222話 ユカリたちと温泉の旅!⑯(模擬戦)
旅館に帰ってくると、店員たちが集まり「「「おかえりなさいませ」」」と頭を下げて俺たちに言うと、頭を上げた店員の1人が俺とハクに向かって話しかける。
「お客様、お召し替えはこちらにございます」
俺とハクの布の服は、新しい旅館の布の服と交換になり、俺たちは別室で着替えてくることとなった。アオとユカリは、俺たちが着替え終わるのを待っていたようで、俺たちが着替えに使っていた部屋の近くで待っていた。
「シンくんもハクくんも、服が綺麗になったね」
「そうですわね、これでまた観光が楽しめますわ……と言いたいところですが、Gがないから何も買い物ができませんわ」
「そうだよね、俺たちにできることは温泉と散歩くらいしかやれることないもんな」
「……いいやシン、まだ他にもやれることはあるだろう?」
「あっ、訓練所か!」
観光ということで、訓練所を選択肢から外していたが、何でも良いなら訓練所はいくらでも時間を使える便利な所だった。
「……アオもこれから先たくさんのクエストに行くなら、ここで少しでも強くなった方が良い。俺も山賊を追いかけていた時にやっていた、魔力を弓矢に変えていくのを鍛えたいしな」
「う……うん! じゃあ僕も訓練所行こうかな、シンくんはもちろん来るんだよね?」
「俺はどうしようかな? 魔力をかなり使ったから鍛錬できなさそうだし……」
「……だが、素振りくらいはできるだろ?」
「まあそれくらいはできるかな。よし、やっぱり俺も訓練所に行くよ」
部屋で休むつもりだったが、俺もハクとアオと一緒に訓練所に行くことに決めた。
「3人とも訓練所に行くんですわね、じゃあ私も行きますわ」
「全員行くってことだね。じゃあ部屋で冒険者の装備に着替えてから、訓練所に向かうよ」
ユカリも参加するようで、俺たちは自分の部屋から装備を取りに行き、訓練所に集まるのだった。
■
訓練所に他の冒険者はいないようで、俺たち4人だけで使えるようだ。
「……これは都合が良いな、俺たちだけなら派手な鍛錬ができるぞ」
「それで、ハクは何の鍛錬をするの?」
「……魔力の矢を使う鍛錬をする予定だ、その前に魔力を纏わせた矢の威力がどのくらい上がるのかを調べる」
ハクは弓を引き、的に向かって矢を放った。矢は的の中心から少しズレた位置に命中する。
「ハクなら真ん中に当てられそうなのにな」
「……ああ、真ん中に当てられるさ、だが今のはわざと位置を変えた」
ハクは、もう一度弓矢を構えると、今度は魔力を矢に纏わせるために集中する。ゆっくりと矢に魔力が纏わり始めると、的に向かって矢を放った。
今度は真ん中に当てると、ハクは的に刺さった2本の矢を取りに的に近付き、矢に何かを書いてから引き抜いて戻ってきた。
そして、使かった矢の棒の部分を俺たちに見せてきた。そこには線が書かれているみたいだったが、書かれた線の位置が微妙に違っていた。
「……この矢尻から近い方に線があるのが普通に撃った方の矢で、こっちの矢尻から遠い方に線があるのが魔力を矢に纏わせて撃った方の矢だ」
「魔力を纏わせた矢は奥まで刺さったってことだよね?」
「……ああ、威力が上がればその分体の奥に矢が刺さって、状態異常にかかりやすくすることができる」
「じゃあ今度からは魔力を纏わせて矢を使えるんだね!」
俺がそう言うと、ハクは口角を少しだけ上げて笑う。
「……いや、まだまだこんなもんじゃ弱い。ここで鍛錬をして、もっと早く、もっと威力の出せる矢を使えるようにするさ」
「ハクくんは凄いな。僕も何か攻撃できる魔法を覚えた方が良いかな?」
「アオは回復系や補助系の魔法を覚えれば良いんじゃないかな?」
「……そうだな、攻撃系の魔法は他の冒険者も使えるし、アオよりも高い威力を出せるだろう。だったらそいつらが使わない回復系や補助系魔法を使った方が、パーティーとして強くなるだろう」
「でもアオくんが回復系や補助系を覚えても、どのくらい上達しているかは分かりにくいですわ」
ユカリの言っていることは確かにそうだ。俺の使う『パンプア』は力が上がるから、1人で鍛錬しても魔法の効果がどのくらい出ているか分かるけれど、アオの『ヒール』や『アームド』はどれくらい効果があるのかは分かりにくい。
「……それについては俺に考えがあるが、ここには魔法書が無いから上手くいかない可能性が高い」
「魔法書が必要なの?」
「……ああ、魔法書が無いと、完全詠唱ができないだろ? それだと省略詠唱で魔法が発動しなかったときに大変だからな。アオ、毒を回復する魔法の完全詠唱を覚えているか?」
「え? 完全詠唱までは覚えてないけど、魔法名なら言えるよ」
アオは、少々不安になりながらも答えた。
「ハク、これから何やろうとしているか大体予想が付くけど、何をやろうとしているか聞いてもいいよね?」
ハクがやろうとしていることを予想すると、俺たちを使って試す方法が思い浮かぶ。そうじゃなければ良いと思っていたが、ハクの答えは俺の予想通りだった。
「……俺が自分に『ボイズ』を使って毒状態にする、アオは毒を回復する魔法を俺たちに使って回復させるんだ」
「急いでないんだから、そんなやり方をしなくてもいいのに」
「そうですわ! そんな危ないことをする必要はありませんわ」
「……大丈夫だ、解毒薬はある。アオの魔法が上手く発動しなくても、解毒薬を飲めば治る」
「ハクくん、僕はそんな誰かを犠牲にするやり方の鍛錬ならやりたくないよ。何か別の鍛錬をしようよ!」
アオはハクに対してハッキリとやりたくないと伝えた。ハクはそれに全く動揺した素振りを見せることなく、まるでアオならそう言うと分かっていたかのように笑った。
「……じゃあもう1つの鍛錬をやろう、俺たちで模擬戦をやるんだ。ダメージを受けることもあるし、俺がシンやユカリを毒状態にすることもできる。模擬戦ならアオも納得してくれるか?」
「うーん、まあ模擬戦なら良いかな」
「……シンとユカリはどうする?」
「素振りをするよりは鍛錬になるだろうし、良いよ」
「私も良いですわよ」
「……決まりだな、みんな四隅にそれぞれ移動してくれ」
ハクの指示で、俺たちは四隅に移動する。俺と対面にいるのはハクで、右の隅にいるのがユカリ、左の隅にはアオがいる。
「……この模擬戦はバトルロイヤルで自分以外は敵、降参するか地面に倒されたら負けしよう、それじゃあ始めるぞ」
誰が先に戦うのかと思っていたら、ハクがこんなことを言い始めて、訓練所の真ん中にたくさんの『スモーク』を放って、周りは白い煙で覆われるのだった。
新しい旅館の布の服に着替えた。
4人で訓練所に行き、ハクが魔力で覆った矢を放って威力の違いを確認した。
アオが毒を回復させる魔法を覚えられるように、ハクは自分に『ボイズ』をかけて毒状態になろうとしたが、そのやり方はアオに断られる。
そして、訓練所の四隅にいる4人は、降参するか地面に倒されたら負けのバトルロイヤルの模擬戦が、ハクのたくさんの『スモーク』を訓練所の真ん中に放って始まるのだった。




