186話 ☆?『拠点設営団』④(前衛後衛)
索敵をする前に、俺たち冒険者は何ができるのかを確認し合った。剣や斧や槍などを装備した物理攻撃がメインの冒険者たちに、短剣や鞭など軽めの装備をした魔法攻撃メインの冒険者などがいた。
男女の割合も、物理攻撃メインの方は男性が多く、魔法攻撃メインの方は女性が多かった。
男性冒険者たちはアオに話しかけていく。
「青髪のあんたも槍を装備しているが、そんな細い体で戦えるのか?」
「戦えそうには見えないよな」
「噂ではバフ系の魔法が得意と聞いたぞ」
アオは冒険者たちから一気に話しかけられて、慌てながらも答える。
「みんなの防御力を上げたり、回復することができます」
「回復ができるのか!」
「ヒーラーは珍しいから助かる」
冒険者たちはアオが支援に向いていると知って騒ぎ始める。
「移動する前にみんなにバフかけますね、僕の近くに集まってください!」
冒険者たちはアオの周りに集まり始める、ギルド職員はその様子を眺めていたが、アオはギルド職員にもバフをかけるようで、ギルド職員も近くに来るように言った。
全員が周りに集まったことを確認すると、アオは『アームクルド』と唱えて、みんなにバフをかけた。
「重さのない何かに包まれているような感覚だ」
「本当にこれで防御力が上がったのか?」
「効果がどれほどあるのか分らんが、気休めにはなるだろう」
「では、そろそろ出発しましょう。他のグループはもう行ったみたいですよ」
索敵に向かうグループは俺たち以外いなくなっていた。俺たちもそろそろ出発しなければならない。
索敵スキルを持つギルド職員を先頭にして、俺たちは北側の索敵をするのであった。
■
「あそこに魔物がいます」
ギルド職員が示した場所には何もいない、だがよく見ると木に擬態したウッドォのようだ。
「逃がさないように囲むぞ」
冒険者たちは、ウッドォが逃げられないように囲み、どの方向にも逃げられないようにした。
「3、2、1、今だ!」
「「「うぉぉぉぉ!」」」
剣や斧や槍を装備した冒険者たちが一斉にウッドォに攻撃を仕掛ける。
「ア……アァ……」
ウッドォは攻撃をすることもできないまま経験値を吐き出した。
「次はあそこです!」
ウッドォを倒したばかりだというのにもう他の魔物が近くにいるようだ。
今度は俺の近くにいるみたいで、そこに向かうと3体のゴブリンがいる。ゴブリンたちは俺たちを見つけたことで戦闘態勢に入った。
「今度は私たちの番ね」
「いくわよ」
短剣や鞭を装備した冒険者と一緒に俺も魔法を唱える。
「『ファイア』!」
「『ドン・サンダー』!」
「『ドン・ウォーター』!」
「ゴブッッッ!」
俺の『ファイア』でゴブリンは燃え、地面に転がりながら火を消している。
冒険者の唱えた『ドン・サンダー』と『ドン・ウォーター』を受けたゴブリンは、経験値を吐き出していた。
まだ生きているゴブリンは俺の戦っているゴブリンだけのようだ。俺は剣を抜いて、ゴブリンに駆け寄り、火を消して立ち上がってきたゴブリンを切る。
「ゴッ……ゴブッ……」
ゴブリンは膝を付き、そのまま倒れると経験値を吐き出した。
「次はあちらに魔物の気配がします!」
「あの色にあの大きさっ! ベアードだ!」
赤い体毛が見え隠れしながらこちらに近づいてくる。だが、動きを見るとこちらには気が付いていないようだ。冒険者たちはベアードと戦うかどうか迷っているようだが、一部の冒険者はギルド職員に周囲の状況を聞く。
「他に魔物の気配はあるか?」
「いえ、周辺にはあのベアード以外の気配を感じません」
「なら、この人数の冒険者がいれば倒せそうだな。みんな、あいつを倒すぞ! これだけ戦える冒険者が多いんだ、隙を見て攻撃できそうな時に攻撃をするんだ」
物理攻撃メインの冒険者は前衛を、魔法攻撃メインの冒険者は後衛と陣形を組んで戦いに挑む。ベアードもこちらに気が付いたようで、立ち上がり威嚇をしてきた。
「グルァァァ!」
ベアードが走って向かってくる、標的は俺のようだ。
俺は木などを盾にしながら逃げて、ベアードの攻撃に当たらないようにする。ベアードが俺にヘイトを向けている間に、後衛の冒険者たちがベアードに攻撃を始めた。
「シンくん今助けるね! 『ウォーター』!」
「『ドン・ウォーター』!」
「『ドン・サンダー』!」
「グッ、グルッ、グルァァァ!!!」
水属性魔法の攻撃でベアードは体勢を崩すが、前足でしっかり持ち直した。そこに雷属性の魔法が飛んでくることでベアードは叫び声を上げる。
水属性の『ウォーター』などのおかげで、雷属性の『ドン・サンダー』の威力が上がったようだ。だがベアードはまだまだ倒れない。
ベアードの背には3人の冒険者が迫る。
「いっけぇぇぇ!」
