、森から出ていくのだった。
「あと1体倒したらクエストクリアだ。ウッドォが近くにいれば良いけど……」
「ウッドォならあっちにいますよ」
「うわぁ!」
「また会いましたね冒険者さん」
俺の隣には、いつの間にか背の低いギルド職員が立っていた。
「どうしてここが分かったんですか? 森の奥まで進んでいるはずなんですけど」
「そりゃ魔物の回収をするギルド職員は、索敵魔法の『サーチ』を使えますからね。冒険者さんや魔物の位置は見つけやすいです」
「そんな便利な魔法が、それさえあれば俺もウッドォを探すのは楽になるのかな?」
「『サーチ』は便利ですけど、使える人で戦闘もできる人は多くないんですよ」
「そうなんですね、ちなみにどこでその魔法を覚えられるんですか? 魔法書とかに書いてあるのでしょうか?」
「魔法書に書いてありますよ、私もそれを読んで覚えましたから」
「なるほど、ありがとうございます!!!」
俺はこのギルド職員にもの凄く感謝を伝えた。ギルド職員は何てことないように振る舞い、俺に再度ウッドォの場所を教える。
「もう一度言いますが、あそこにウッドォがいます、あと1体なんでしょ? 倒してクリアしちゃいましょう!」
「はい!」
俺はギルド職員が教えてくれた場所にいるウッドォを倒しに向かうのだった。
スライムを襲っているゴブリンに矢を放って倒したのはハクだった。
ハクとはまた別行動をとっていると、斧を持った冒険者がゴブリンを追いかける。木に登ったゴブリンに対して、斧で木を倒してゴブリンを木の下敷きにして、動けない間に斧で倒した。
その冒険者を狙うウッドォがいたので、ウッドォの攻撃から冒険者を守った。その後、ウッドォを倒して冒険者が帰った後、背の低いギルド職員がいつの間にか隣にいた。
索敵魔法の『サーチ』を使って冒険者や魔物の位置が分かるようだ。
ギルド職員があと1体のウッドォの場所を教えてくれたので、その場所に向かうのだった。
魔法の紹介
・『サーチ』
索敵をする無属性魔法。薄い魔力を周囲に展開することで、魔素の強弱で何があるのかを探ることができる。
周囲に展開できる範囲は、使用者の魔力量や練度で変わる。




