177話 ☆3『魔王軍の拠点調査』④(墨)
「スクイーカがいた場所が今のところ一番怪しいし、すぐにギルドに戻って報告しよう」
「……そうだな」
俺たちが帰ろうとすると、ギルド職員が慌てて袋の中身を確認している、そして肩を落として落ち込んでいるようだ。
「すみません、どうやらあそこで集めた水の入ったビンを落としてしまったようです。私たちはそれを回収しに向かいますので、私たちのことは気にせずギルドに向かってください」
「あそこに戻る気ですか!」
「落とした場所はおそらく入口近くのはずです、そこになければ諦めて帰ります」
「スクイーカを倒せる冒険者を連れてきてからじゃダメなんですか?」
「その方が安全ですけど、数日ほど調査報告が遅れてしまいます。ここはリスクを覚悟で回収しに向かうときなのです」
ギルド職員たちは覚悟を決めた目をしている、俺は少し考えた後、こういう危険なことは冒険者がやるべきだろうと思った、だからギルド職員にそのことを伝える。
「じゃあ俺が回収に向かいます、危険な役回りは冒険者がやるべきだと思います」
「……シンが行くなら俺たちも行こう、人が多いほどヘイトを分散させられる」
「私も行きますわ! またシンくんが動けなくなってもここまで運びますわ」
「僕も行くよ、今度は怪我をするかも知れないから、回復魔法を使える僕が何とかしないとね」
ハクやユカリやアオも付いてきてくれるようだ。
「助かります」
俺たちはギルド職員を橋に残して、ギルド職員が落とした水の入ったビンの回収に向かった。
ギルド職員が見えなくなるくらいまで先に進んだところで、俺とアオは魔法を唱える。
「『パンプア』!」
「『アームクルド』!」
俺は4回『パンプア』を使い、アオは1回『アームクルド』を使ってみんなにバフをかけて、力と守りを強化した。
「これで準備は大丈夫かな?」
「まだだよシンくん。『ヒール』!」
アオは俺に『ヒール』を使って回復をする。
「これで傷ついた加護も治ったから大丈夫!」
「ありがとう」
こうして準備万端になった俺たちは奥に進む。そして辿り着いた俺たちは、岩陰から様子を見る。
「スクイーカはいないみたいだね、ビンはどこにあるんだ? あっ、あった! でも割れている……」
ビンは砕けていて中の水が地面に散らばっているようだった。
「僕たちを追いかけていた触手が、ビンに当たっちゃったんだろうね」
「……ビンが割れている以上回収なんてできないぞ」
「いや、まだ割れていないビンがあるかも知れない」
俺は目を凝らして探すが、割れていないビンは見つからなかった。
「……もういいだろう、ギルド職員には全部割れていて回収できなかったと伝えよう……ん? あれは……」
ハクが見ている先を見つめると、キラリと光る何かがあった。ランタンでその周辺を照らすと、割れていないビンが壁際に落ちていた。
「ビンがあった! きっと運よく割れずに飛ばされたんだ。回収してくるからみんなはここで待っていて」
「回収は私がしますわ。私がこの中で一番早く動けますので、私にやらせて欲しいですわ」
「ユカリが……うん、じゃあ頼んだよユカリ!」
ユカリは持っていたランタンを俺たちに預けて、足音を立てないように『フライ』で空中を移動しながらビンに近づいて行く。
そしてビンを回収して俺たちの所に戻ろうとした時に、水面からスクイーカが顔を出した。
「大丈夫! 触手がまだ出てないから急いで戻ってくれば逃げられる!」
俺がそう叫ぶと、ユカリも全速力で空中を蹴り移動する。
スクイーカは触手が間に合わないと判断して、口をこちらに向けると、墨を吐き出した。
範囲が広いうえに、周りを隠しているので、洞窟内の光を遮ってしまう。
入口付近で待っていた俺たちにも少しだけ墨がかかった。問題はランタンの方で、ランタンにも墨がかかってしまい、一気に洞窟内が暗くなってしまう。
