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216話 ユカリたちと温泉の旅!⑩(魔矢)

 山へ逃げて行く山賊を追いかけていると、道中にある木の数が多くなってきた。


 山賊たちは木に手で触れると、その手で自分の体を前に押し出して加速して、少しずつ俺とハクから離れていく。



「村では追いつけそうだったのに、ここじゃ全然追いつけない」


「……追いつけない理由に木を使った加速があるだろうが、一番の理由はこの斜面だろうな」



 自分の位置と山賊の位置を比べると、俺たちよりも山賊の方が高い位置にいた。山に近づくほど坂道に角度が付いて、走る速度が遅くなっていた。






 山賊をいくら追いかけても追いつけず、周りが木だらけになり、後ろを向いても木に隠れて村が見えなくなってきた。もうここは山の中だろう。


 山賊たちは軽快な足取りで奥に進んで、このままでは見失って逃げられてしまう。そう思っていると、魔物の咆哮が響き渡った。



「グルァァァ!」



 青い毛をした強個体のベアードが、山賊たちの逃げる先に現れ、山賊たちの足が止まった。


 山賊たちは後ろにいる俺たちの姿を確認すると、さっきまで俺たちから逃げていたのに、逆走して俺たちの方に向かって走ってくる。



「っ! 山賊は俺らにベアードを押し付ける気だ!」


「……シン、元来た道に逃げるぞ!」



 俺とハクは足に力を入れて、体の向きを変えて山を下り始めた。


 だが、坂道を下るのも山賊たちが早いのか、俺たちを追い抜いて、ベアードは山賊から俺たちに標的を変更するのだった。


 それを見た山賊は横の道に逸れて木の陰に隠れ、ベアードの視界から完全に外れる。


 ベアードから逃げる俺たちは、隠れる山賊を通りすぎるが、やはりベアードには俺たちしか見えていないのか、すぐ横にいた山賊を襲わずに通りすぎ、俺たちを追いかけ続ける。


 山賊たちはしばらく様子を見た後に、山の奥に消えていくのだった。



「グルァァァ!」


「……シン、俺たちも木の陰に隠れるぞ」


「えっ!? でも隠れている余裕はないよ」


「……余裕がないなら作るだけだ。俺の手に掴まれ」



 ハクが手を差し出したので、俺はその手を掴んだ。そして、ハクは魔法を唱える。



「……『スモーク』」



 空いている手に白色の球ができると、それを地面に叩きつけて、辺りを煙だらけにした。


 視界が煙に覆われて何も見えなかったが、ハクが手を引っ張ってくれたため、煙から脱出することができ、木の陰に隠れてベアードからやり過ごそうとする。


 ベアードは煙の中に入り暴れているようで、辺りを攻撃している。煙の外にいる俺たちには攻撃は当たらないが、前足を振るときの風切り音が聞こえてくる。


 そんな暴れるベアードの行動で、ハクの『スモーク』が散っていき、中にいるベアードの青い毛が見えるようになってきた。



「このままここに隠れて大丈夫かな?」


「……さあな、こっち側を探しに来たら困るってことは確かだ」


「そっか、だったら!」


「……おい、なにをする気だ」



 俺は木の陰から出て、手を頭より高い位置に構えて突き出す。そして手の平に魔力を込めて無言魔法で『ウォーター』をたくさん放つ。


 俺の手の平からは水の球が何個放たれ、ベアードの頭上を通り過ぎた。


 外したわけではなく、この『ウォーター』はベアードの奥に飛ばすことが目的だった。


 飛ばした『ウォーター』が地面に落ちると、ガサッと音がする。ベアードは音の聞こえる方に体を向けると、そちらに向かって攻撃をし始め、煙が晴れた後は、俺たちが隠れている所とは逆の方向にベアードは走るのだった。






「……まったく、無茶をする」


「前にも似た状況があったからね、今回はできると思ったんだよ。ほら、アオの『ウォーター』を囮に使っているうちにみんなで逃げたこと。ハクも覚えているでしょ?」


「…………ああ、思い出したぞ。俺とシンとアオとユカリの4人で箱に入った時のことか」


「そうそう、あそこでは逃げる隙を作ることが目的だったけど、今回のベアードは煙で視界が悪くなって俺たちを発見できていなかったから、見つからないでやり過ごせると思ったんだ」


「……ふっ、こうして振り返ると、あの時よりも俺たちは成長しているって実感する」



 だが、俺たちはこの危機を乗り越えることができたが、山賊には逃げきられてしまい、もう追うことができない。武器も防具も装備していないこの状況では、早々に村に帰るべきだろう。


