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208話 ユカリたちと温泉の旅!②(旅館)

 馬車で数時間揺られていると、暗かった空も太陽が昇ることで、馬車の中に太陽の光が差し込んで明るくなっていた。



「そろそろ着きますよ」



 御者が俺たちに聞こえる声でそう言った。俺たちは御者の背後に集まり景色を見ると、湯気をもくもくと上げている村があることを見つける。その奥に山がたくさんあり、一部の山の山頂付近から川が流れていてキラキラと光って見えた。


 山に生える木の葉によって、視界に緑色が多く入ってきていた。



「おおお!」



 俺はこの大自然を体で感じていた。そして、俺たちに向かって夏の暖かな風が吹くと、村の方向から温泉の香りが伝わってくる。



「良い香りですわ」



 風で揺れる髪を片手で抑えながら、温泉の香りをユカリは楽しんでいた。


 馬車は村の入り口を邪魔しない位置に馬車を止める。



「到着しました、オンセーン村です」


「ありがとうございました」



 俺たちは馬車から降りて村に入ると、馬車も一緒に村に入ってすぐ横に進み、離れた位置にある馬車小屋に向かって行った。


 俺たちはそれを見届けると、やっと村の中に意識を向けた。そこには人がたくさんいて、いたるところに店があり、そこに並んで買い物をする人がいた。みんな笑顔で楽しそうにしている。この村は活気があるようだ。


 そして何より、村の奥には大きな建物が建っていて、あそこが温泉のある場所だろうと分かる。



「さあさあそこの皆様方、オンセーン村は初めてですか?」


「え? 俺たちのこと?」


「そうですよ、ささ、こっちへ」



 話しかけてきたのは、一番手前に店を構える店主だ。先ほど来ていた客を全て捌き、今は誰も客が来ていない状態で暇になり、俺たちに話しかけたようだ。店主に手招きされたたので、俺たちはその店主の近くに集まる。



「へへ、凄い数の観光客でしょう」


「確かに凄い人数ですわ」


「うん、僕びっくりしちゃったよ」


「そうでしょうそうでしょう」


「それに、着ている服も良いですわ」



 村で買い物を楽しんでいる人の中には、布でできた薄い青色の服を男性が、薄いピンク色の服を女性が着ていた。そして、同じような格好をしている人が、村の奥に行くほど増えているようだ。



「へへ、あれはオンセーン旅館の見所でして、宿泊した方しか着られない良質な布を使った服ですよ」


「まあ! かわいいわ!」



 ユカリは目を輝かせて布の服を見ていた。



「あれを着て、食べ歩きをすればもう気分は最高ですよ。どうです? うちのオンセーン饅頭を皆様方のお供に。今なら1つ50(ゴールド)のところを、皆様方に会えた御縁ということで半額の25(ゴールド)。4つで合計100(ゴールド)でどうでしょう」


「買いますわ!」



 ユカリはすぐに饅頭を買っていた。店主は白色の饅頭を紙で包むと、ユカリに笑顔で渡すのだった。饅頭は手の平サイズで、食べ歩きするには丁度いい大きさだった。俺たちもユカリに続いて、オンセーン饅頭を買った。