「はぁ!」
「おらぁ!」
剣で切り、斧を振り下ろし、槍で突く。だが、ベアードに与えられたダメージは少ない。
「グルァ!」
「「「うわぁぁぁ!」」」
ベアードは振り向きながら前足で3人の冒険者を薙ぎ払う。冒険者たちは後衛の所まで吹き飛ばされ、服にはベアードの爪により切り傷ができていた。
「うっ……思ったよりもダメージが少ないな」
「服の傷から見てももっと痛みが強いと思ったが」
「もしやこれが防御力を上げるバフ系魔法の効果か?」
吹き飛ばされた冒険者は思ったよりもダメージを受けていないことに困惑しつつも立ち上がり、ベアードの追撃に備える。アオはそんな冒険者たちに近づいて『ヒール』で加護を回復させていった。
ベアードは追撃をする前に雄叫びを上げて気合いを高めていく、この時ベアードは俺から目を離してしまった。今度は俺が攻撃する番だ。
「生半可な攻撃じゃさっきの冒険者みたいに反撃を受ける。でも時間はかけられない、短時間で出せる高威力を!」
俺は省略詠唱で『パンプア』を使い、自身の力を上げる。そして、ベアードの背中に剣を突き刺した。
「グルァ!?」
「くっ……うりゃ!」
「グルァァァ!」
刺した剣を横に滑らせ、剣を抜くと同時にベアードの背中にダメージを与える。ベアードは怯んでいるのかまだ俺に反撃をしてこない、俺は追撃を仕掛け、ベアードの背中を切りつける。
しかし、体毛が上手くベアードの体を守っているようで、先ほどよりもダメージは低かった。
「グルァ!」
「うわぁ! ぐぇ……」
ベアードがついに反撃をしてきて俺は叩き飛ばされた。その先には木があり、俺の背中はその木に直撃する。くの字に曲がっていた体が、木に直撃したことで逆くの字となり、大ダメージを受けた俺はすぐに立ち上がることができなかった。
「シンくん!」
「俺の回復はもういい、あいつを助ける! うぉぉぉぉ!」
アオに回復してもらっていた冒険者が回復を途中で止めさせてベアードに向かっていく。そのおかげで、ベアードはそっちにヘイトを向けてくれて、立ち上がるまでの時間を確保できた。
アオに回復してもらっていた残りの2人の冒険者も、回復を止めさせてベアードに向かって行き、ヘイトの分散をしてくれる。
ベアードは前足で攻撃をしているが、回避に専念している冒険者たちに攻撃が当たらなかった。
俺は背中を向けているベアードの所まで走り、ジャンプをしてベアードの首に足をかけて乗っかる。
「グルァァァ!」
「そんなに暴れるな!」
ベアードは頭を振って俺を落とそうとするが、ベアードの毛を掴み振り落とされないようにした。
そして俺は片手を開けて、ベアードの顔面に手の平を向ける。
「これでもくらえ! 『アース』!」
「グルァァァ!?」
俺の手の平から出された土がベアードの目に入り、異常な暴れ方をする。俺はこれで振り落とされてしまったが、ベアードは顔を抑えてのたうちまわる。
「今だ! ありったけの魔法を打ち込め!」
冒険者の掛け声で後衛と俺はベアードに魔法を当てていく。
「『スマッシュ』!」
「『ウォーター』!」
「『ドン・ウォーター』!」
「『ドン・サンダー』!」
「グルァァァ……」
さすがのベアードも消耗しているのか動きが鈍くなる。
「止めだ、行くぞ!」
前衛の冒険者は弱ったベアードに攻撃を仕掛ける。俺もそれに向かって走り出した。
「いっけぇ!」
「はぁ!」
「おらぁ!」
「えいっ!」
「グルァ…………」
ベアードが動かなくなると経験値を吐き出し、俺たちの体の中に入っていった。
「……倒せた……やったぁ!」
「うぉぉぉぉ! 俺たちで倒したんだ!」
「「「よっしゃー!」」」
みんながベアードを倒して喜んでいるのをよそに、アオが俺のそばに駆け寄り『ヒール』で回復をしてくれる。
「はい、これで加護は元通りのはずだよ。シンくんが無事でよかった」
「アオの魔法のおかげで助かったよ。アレがなかったら立ち上がるのにもっと時間がかかったかも」
「えへへ、そうかな」
アオは照れながらも答えた。
こうして俺たちは、誰も血を流さずにベアードを倒すことができた。
剣や斧や槍などを装備した物理攻撃がメインの冒険者と、短剣や鞭など軽めの装備をした魔法攻撃メインの冒険者などがいて、物理攻撃メインの方は男性が多く、魔法攻撃メインの方は女性が多かった。
アオは全員に『アームクルド』をかけて防御力を上げた。
ギルド職員が索敵スキルを持っているので、ギルド職員を先頭にして進んでいく。
ギルド職員が魔物を見つけて、それを俺らは倒していくとベアードを見つけた。
前衛と後衛で分かれてみんなでベアードと戦い、後衛の魔法で弱らせて、止めは前衛の冒険者で刺した。
誰も血を流さずにベアードを倒すことができた。




