209話 ユカリたちと温泉の旅!③(男女)
俺が扉を開けたまま景色を見ていると、店員が薄い青色の布の服を俺に渡してきた。
「こちら、宿泊してくれたお客様限定でお貸ししている衣服になります」
「ありがとうございます!」
「それとお食事の時間ですが、夕食は18時、朝食は8時からお部屋にご用意致しますので、お時間になりましたらお部屋でお待ちください」
「分かりました」
「では、失礼致します」
店員はゆっくりと扉を閉めた。
俺はまだ確認していない部屋の中を見渡した。部屋には魔法石で動く小さな冷蔵庫や、お湯を沸かせられるポットなどが置かれていた。
部屋の中央に置かれたテーブルの上には木製の皿が置かれていて、その中には、紙に包まれた一口サイズのオンセーン饅頭が数個と『ご自由にお食べください』と書かれたが紙が入って置かれていた。
次に目をやったのは寝る場所で、窓の近くに、ふかふかの大きいベッドがあった。そのベッドに腰掛けて、倒れるように寝転ぶと、ベッドは俺の体を優しく支えてくれた。
「柔らかーい。俺の部屋のベッドよりも柔らかいかな? まあ最近はテントだったり地面に寝ていて、固い所で寝ていたしなぁ。それに昨日は部屋に帰ったのにわざわざベッドじゃなくて布団を出して寝ていたし、余計にここのベッドが柔らかく感じるのかも」
俺は手でベッドの感触を楽しみながら仰向けになって天井を見つめる。
「本当にサービスが良いな。俺でもこんな待遇なんだから、アオたちはもっと快適な部屋なんだろうなぁ」
俺は体勢を変えてうつ伏せになり、外の景色を見る。
「良い眺めだなぁ……」
もっと近くから見てみたいと思い立ち上がり、広縁に入りイスに座って、柵に体を預けるように手を置いて景色を眺める。
目の前に広がる山は緑がいっぱいで、村の外から見た山とは迫力が違っていた。
下を見ると訓練所があり、数人の冒険者が、素振りをしていたり、魔法を的に当てて鍛錬をしていた。
「ちゃんと訓練所もあるみたいだね。温泉に入った後に行ってみよう」
そう思ってから再び山に視線を戻して、山から流れる川に目を凝らして見ると、何かが川に近づいているのが見えた。
「あれは……強個体のベアードかな? あっ、水を飲んでる」
青い毛の強個体のベアードが辺りを警戒してから、川に口を付けて水を飲んでいた。そして、水を飲み終わると川の中央に移動して、前足を勢いよく川の中に入れると、魚が陸に打ち上げられていた。
ベアードは次々と魚を陸に打ち上げて、10匹くらいの魚が陸で跳ねていた。ベアードは満足したのか、川から出て、陸に打ち上げられていた魚を丸ごと食べる。
2匹目を食べようとしたところで、ベアードの周りには何人もの人間が武器を持って囲んでいた。
ベアードは人間と戦うが、あっという間に人間に倒されてしまったようだ。
「あんなにあっさり倒しちゃった……あっ! 荷物置いたら温泉に行くって言っていたのに、のんびりしていた! 急いで準備しないと」
俺は勢いよく立ち上がって、荷物の置く場所を決める。
部屋を見渡してどこに荷物を置こうか迷っていると、ベッドの足元の方に荷物置き場があり、そこに荷物を置いて、店員から渡された薄い青色の布の服に着替えると、部屋を出て鍵を閉めて温泉のある場所に向かうのだった。
■
階段を急いで降りて、温泉がある方へ移動する。
もうみんな待っているようで、俺がやっぱり最後に到着していた。
みんなも布の服に着替えているようで、ハクは俺と同じ薄い青色で、アオとユカリは薄いピンク色の布の服を着ていた。
「遅れてごめん。みんな布の服似合っているね!」
「……なかなか着心地の良い服だ」
「この服を着ると遊びに来たんだーって感じになるよね」
「そうですわね」
アオはくるりと一回転して笑顔で布の服を楽しんでいる。ユカリはお嬢様のように両手の指で服を摘まんでお辞儀をして可愛かった。
「シンくんも来たので、温泉に入りますわ」
「「「おー!」」」
俺たちは温泉に入るための入り口まで歩き出す。そこには薄い青色の暖簾と薄いピンク色の暖簾があり、その間にある番台に店員が座っていた。
「ご入浴ですか?」
「「「「はい」」」」