「何も見えませんわ!」
ユカリの焦った声が聞こえる、急いでランタンに付いた墨を落とそうとするが、墨が乾いてランタンの表面に張り付き、汚れが落とせなくなっていた。
俺はランタンの明かりを消して、『ウオーター』を使い乾いた墨を濡らす。そうすることで張り付いた墨が剥がれて、ランタンを綺麗にすることができた。
「ユカリこっちだ! 光がある方に来て!」
俺はランタンの明かりを点けてユカリを誘導する。
ユカリは地面に突撃しながらも、何とか俺たちの所まで帰ってくることができた。だがその衝撃でユカリは気絶をしたようだ。
地面に倒れているユカリを俺は背負い、アオにユカリの背中を押さえてもらってユカリが落ちないようにしてもらいながらこの場から逃げる。
「スクイーカは追ってきている?」
「今のところ追ってきている気配はないよ!」
「……まだこの場所はスクイーカの攻撃範囲内だ、もっと逃げるぞ」
その後、スクイーカからの攻撃はなく、逃げ切ることができた。
橋の方まで来るとギルド職員が俺たちの姿を見て驚く。何で驚いているのか分からずにアオやハクを見ると俺も驚いた。
体中が墨で黒くなっていたのだ。ユカリは俺たちよりも墨を受けていたのでもっと酷かった。
「うぅ……」
「ユカリ、意識が戻ったんだね」
俺はユカリを背中から降ろす。ユカリは俺やアオを支えに使って立っていると、次第に回復してきて自分だけで立てるようになった。
「シンくんアオくん、ありがとうですわ」
「それで、水の入ったビンは……」
ギルド職員がそう言うと、ユカリは袋から水の入ったビンを取り出した。それをギルド職員が受け取る。
「ありがとうございます。これで私たちもちゃんとした調査報告ができそうです。それではここに用は無くなったので帰りましょう……と、その前に」
ギルド職員は布を使って、俺たちの身体に付いた墨を拭いてくれた。
「これで多少の汚れは落とせました。拭き残しの掃除は街に帰ってからにしましょう」
「そうですね」
俺たちが帰ろうとすると、急に身体が怠くなり動きが鈍くなった。それは俺だけでなく、アオやハクも同じようだ。
「みんなどうしたのですわ!?」
ユカリが慌てている。俺たちも原因不明の怠さが分からずに混乱しているところだ。
「これは……スクイーカの墨にやられたようですね、水属性の攻撃を受けたときに起こる症状に似ています」
「水属性ですか……だからユカリだけ無事なんですね」
「あっ、私のインナーは水属性に耐性があるから大丈夫だったのですわね」
俺とユカリはこの状況に納得した。
「このままじゃ帰れそうにないですね。症状が回復するまで待ちながら、服を脱いで汚れを落としましょう」
そうギルド職員に言われ、俺とアオとハクは服を脱がされて、服の内側に隠れていた身体を布で拭かれるのであった。
帰ろうとしたら、ギルド職員が調査として集めた水の入ったビンを落としたようだ。回収するために戻ろうとしたので、俺たち冒険者が回収するということになった。
ビンは割れていて、回収ができないと思っていたら、壁際に無事な水入りのビンがあった。それをユカリが回収しているとスクイーカが水面から顔を出して、墨を吐いてきた。
全員墨で汚れ、ランタンにも墨がかかり、洞窟内が一気に暗くなった。
『ウォーター』を使い、ランタンに付いた墨の汚れを落として、ユカリを光のある方に誘導する。
ユカリは地面にぶつかりながらも俺たちの所に辿り着くが気絶してしまったので、俺たちでユカリを運んだ。
橋まで戻ってきて、ユカリも意識を取り戻し、ギルド職員に水の入ったビンを渡す。
帰ろうとすると俺とアオとハクは急に身体が怠くなり動きが鈍くなった。原因はスクイーカの墨による水属性の攻撃によるものだったようだ。
俺たちは服を脱がされ、ギルド職員に身体を拭かれるのであった。




