18話 ずる休み?(光)
「この蜂蜜入りの解毒薬が魔力を上げるのに効果があるのですか?」
「言い方が悪かったですね、これを飲めば症状の緩和になるので、早く健康に戻して魔力を鍛えようという意味で言いました」
俺が解毒薬について聞くと、ランド先生から誤解があったと訂正された。
「シンくんの症状は毒で侵されているわけではないので、どこまで効くか分かりませんが回復はするはずです。さあ、全部飲んでください」
渡された解毒薬を一口飲む、蜂蜜を入れているからか苦い程度に味が抑えられている。俺は一気に飲み干すとすぐに効果が表れたのか、身体のだるさが和らいだ。
「おぉ凄い!さっきまでのだるさが嘘みたいに身体が軽い」
「早速効いたみたいですね、立ち上がれますか?」
俺はベッドから出て部屋を一周する、身体は問題なく動くようだ。
「それだけ動ければ食堂には行けそうですね。今日と明日は瞑想に専念してください。私はこの後授業があるので失礼しますね」
「分かりました、ありがとうございます」
ランド先生はお昼の授業があるので部屋から出ていった。俺はアオが朝に持ってきた食器とユカリが持ってきた食器を食堂に返しに行く。
「ごちそうさまでした、いつも美味しい食事ありがとうございます」
「ありがとな!俺が丹精込めて作った料理食べて元気になれよ!」
食堂に着き食器を返すと皿洗いをしている料理人のおじさんは、元気いっぱいの声で俺のことを気づかってくれた。
部屋に戻ってベッドに入り瞑想を始める。身体の痛みもだるさも少なくなっているので、より集中することができた。身体から離れないように全身に魔力を流すことに慣れてきた。眠らないように注意しながら始めると瞑想をしていても疲れが出でくる、疲れを取るために少し休みそして疲れが取れたら瞑想、これを続けていたらみんなが部屋に帰ってきた。
「アオもハクもおかえり」
「シンくんただいま、ユカリちゃんからは大丈夫って聞いたけど具合はどう?」
「ランド先生が解毒薬をくれて食堂に行けるくらい元気になったよ。明日も休むようには言われてるけどね」
「そうなんだね、良くなって良かったよ」
アオの心配そうな顔はたちまち笑顔に変わった。ハクも少し口角が上がっている気がした。
「ユカリちゃんも心配してたから夕食は顔出さないとね」
「そうだね、早く元気な姿を見せて安心させたいかな」
そんな話しをしていると夕食の時間になっていた。食堂に着くとユカリがイスに座って待っていた。
「あ……シンくん、具合は大丈夫なのかしら?」
「ユカリたちのおかげでかなり元気になったよ」
「良かったわ、明日からまた一緒に鍛錬できるってことね」
「いや、明日の鍛錬はランド先生から休むように言われているんだ、ごめんね」
「そうなのね……」
俺がそう言うとガクっと肩を落として落ち込むユカリ。暗い雰囲気になってきたので、それを吹き飛ばすために食事を持ってくる。食べて談笑でもすれば落ちた気分も回復するだろう。結果としてユカリの暗い雰囲気は無くなり明るくなった。「また明日の朝食でね」と言い部屋に帰っていった。
俺たちも部屋に戻り寝る準備をする、俺は寝る前に魔法石に魔力を流す。
(ごたごたしてて、魔法石なんて久々に感じるな……)
そんなことを考えていると魔法石は光始めた。まだランド先生が見せた魔法石の明るさに比べたら足りないけど、俺にとっては大きな進歩だった。
(まだ魔力は余ってる、もう少し……もう少し……)
俺の魔力が空になるほど魔力を流したが、光切ることはなかった。
(まだ駄目か……でも少しずつ進んでる、強くなってる!)
今日は確かな成長を実感した日であった。
――
「シンくんおはよう、そろそろ朝食の時間だよ」
「アオおはよう、すぐ準備して向かうよ。あれハクは?」
「ハクくんは先に食堂に向かったよ」
「分かった、1人で食堂に行けるからアオも先に食堂に向かってて良いよ」
「うん、そうするね」
アオは部屋から出ていった。俺は素早く着替えて準備をする。ふと俺のベッドに転がっている魔法石を見ると、昨日光らせた状態から変わりはなかった。
「もしかして流した魔力は溜めたままになるのか?」
魔法石を手に持ちそんなことをつぶやく、今はみんなを待たせているし、今日も休みだから食事をした後に考えることにした。食堂に着くとユカリとハクとアオはもう食べ始めていた。
「ハク、ユカリ、おはよう」
「……おはよう」
「シンくんおはよう、遅かったから先に食べてしまいましたわ」
「遅かった俺が悪いから全然先に食べてて良いよ」
ハクもユカリはもうほとんど食べ終えて俺が来るのを待っていたみたいだ。俺も急いで食事を取りに行く。
「来たな!これ食って前以上に元気になりな!」
「なっ……こんなに食べられないですよ!?」
「元気になるにはやっぱり食うのが一番!ランドさんから今日は休みと聞いてるぜ?食い終わるまで待っててやるよ。はっはっはっ!」
料理人からいつもの倍の食事を出された。圧に負けて出された食事を持ってみんなのところへ行く。テーブルに着くとアオとハクからは懐かしい光景を見るかのような視線、ユカリからはあまりの多さにギョッと持ってきた食事を見ていた。
(この量……リクしか食べられないよ……リク今頃どうしているんだろう……)
かつて一緒の部屋で寝泊まりして、先に冒険者となったリクのことを思い出していた。
「わ……私は食べ終わりましたのでここで失礼するわね」
「……俺も朝の鍛錬に向かう……アオ、頑張れよ」
「え?ハクくんどういうこと?」
ユカリとハクはそそくさとこの場を後にした。
「ねえアオ……」
シンからのこの言葉を聞いて、アオはハクの「頑張れよ」の意味を理解してしまった。
「待ってシンくん!僕そんなに入らないよ!」
アオのやさしい性格のおかげで、シンのお願いを断ることができず、朝の鍛錬のギリギリまで食べさせることに成功した。そして、何とかシンは出された食事を完食することができた。
「うぷ……ごちそうさまでした……」
「協力ありとはいえ、良い食べっぷりだったぞ!」
俺は泣きそうになりながら食器を片付けて部屋に戻った。
「うっ……苦しい……」
ベッドに横になりながら昨日とは別の意味で苦しんでいた。
「ダメだ、苦しくて瞑想もできない……」
横になって休んでいると、お腹の苦しさはかなり和らいだ。
「これでやっと落ち着いて瞑想ができる」
こうして時間が経ち、朝の鍛錬を終えて帰ってきたアオは「これからまた食事だ……」と青ざめた顔になっていた。さすがにお昼は量を少なくしてもらって機嫌が直ったようだ。夕食も量を少なくしてもらっていた。
日が暮れもう寝る時間になった、俺はそこそこ光っている魔法石に魔力を流す。
(今日こそは!)
魔法石はどんどん光っていき、ランド先生が見せてくれたように光るようになった。
(これで、やっと魔法を教えてもらえる!)
俺は明日からの鍛錬にワクワクしながら眠りについた。