213話 ユカリたちと温泉の旅!⑦(強盗)
汗を流し終えて、脱衣所に置かれている布を使って体を拭いて、服を着る。
使い終わった布をどこに置こうかと周りを見ると、布が置かれていた場所の下に蓋がない木箱があった。
その木箱の中には俺の前にシャワー室を使っていた冒険者たちが使って濡れた布が、無造作に入れられている。
「ここに入れていいんだよね?」
俺が濡れた布を木箱に入れるか迷っていると、脱衣所の出入り口の扉がノックされて誰かが入ってくる。
「失礼します!」
脱衣所全体に響き渡るように男性の声が聞こえる、入ってきたのは旅館の店員だった。
俺を見るなり頭を下げる。顔を上げた時に俺が濡れた布を持ったままなのを知ると「ご使用された布はそちらの木箱へお入れください」と木箱に手を向けて教えてくれた。
俺は教えてくれた店員にお礼を伝えて、布を木箱の中に入れて脱衣所を出る。そして訓練所から旅館の2階に移動するのであった。
集合時間よりも早く来たからか、まだ誰も集まっていない。俺はこの間に自分の部屋に戻って、薄い青色の布の服に着替えて、武器などを部屋に置き、Gの入った袋やギルドカードを持っていく。
集合場所に戻ったころにはハクがソファに座って待っていた。
「ハクは早いね。まだ集合時間前だよ?」
「……シンよりは遅いさ。訓練所から出ていくシンを上から見ていたから俺もここに来たんだ。おっと、こうして話している間に来たようだな」
楽しそうに話すアオとユカリが1階から上ってくる。アオは両手で抱きかかえるように袋を持っていた。
「じゃあ僕はこれを部屋に置いてくるから、ユカリちゃんは先に行ってて」
「分かりましたわ」
アオは、笑顔で鼻歌を歌いながら3階の自分の部屋に向かうのだった。ユカリは俺たちと合流してアオが来るのを待つ。
そして、アオが階段を走って降りて、2階に全員集まるのだった。
「……集合時間前だが全員集まっているし、出かけるか」
「そうですわね、行きますわ!」
こうして俺たちは旅館で借りている布の服を着たまま旅館から出て村を散策することとなる。
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「それで、村を歩くってどんな感じで歩くの?」
「……そうだな、ここは『歩こう』と言い出したアオに任せるとしようか」
「僕が決めちゃっていいの? じゃあ村にあるお店を全部回ってみようよ! オンセーン村の入り口近くにあったお店以外行かずに、旅館に行っちゃったでしょ? だから、ぐるっと一周しようよ」
「それ良いですわね!」
「……決まりだな」
「やった、じゃあまずあそこから見に行くよ!」
アオは旅館から一番近い店に向かって歩き出し、俺たちも付いて行った。
店に近づくにつれて、香ばしい匂いが鼻を刺激してくる。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今なら焼きたてのスクイーカ焼きが1本50Gだよ!」
すでに数十本以上の作り置きがあるのに、店員は長方形に切ったスクイーカを串に刺してスクイーカ焼きとなる仕込みをやり、下で火が焚かれている網に乗せて、うちわを使って扇いでいた。
スクイーカ焼きにタレを付けて、タレに火が通ることで香ばしい匂いを出しているようだった。
匂いは風に乗ったのか、村の人たちは吸い寄せられるように店に列を作り、スクイーカ焼きを買っていく。
俺たちの口の中も唾液が溜まり始めて、ゴクリと飲み込んだ。そして、食べたいという気持ちが強くなったので、商品が無くならないうちに並んで買うことにした。
だが、並ぶのが遅かったのか、変えたのは俺たちより前に出ていたアオだけで、スクイーカ焼きはアオが握っている1本だけ俺たちの前にあるのだった。
串に刺さったスクイーカは湯気が立ち、こちらの食欲を刺激してくる。だが、買えたのはアオだけ。食べる権利があるのは、俺たち4人の中でアオ1人だけである。
「いただきまー……そんなに見つめられると食べにくいよ」
俺とハクとユカリは、アオの持つスクイーカ焼きをじっと見つめている。
「良かったら一口食べる?」
俺たちは無言で何度も首を縦に振り、アオからスクイーカ焼きを分けてもらうことに合った
まずはユカリから、角を一口齧る。俺とハクもお互いの齧る位置が被らないようにして一口齧るのだった。
「くっ……美味しいですわ!」
「うおぉ! これは美味い!」
「……しょっぱくて良いな」
「そんなに美味しいの? じゃあ僕も……美味しい!」
俺たちの反応を見てアオも期待したのか、アオも食べると、そのまま一気に食べつくしてしまった。
「ああ……なくなっちゃった……次いこう!」
「「「おー!」」」
俺たちは次々に店を回り食べ歩きをしながら、オンセーン村の入り口と旅館の間くらいの位置まで来ていた。
だがここで事件が起こった。
「強盗よぉぉ!」
女性の村人が叫んだ。そして荒々しい男性の声も聞こえてくる。
「「「おら寄越せ!」」」
「「「うわぁぁぁ!」」」
目の部分に穴をあけた袋を被り、顔を隠している複数人の何者かが、旅館の布の服を着ている人を襲っていた。
布の服を着ている人は尻もちを付いていた。
「山賊だぁ!」
村人の1人がそう叫んだ、どうやら奴らは山賊のようだ。このまま遠くで様子見をしようとすると俺たちと目が合って襲い掛かってくる。
「た、戦うつもりか! あれ?」
剣を抜こうと腰に手を持ってくるが、剣がどこにもなかった
「しまった! 今武器持ってきてないんだった! うわぁぁぁ」
俺は山賊に突き飛ばされて倒れてしまう。それはアオもハクもユカリも同じことのようだ。みんな武器がないからか、まともに反撃もできない。
だからと言って諦める気にはならない。俺は山賊の1人に向かって『ファイア』を放った。
「くっ、逃げるぞ野郎ども」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
足止めになるかと思ったが、足止めすらできずに全員に逃げられてしまったのである。
「なんだったんだ? アレ、無いぞ」
俺は自分のGの入った袋を手に取ろうとすると、それが何処にもなかった。どうやら、突き飛ばされた時に盗まれたようだ。
「僕もなくなってる!」
「私もですわ!」
「……どうやら俺も取られたらしい」
みんなも山賊に取られたようで、俺は怒りがこみ上げてくる。アオはGが取られたことに相当ショックを受けているようで、魂が抜けたように動かなくなっていた。
だが、こんな中でも動けるものがいた、それはハクだ。
「……今ならまだ取り返せるかも! 急ぐぞ」
そうだ、まだ使われていない。ということで、俺たちはGを盗んでいった山賊たちを追いかけるのだった。
シャワー室から出て、自分の部屋で布の服に着替えて武器を置き、Gの入った袋やギルドカードを持って集合場所に行く。
アオとハクとユカリが来たのでみんなで旅館の外へ出る。
村を歩いていると旅館から借りている布の服を着ている人が山賊に襲われ、
俺たちも付き飛ばされた。
その時にGの入った袋を盗まれてしまった。
俺は山賊の1人に『ファイア』を当てたが逃げられてしまう。
俺たちは山賊を追いかけるのだった。




