20話 魔法鍛錬!⑥(意識)
窓から入る光に起こされる、どうやら今日の天気は晴れのようだ。さっさと朝の鍛錬とお昼の授業を終わらせ魔法鍛錬に入る。昨日で俺が完全詠唱を覚えたので、外で鍛錬をしている。
今までに使ったことのない場所を使っていた。周りは壁で囲われているが天井は開いている。壁ギリギリのところには的が設置してあった。
「ここは遠距離攻撃の鍛錬をする場所です、遠くに見える的に向かって攻撃を当てます。シンくんはまだ魔法を発動させることができていないので、的は気にせずイスに座りながらやってみてください」
ランド先生は、ここの出入り近くにある背もたれの無いイスを持ってきて俺の前に置いた。俺はイスに座り詠唱を始める。
「我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる。サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ」
「発動せよ、スマッシュ」
完全詠唱を間違えることなく唱えたが、魔力をちゃんと練れていないのか、魔法は発動しなかった。
「魔力を意識しながら完全詠唱したのに発動しない……」
「シンくんは詠唱をしているとき、魔力をどう使うか意識してますか?」
「ただ込めるだけじゃダメなんですか?」
「ただ込めるだけでは魔法の発動は難しいです、魔力の流れを意識して操るのです。詠唱は魔法を発動させるための補助、詠唱をすることで魔力の流れを操ることがしやすくなります」
ランド先生は魔法書を開く。
「『我が魔力を一つに』のときに魔力を集めます、『球へと型作り』のときにその魔力を固めます、『大いなる魔素を集い』のときに自然にある魔素を集めます、『不純なる魔を我に』のときに集めた魔素を自分に取り込みます、『我に適応し糧となる』のときに取り込んだ魔素を自分の魔力に変えます」
ランド先生は詠唱中の魔力の使い方を教えてくれた。ただ魔力を練って詠唱すれば魔法が使えるというわけではないみたいだ。
「1つずつ覚えていきましょう。詠唱しながら魔力を集めてください」
「我が魔力を一つに」
俺は詠唱しながら魔力を手に集める、手の平に形の無い魔力が集まってくる。手の平に収まらない量の魔力は、指と指の隙間から溢れて俺から離れていく。
「よろしい、次は『球へと型作り』と詠唱しながら集めた魔力を固めてください」
「球へと型作り」
俺の元から離れそうになっていた形の無い魔力は、見えない壁に当たったかのようにそれ以上離れなかった。そして俺が固めたいと意識した場所にゆっくりと魔力が集まって形を作る。
できあがったのは球体だが表面がゆらゆらとしている。固めることの意識が弱まると、形を維持できないようだ。
「……っ!?」
目眩がして、座っているのに体勢を崩した。その拍子に球体になっていた魔力は消える。ランド先生が魔法書を閉じて駆け寄り、俺の腕を掴んで倒れないようにしてくれた。
「魔力を1度に多く使いすぎましたね、少し魔力が落ち着いてから始めましょう。瞑想で魔力の乱れを正してください、私がシンくんの身体を支えているので瞑想だけに集中を」
「はい」
俺は目を閉じ乱れた魔力を元に戻す、深く息を吸い吐くことで落ち着かせる。徐々に魔力は落ち着きを取り戻していく。
「落ち着きましたか? まだ慣れていないこともあって魔力を無駄に使っています。詠唱の『我が魔力を一つに』から『球へと型作り』までをスムーズにできるようにすることが今後の課題になります。ただ、今ので魔力をかなり消費してしまったので、シンくんの魔力消費が少ない詠唱を鍛錬します」
「分かりました」
ランド先生は俺から手を離し魔法書を再びめくる。
「『大いなる魔素を集い』と詠唱すると魔素が集まりやすくなります、魔素の集まりを感じてみてください」
「大いなる魔素を集い」
意識をすると俺の周りになにかを感じる、おそらくこれが魔素なのだろう。
「魔素を感じましたか? 次は『不純なる魔を我に』と詠唱して魔素を自分に取り込むように意識してください」
「不純なる魔を我に」
魔素を自分に引き寄せようとすると、さっきまで周りにあった魔素は俺の魔力と混ざり、身体にまとわりついてきた。魔力と混ざったことで、俺の魔力なのに制御できなくなっていた。身体から魔素と一緒に魔力も外に流れていくが止められない。
「シンくん、次は『我に適応し糧となる』と詠唱して、魔素を自分の魔力に変えてください」
「我に適応し糧となる!」
魔素は徐々に俺の魔力に変わっていく、俺の魔力にならなかった魔素は俺から離れ、魔力に変わった魔素は離れないように留めることで止めることができた。
「もう少しその状態を維持してください…………はい、もう良いです、良くできました」
「ふぅ……」
気を緩めると俺の魔力になった魔素が一気に自然に帰っていった。どうやら、魔力にできるのは一時的みたいだ。
「これが『大いなる魔素を集い』と『不純なる魔を我に』と『我に適応し糧となる』の流れです。先に詠唱する『我が魔力を一つに』と『球へと型作り』で形を作りながら今のようなことをします。これをちゃんとすることで『スマッシュ』を発動させることができます」
「やっぱりすぐには習得できないですね、形を作ることも魔素を自分の魔力にすることも難しい」
難しいと言いながら、俺はニヤリと笑みを浮かべていた。やっと魔法という希望が見えてきたからだ。同時にやることが難しいだけで、一つ一つならできていた。あとは何度も繰り返し鍛錬をして使えるようにする。いずれ今までやってきた鍛錬と同じように成果は出る。そこであることを忘れていたことに気が付きランド先生に質問をする。
「気になったことがあるのですけど、『サンラ・ルンボ・アイド・ケブン・バイタ』の詠唱は必要あるのでしょうか? 詠唱は『我が魔力を一つに、球へと型作り、大いなる魔素を集い、不純なる魔を我に、我に適応し糧となる』で足りると感じました」
ランド先生の教え通りなら他の詠唱は必要ないのでは? と疑問をぶつける。
「もっともな疑問ですね、私も魔法を鍛錬する過程で疑問に思い調べたところ、呪文の別名ということが分かりました。つまり同じ意味の詠唱と言うことになります。ただ、同じ意味でも詠唱が違うので魔法の威力や範囲や制御を上げてくれるみたいです」
「そういうことでしたか……ん? 詠唱が違うから上がるということは、同じ詠唱だと変わらないということでしょうか?」
「その通りです」
威力や範囲や制御を上げるための追加の詠唱、もうこれ以上同じ意味で違う詠唱を見つけられないから完全詠唱と呼ぶのだろう。
「ではそろそろ魔法鍛錬を終わりにします、シンくんはあと1発魔力が使えそうですね、今日やったことをすべて見せてください」
「はい!」
俺は座り直して姿勢を正す、そして魔力を巡らせ集中する。
「我が魔力を一つに……球へと型作り…………大いなる魔素を集い…………っはぁ!」
1度やったことがあるので前よりは時間もかからずできるようになった。しかし、魔素に意識を取られ過ぎて球体が崩れ消えてしまった。球体を維持しながら魔素に意識を向けることは今の俺にはできなかった。
「シンくんならいずれ習得できるでしょう、今は鍛錬あるのみです。さあ帰りましょう」
今日の魔法鍛錬の成果は、魔法の発動まではできなかったけど、魔力で球形を作ることと魔素を魔力に変えることを、別けているとはいえできた。
魔法が使える日がぐっと近づく感じのする1日だった。