「ありがとうございました。この村を楽しんでください」



 店主は笑顔で俺たちを見送ると、他の客が来たので、そちらの相手をするようになるのだった。






「……買う予定はなかったが、買ってしまった」


「俺もだよハク、その場の勢いで買っちゃった」


「ユカリちゃんはお饅頭買ったのに食べないの?」



 ユカリは紙に包まれた饅頭を頬に当て、紙越しに饅頭の柔らかさと甘い香りを楽しんでいた。



「今食べてはもったいないですわ。これは旅館で布の服に着替えてから食べることにしますわ」



 ユカリはむにむにと自分の頬と饅頭を押し当てて幸せそうにしていた。



「……俺は今食べる」



 ハクは包みを外して、饅頭を一口食べる。



「……んっ、甘くて美味い」



 ハクは歩きながら饅頭を食べ続ける。アオはハクの食べる姿を見て、自分の饅頭を凝視して、今食べるか後で食べるか悩んでいた。


 俺はそんなみんなの様子を楽しそうに眺めるのだった。



「……旅館に着いたぞ」



 ハクは饅頭を食べ終わると、旅館を見上げながらそう言った。


 旅館はアルンのギルドや食堂に負けないくらいの大きい建物だった。


 俺たちが立ち止まっている間にも、旅館には人が出入りをしていた。俺たちはお互いの目を見て頷くと、旅館に向き直って入っていくのだった。






 ■






 旅館に入ると、すかさず店員たちが「「「いらっしゃいませ」」」と頭を下げて俺たちに言った。


 内装は木造で心地良い木の香りと温泉の香りが混ざり、まるで別世界に来たような感覚になった。そう感じている間に店員の1人がやってきて、俺たちに料金の説明をする。



「入館は300(ゴールド)です。宿泊でしたら1日1000(ゴールド)でございます」


「どっちにする?」


「私は泊まりたいですわ!」


「……(ゴールド)もあるし、俺も泊まろう」


「僕もみんなと一緒に泊まることにするよ」


「決まりだね。俺たち4人とも宿泊でお願いします」


「かしこまりました。何日の宿泊に致しましょうか?」


「1日でいいよね?」



 俺がそう聞くと3人とも頷いた。店員には1日だけ泊まることを伝えた。



「ありがとうございます。あれ、その紙は?」



 店員がユカリの持っていた饅頭を包む紙を見る。



「これはお饅頭ですわ。村の入り口で店を出している店主さんから方のですわ」


「やっぱりそうでしたか。その店主はこの旅館の館主でございまして。オンセーン饅頭を購入された方が来店された際はサービスするように伝えられています」


「えええ! あの人館主だったんだ!」



 俺たちは驚いていた。



「サービスにより宿泊を1日950(ゴールド)にさせていただきます」


「……饅頭の値段分安くなったな」


「そうだね、しかも俺たちは饅頭を半額にしてもらったから、25(ゴールド)得したね」


「冒険者様でしたら、ギルドカードの提示をお願い致します」


「はい」



 俺たちはギルドカードを店員に見せた。



(ほし)3冒険者様が3名、(ほし)2冒険者様が1名ですね。ではお三方は3階のお部屋へ、お一方は2階のお部屋へご案内致します」


「あれ? なんで俺は2階なんだ?」


「それは冒険者様の(ほし)の数でサービスが変わるからです。(ほし)が高いということは、それだけギルドに貢献しているということ。この旅館は貢献度の高い冒険者様にはそれなりのサービスを提供しているのです」


「なるほど、とにかくここの館主はサービスが好きなんだな」



 俺は仕組みを理解して納得した。


 俺たちは、店員たちについて行き階段を上っていく。2階に着くと、俺は3人に別れを告げる。



「じゃあ俺はこっちだから。荷物置いたら温泉に行くね」


「……分かった、俺も荷物を置いたらすぐに行く」


「僕も!」


「温泉が楽しみですわ!」



 アオたちは俺と温泉で合流すること伝えると、3階に上っていった。俺は店員について行き、自分の部屋の前まで案内された。



「こちらがお客様のお部屋でこちらがその鍵でございます」



 俺は鍵を受け取り部屋に入ると、そこには大きな窓から見える山の景色が視界に広がるのだった。

目的地の村の奥には山がたくさんあり、山頂付近から川が流れてキラキラ光っていた。


オンセーン村に着いて入り口付近で立ち止まっていると、近くで店を出している店主に呼ばれて、少し会話した後、俺たちはオンセーン饅頭を上手いこと買わされてしまう。


旅館に着いて入館か宿泊かを選ぶ際に、俺たちは宿泊を選ぶ。オンセーン饅頭を買った店の店主が、実はこの旅館の館主であり、オンセーン饅頭を買ったことで宿泊代を少しサービスしてもらった。


そして、冒険者の(ほし)の数でもサービスが変わるようで、(ほし)2の俺は2階の部屋へ、(ほし)3のアオたちは3階の部屋へ案内されるのだった。


部屋に入ると、大きな窓から見える山の景色が視界に広がるのだった。



・オンセーン村


アルン国領土の南の位置にあり。温泉の観光地として有名な村である。オンセーン村から見える山は更に南側にあり、太陽が昇ると山頂付近から流れる川が太陽光でキラキラと輝き、夜になると魔素が強くなるので、川の中にある魔石がキラキラと光り出す。


船着き場とアルンの街の中継地点としてよく使われている。

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