 しかし、ここは魔物の住む山の中、俺たちを簡単には村に返してくれない。俺たちの後ろから、ガサッと草の揺れる音が聞こえた。



「スラ」


「ふぅ……なんだスライムか」



 出てきたのはスライムだった、スライムはこちらが敵意を見せないと襲ってこない魔物なので、戦いたくない今は戦闘を避けることができる。


 そう思って油断していると、俺たちの周りを囲うように、一斉に剣を装備したゴブリンが4体襲ってきた。



「「「「ゴブッ!」」」」


「っ! 『スマッシュ』!」



 ゴブリンの1体に『スマッシュ』が当たり吹き飛ばす。だがまだ3体のゴブリンが俺たちに迫ってきていた。


 ハクはゴブリンの振るう剣を避けて、ゴブリンの鼻を殴り、お腹に蹴りを入れる。そんなハクの背後から攻撃を仕掛けようとする別のゴブリンがいて、俺はそのゴブリンに体ごと突っ込み、攻撃を防いだ。



「うわっ!」



 ゴブリンに体ごと突っ込んだことで、体勢が崩れている間に、誰の邪魔もされていないゴブリンが、俺の背中に剣を振り、旅館の布の服は一部切れた。



「……シン!」


「ゴブッ!」



 俺に追撃しようとしていたゴブリンを、ハクが蹴とばして俺から離れさせる。だが、俺が体ごと突っ込んだゴブリンは起き上っていて、逆手で剣を握り、俺の顔に向かって振り下ろそうとする。


 しかし、その剣は振り下ろされる前に、ゴブリンの額に魔力で出来た矢が刺さっていた。ゴブリンは額を押さえて痛そうに悶えている。


 俺は後ろを振り向くと、ハクの左手には魔力で出来た弓があった。


 ハクは空いている右手に魔力を集めて魔力の矢を作ると、ゴブリンの膝を狙って矢を放った。



「「ゴッ……ゴブッ!」」



 2体のゴブリンは両膝に何本も矢を当てられて地面に倒れる。すぐに起き上ってくるが、矢が刺さっていて走れないようで。足を引きずりながら歩く。



「……まだ倒せるほどの威力じゃないな」



 ハクは自分の魔力の矢の威力に不満があるようだった。だが、2体もゴブリンが実質戦闘不能に近い状態になったため、残りのゴブリンとの戦いが楽になった。


 魔力の矢が額に刺さったゴブリンは、頭を振っているうちに魔力の矢が消滅して痛みが消えたようで、再び襲い掛かってくる。


 しかし、ゴブリンが俺たちに襲い掛かるまでに時間があったので、俺は体勢を立て直して魔法を溜めている余裕が生まれた。


 ゴブリンのお腹に向かって、圧縮された魔法を放つ。



「『スマッシュ』!」


「ゴブッッッ!」



 ゴブリンは剣を手放し、お腹を押さえてうずくまる。


 残った1体は、ハクが魔力の矢で足止めをしているうちに、俺の魔法でダメージを与えて膝を付かせた。


 これでゴブリンたちは俺たちとしばらく戦えない。



「スラー!」



 この戦闘を見ていたスライムは、体を震わせると、どこかへ逃げてしまった。だが、入れ替わるように新たなゴブリンが現れる。



「……シン、ここから離れるぞ」


「そうだね。でもその前に……」



 俺はお腹を押さえてうずくまるゴブリンの近くに落ちている剣を拾って、俺とハクは逃げるのだった。

山に近づくと坂道に角度が付いてきて、山賊との距離がどんどん離れて行った。


山賊の逃げた先に強個体のベアードが現れた、山賊たちはそのベアードを俺たちに押し付けて、自分たちは山の奥に逃げて行った。


ハクの『スモーク』と、俺の『ウォーター』でベアードをこの場から離れさせることができたが、隠れていた場所で剣を装備したゴブリンに襲われる。


武器と防具を装備していない俺たちは、殴る蹴るをしたり、魔法を使って戦う。そして、俺の顔に剣が刺さろうとしたところで、ハクが魔力で弓と矢を作り、ゴブリンたちを押さえていた。


ゴブリンたちを押さえてもらっているうちに、俺は魔法でゴブリンに攻撃してダメージを与えて、何とかゴブリンたちを戦えない状態にすることができた。


しかし、新たにゴブリンが来たため、ゴブリンの持っていた剣を拾ってから逃げるのだった。



魔法の紹介


・『スモーク』


ハクが使っていた『ボイズスモーク』の毒がない魔法。

白色の球で、辺りを煙で見えなくする。

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