「ではこちらをどうぞ」
白色のふわふわとした大きめの布と、肩幅くらいの長さの小さな白色の布を渡された。
「使い終わった白い布は、脱衣所の出入り口の近くに箱が置いてありますので、その中に入れてください。男湯はこちらの青色の暖簾の方で、女湯はこちらのピンク色の暖簾の方です。ごゆっくりどうぞ」
ユカリは女湯の方へ、俺とアオとハクは男湯の方へ入ろうとしたら、番台にいた店員が慌てたようにアオを止める。
「お客様お待ちください、そちらは男湯です! 女湯はこちらでございます!」
「あの、僕男なんですけど……」
「…………え? それは本当でございますか?」
店員はじっとアオの顔を見ているが、アオが男だと判断することができず、番台から降りて、近くを通りかかった男性店員に事情を話し、店員専用の部屋にアオを連れて行き確認することとなった。
部屋から出てきたころには、顔を赤くしたアオが薄い青色の布の服を着て部屋から出てきた。疑いが晴れたようで良かった。
店員からはそのあと謝罪され、俺たちはやっと温泉に入れるようになる。ユカリは女湯の方に入って、俺らは男湯の方に入るのであった。
脱衣所には数人いて、これから入るために服を脱ぐ人や、入り終わって服を着ようとしている人がいた。その人たちは鍵付きの棚から荷物を出し入れしているようだ。俺たちもその人たちを真似て、使われていない棚の前に移動した。
服を脱いで棚にしまい、小さい方の白い布だけを持って棚に鍵をかける。
鍵には紐が付いていて、アオは首にかける。俺とハクは手首に巻き付けて腕輪のようにした。
準備もできたので、温泉へ続く扉を開けて外に出ると、目の前にはたくさんの温泉があり、他の客は気持ちよさそうに浸かっていた。
「邪魔だ、どけ」
「うわぁ!」
俺たちの背後からドスの効いた声が聞こえたと思ったら、急に俺の体は男の体に弾かれてよろめく。たまたまハクがいたおかげで支えてもらったことで、倒れなくて済んだ。
「ちょっと、シンくんにわざとぶつかりましたよね!」
「あ?」
「あわわ……」
がっしりとした体形の大男がアオを睨み付けると、アオは驚いて言葉が詰まった。
大男は舌打ちをすると、奥の方に消えていくのであった。
「……なんだあいつは」
「ハク気にしないで、せっかく楽しく温泉に入りに来たんだし揉めたくない。アオは俺のために怒ってくれてありがとう」
「まあ、睨まれたら何も言えなくなっちゃったけどね」
「あはは、よし! 気を取り直して温泉を楽しむよ。まずは体を洗わないとね」
俺たちは体を洗いためにシャワーを探した。そしたら横に設置されていたので、シャワーの場所へ向かい、3人横並びに座る。
どうやってお湯を出すのか分からなくて、適当にぺたぺた触っていたら、何かが動いたようで水が出た。ハクの方に。
「……冷たくて気持ちいいな」
「ハクごめん!」
ハクの言葉使いは大人しいが、怒りの感情が籠っていることを察して俺は謝った。
「シンくん、ここの赤い所にある魔法石を押せばお湯が出るみたいだよ」
アオは魔法石に触れると、シャワーから暖かいお湯が出てきた。アオはそのお湯を自分の頭にかけて髪の毛を濡らしていく。
そして、置いてあったシャンプーを使って髪を洗い始めるのだった。
「あはは、凄いよシンくん! 僕の頭が泡でモコモコだぁ」
「本当だ!」
「……他にも人がいるから騒ぐのはほどほどにな。俺は先に温泉に浸かってくる」
ハクは髪も体も洗い終わったようで、温泉に向かってしまった。
俺たちも髪と体を洗ってハクを追いかけるのであった。
店員から薄い青色の布の服を渡される。
外の景色を見ていると、下には訓練所があり、山に流れる川には強個体ベアードを見つけて、ベアードの周りに人間が集まり倒された。
ハクは薄い青色の布の服、アオとユカリは薄いピンク色の布の服を着ていた。
温泉に入ろうとしたら、アオが男と思われていなくて確認が入った。
確認が終わって、アオは店員専用の部屋で薄い青色の布の服に着替えていた。
温泉で大男に体を弾かれる。アオはそれを注意するが、大男に睨みに怯んでしまった。
気を取り直して温泉を楽しむために、シャワーで頭と体を洗うのだった。




